#STORY#quitan

はじめまして、quitanです。

「旅」の記録としてのロゴデザイン

VOLUME.6

この夏、アングローバルに誕生した新ブランド「quitan(キタン)」。
本連載ではそのデビューまでの道のりをお届けしています。
今回は、デザイナーの宮田紗枝さんとともに「紙事(かみごと)」の渡邉絢さんを訪ね、
quitanのロゴ制作の裏側についてお話を伺いました。

Interview by Juli Yashima
Photogtaphy by Hiroyuki Matsubara

宮田さんと紙事さんの出会いとは?

M 新しいブランドを始めることになり、ロゴをどうしようかなと考えたときにすぐに浮かんだのが紙事さんでした。SNSなどを通じて「紙」と「文字」を主体とした独特な活動を拝見していて、その視点がquitanを新しい世界に導いてくれるかもしれないと感じていたので相談してみようと。まったくの”初めまして だったのですが、快く引き受けてくださったんです。

W 本当に丁寧なご依頼を頂いたことが印象に残っています。そしてアトリエに来てくださって、これから始まろうとしているブランドのことを説明してくれました。

M あのときはまだブランド名も決まっていなかったので、行き着くところも見えていないまま、まずは頭の中にある思いをいろいろとお伝えしてしまいました。

W 実はそれが良かったと思っているんです。私の役目は紙と文字というツールを通して、その方がまだ気づいていない新しい世界をご案内することなので、イメージが固まる前の段階から一緒に歩めることはとても嬉しいことで。ご連絡をいただいたときも、これはすごくいい交わり合いになると直感で感じました。

quitanのロゴはどのように制作されたのでしょうか?

W これは私の場合ですが、ブランドのロゴを作る際はそのブランドの筆跡を再現することを考えます。その人はどういう性格で、どんな服を着ていて、どんな夢を持って、どんな未来を描いているのか......。そういったことを発掘してロゴの線に落とし込みます。今回は、紗枝さんのお話の中で「quitanは文化の交歓の記録」という言葉が印象に残ったので、そこからふくらませていきました。

M quitanがたどる「旅」を表現してくださったんですよね。

W そうなんです。旅ではいろんな場所に行って、いろんなことに遭遇します。その中にはアクシデントもあるかもしれないけれど、すっごくいい出会いに巡り会えたりしますよね。そういうquitanがこれからの旅の中で体験することをまるっと表現できるロゴにしたいと思いました。

M すごくいい気持ちになって盛り上がったり、残念なことを前にして落ち込んだりもする。人生のバロメーターのような動きも、線の上昇と下降やリズムとして表現してくださいました。たとえばこれ(※)はデザインの過程で出た案の1つですが、太くて勢いがあるので、きっとすごく激しい人生なんだろうなって想像できますよね。

W そうそう! ちょっと奔放な旅になりそう。

(※)左端の太く勢いのあるロゴの案。

W こんなふうにquitanがたどるであろう道を想像し、その線をベースにしながら、さらにquitanらしい要素を盛り込んでいきました。たとえばいろいろな国の違う文化をブリコラージュしていくことです。

M 「ブリコラージュ」はフランス語で寄せ集めや日曜大工を意味するのですが、有り合わせのもので当面必要な道具を作ることを指し、quitanでも大切にしている思想です。絢さんはこの思想をquitanらしさの1つとしてロゴに落とし込んでくださいました。

W quitanは日本語の「綺譚」という言葉から生まれていますが、表記ではアルファベットを使っています。ここですでにブリコラージュが起こっていますが、書き方にも違う要素をいれられないかと思い、アラビア文字に倣って右から左へ書くことにしました。

M 私たちは普段左から右に書くし、紙事さん自身も慣れていない書き方なので、思わぬ方向に線が行ったりするんですよね。

W 「quitan」の「n」も、普段ではこんな字にはならないのに! という瞬間があって、いつもなら行かないはずの道にたどり着いてしまうんです。でもこれってquitanが目指している世界でもあるなと思って、quitanと出会う皆さんの旅が想像もしていないところへ行き着く願いを込めて、この手法を選びました。

