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より道のススメ | 福岡編

極彩色のショッピングモール「キャナルシティ博多」

VOLUME.5

世界中のさまざまなカルチャーが交わる福岡のセレクトショップDice&Diceで店長を務める藤雄紀さん。
このエリアを一緒に盛り上げていこうと、地域とのつながりを大切にしてきました。
個性的なキャラクターの先輩に教えてもらった穴場のお店から、初めて福岡を訪れる方にお勧めしたい名店まで、
藤さんが愛してやまないより道スポットを紹介していきます。

Text by Yuki To (ANGLOBAL)
Edit by Yoshikatsu Yamato (kontakt)

福岡は博多にあるショッピングモール、キャナルシティ博多には、「スターコート」という噴水広場があります。その噴水は、放心円状に並ぶ噴射口から、心地よい音を立てて子供の背丈ぐらいの高さまでリズミカルに水玉を噴射します。フロアと地続きなので、直接水に触れることができ、幼き頃の自分は強烈に惹きつけられました。僕はなんの躊躇もなく興味の向くままに、その噴水の上に立ちました。僕は、噴射される水玉をひとつ残らず全て踏みつけたい、という気持ちに駆られ、一心不乱に足を動かしました。

小学校低学年なりに頭を使い、噴射される規則性を読んでは、水玉を待ち伏せをする方法も考えました。しばらくすると、突如として水玉が止まり、装置は中央の星型のモチーフから、プシャーと白い霧状の水を出し始めます。ふと我に帰った僕は、母親と一緒にいたことを思い出し、その姿を探して周囲を見渡しました。やっとのことで遠巻きに母親の姿を見つけましたが、母親はなにかを叫びながら、僕に向かって激しく手招きをしています。その時にやっと、僕は自分の服がずぶ濡れになっていることに気がつきました。これが、僕のいちばん古いキャナルシティの記憶です。

キャナルシティ博多は1996年に開業したショッピングモールです。福岡の有名な歓楽街である中洲のすぐ近く、川端商店街の東側に位置しています。開業当時、僕は小学校に上がったばかりで、頻繁に母親に連れられてキャナルシティへ遊びに行っていました。その頃は、現在福岡にある他のショッピングモール(マリノアシティやイオンモール福岡)はまだなく、子供連れで買い物に出かけるとなると、自然とキャナルシティが選択肢にあがったのでしょう。

「ショッピングモール」と聞くと、ガラス貼りで天井の開けたアーケードや、吹き抜けになっていて開放感のあるエスカレーターホール、子供連れに嬉しいフードコートなどを連想するかと思いますが、キャナルシティは、そうした普通のショッピングモールとはひと味違います。

建築デザインは、アメリカの建築家、ジョン・ジャーディによるもので、彼は、ロサンゼルスオリンピックの都市計画や、アメリカ最大級のショッピングモール「モール・オブ・アメリカ」、オーシャンズ11が盗みに入ったラスベガスのカジノホテル「ベラージオ」、日本では「六本木ヒルズ」などを手掛けた建築家です。キャナルシティの中には全長約180mの運河が流れており、それに沿って歩いていくと、自然の形態をモチーフにしたデザインの空間から、徐々に現代的なデザインへ、建築の意匠が変化するように設計されています。

通路は曲がりくねっていて、不規則にエスカレーターや階段が設置され、建物を彩るカラフルな色彩は、実は日本の着物などから着想を得た伝統的な色使いになっています。有機的なものと無機的なものが混在する空間は、まるで夢の中のようで、そんなキャナルシティの独特な雰囲気は、幼い頃の僕にとって、楽しくもあり、そして同時に恐ろしくもある場所でした。

僕が小学校高学年になった頃、『マトリックス』という映画が公開されます。ご存知の通り、斬新な映像表現で、たいへん話題となった作品です。例に漏れず、僕も家族に連れられて映画館へ観に行った記憶がありますが、マトリックスのディストピア的な世界観は、小学生の僕にはちょっと早かったようで、正直とても恐かったです。でも僕は、昔から、この不気味で恐い世界のことを知っていました。実はそれはキャナルシティの中にありました。それは、キャナルシティのクリスタルキャニオンというエリアでした。

地下1階から地上4階までが、ガラス貼りの吹き抜けになった空間です。吹き抜けが普通そうであるような、明るい印象ではありません。そしてそのクリスタルキャニオンの壁面には、縦10台、横18台、計180台ものブラウン管テレビが、壁を埋め尽くすように整然と設置されています。そのテレビの画面には、イメージの断片のような、抽象的な映像が絶え間なく映し出されており、その原色の光が、クリスタルキャニオンの薄暗い空間を照らしています。

このブラウン管テレビの集合体は、ヴィデオアートの巨匠、ナム・ジュン・パイクが手掛けた芸術作品で、国内にある彼の常設作品の中では、最大のものです。薄暗い空間に浮かぶ無数のブラウン管テレビと、そこに音もなく流れる映像。幼い僕に、恐怖を植え付けるには十分でした。中学生になる頃まで、マトリックスとこのブラウン管テレビの集合体は、僕にとって強く印象に残るものとなりました。

中学、高校と、次第にキャナルシティに行く機会は減っていきました。家族と行動を共にすることも少なくなり、友達と買い物に出かける際は、専ら天神に行くようになりました。キャナルシティは、家族連れや若年層のお客さんで賑わうショッピングモールという印象に変わってしまい、再び僕がキャナルシティの魅力を発見し、よく行くようになったのは、つい最近のことです。

休日のある日、暇を持て余していた僕は、川端商店街に出かけることにしました。川端商店街は、福岡でも比較的活気のある商店街で、昔ながらのお店も健在です。ただ歩くだけでも楽しめるので、暇な時はたまに散策しに行くのです。ひと通り川端商店街を歩いた後、まだ時間に余裕があったので、久々にキャナルシティにも寄ってみることにしました。キャナルシティは、川端商店街に隣接しており、連絡通路で直接入ることができます。その日は散策が目的だったので、商店街を見て回る要領で、ぶらぶらと歩き回ってみることにしました。

大人になって初めてゆっくり歩くキャナルシティは、ずいぶん趣がありました。曲がりくねった通路は、簡単に先が見渡せないので、ずっと興味が持続します。まるで山のなかの小道を歩いているような感覚です。床や天井などをよく見ると、タイルや金属、直線や曲線が入り混じった手の込んだデザインで、見るものを飽きさせません。

建物中央の半円にえぐれたような場所は、それ自体の形状も面白いのですが、実用性も兼ねており、地下一階の運河に張り出たステージと、その後ろの噴水を色々な角度から見るための観覧席の役割を果たしています。ここから見える噴水は、幼い頃僕が遊んでいた噴水とは別の巨大な噴水で、30分に1回噴水ショーが行われます。

幼い僕が母親に叱られたスターコートの噴水も、変わらず子供達に大人気。ひとつ残念だったのは、ナム・ジュン・パイクの作品である、ブラウン管テレビです。どうやらブラウン管のテレビには寿命があるらしく、もうほとんどのブラウン管テレビが映らなくなってしまっていました。幼い頃は恐い思いをしていましたが、もう見れないとなると寂しいものです。

久しいぶりにキャナルシティを訪れたこの日からというもの、川端商店街からのキャナルシティという散歩コースは、僕の定番となりました。

旅の目的として、旅先の名作建築を巡ることを楽しみにしている方も多いと思います。しかし、僕の調べた限りでは、キャナルシティをそういった視点で紹介している記事はそれほど多くありません。でも、よくよく考えてみると、福岡の他のどんな建築よりも、キャナルシティは異質で、建築作品としての見応えがあると思います。散歩をして、噴水ショーを楽しんで、現代美術の大作を拝むこともできます。聞いた話では、ナム・ジュン・パイクの例の作品は、今ブラウン管テレビを全て新しいものに入れ換えて復活するらしく、そこに光が映される姿を、もうそろそろ見ることが出来るかもしれません。皆さんも是非、ショッピングをするだけでなく、建築としての見どころがあり、インパクトのある美術作品も楽しめるエンターテイメント施設として、キャナルシティに行ってみてはいかがでしょうか。

  • キャナルシティ博多

    福岡県福岡市博多区住吉1丁目2

    情報サービスセンター TEL 092-282-2525

    ショップ 10:0021:00

    レストラン 11:0023:00

    年中無休

    但し、店舗によりまして営業時間が異なる場合がございます。

    詳しくはHPをご覧ください。

  • 藤雄紀

    22歳でダイスアンドダイスに入社。個性的な先輩たちに揉まれて20代を過ごし、

    現在は頼れる店長としてスタッフから慕われる存在に。趣味はサーフィンと読書で、

    友人と文芸同人誌を自費出版し、福岡の文学系イベントで販売も行う。

    また最近キャンプを始め、多方面に手を伸ばしながら才能花開くフィールドを模索している。