―偶然の出会いや発見を楽しんでいくような。

W はい。そして右から左に書くという方法でとにかく膨大な量のロゴを書き終えたとき、もう一度quitanの哲学に戻ったんです。よりquitanらしくしたいと思い、私が書いた文字をさらにグラフィックデザイナーにブリコラージュしてもらいました。たくさん書いたいろいろな「quitan」の文字をパーツとして持ち寄って、彼の思うquitanのバランスで私の文字を再構築してくれました。これによって、最後は私の字でもなくなり、quitanの筆跡へといよいよ変化した瞬間でした。

仕上がった「quitan」のロゴ

できあがったロゴの印象はどうでしたか?

M 実はこのロゴ制作の相談ではひと言も「ブリコラージュしてほしい」という話はしていなかったにも関わらず、みなさんが実現してくださった世界観が見た目だけではなくその思考過程までピッタリだったので驚きました。 依頼したときには見えなかったものがたくさんあったのですが、それを皆で発見しながら、同じ道を一緒に歩んでくださった心地です。

今回は展示会に足を運べない方のために、素材に触れられるBOOK(LOOKの写真と服の素材を添えたもの)も一緒に作られたようですね。

W このBOOKを制作したいというお話を聞いたとき、ここでもブリコラージュをキーワードにできないかなと思ったんです。新しく材料を買って作ることはできますが、quitanという旅の中で急遽これが必要になったと考えたときに、今手元にある材料でこしらえるのがぴったりだと思い提案しました。旅先で、自分の作っているものを紹介する何かをあり合わせで大急ぎで作る、みたいな。

M 服作りでどうしても出てしまう布の残りと、紙事さんが持っていた紙を集めてできるものを作ったのがこれなんです。だからすべて手作りで1つずつ生地も形も違うんですが、それがいいねって。

1点1点違う形、違う生地を使って作られるBOOK。

M BOOKそのものは特別なことだとは思っていないのですが、手元にある材料で身軽に作るということにはこだわりました。quitanのコレクションが1つの旅だとしたら、その旅の思い出を集めたようなものにしたい。たとえば、博物館で展示を見たときにもう1回行った気持ちになれるようなパンフレットの要素を盛り込めみたいと思いました。

BOOKにはそれぞれの服がどんな視点で作られているのかが書かれている。

手元にある材料で1点1点手作りというのは、quitanが大切にするサスティナビリティや人のぬくもりにつながりますね。

M 私は特定の家族や友人など、顔の見える誰かのために服を作っていたときのものづくりの重さを忘れたくないと思っていて、そしてその匂いはものづくりの中で必ず残していく責任があると思っています。このBOOKはその意味でも手仕事が見える形にできたので、わかりやすいかもしれません。

W さらに、コレクションを重ねるたびにこれが1つずつ増えていって、旅の記録「綺譚集」になっていくのもいい流れだなと。

M 今後も服を作る過程でどうしても絶対に生地は生まれますし、その時々で余っている生地の分量も異なるので、そのときにできるものを作っていきたいですね。

最後に、この先一緒にやってみたいことがあれば教えてください。

M 私にとって紙事さんは旅仲間のような感覚なんです。それぞれ違う旅をしているんだけど、なにか困ったら合流して、情報交換したり、一緒にそこで何かつくったり。なので、この先も一緒に旅をしながら、その中で起こることに夢中になっていきたいです。

W 私も同じ感覚です。旅は道連れじゃないけど、ここから先の事は旅先の出会いのように、どこに行って、誰に会うかによって変わっていく気がします。おおらかに旅を楽しみ、その時々に必要なことをご一緒できればと思っています。

M きっかけは私からかもしれないし、紙事さんからかもしれないし、もしかしたらお客様からかもしれない。どんな出会いやハプニングがあっても楽しむ用意はできています。紙事さんが紙や文字によって新しい世界に連れて行ってくれるように、quitanは服を通してその役割を担っています。いろんな人のいろんな生活の可能性になっていったらいいなと思います。

【 quitanを示す7つのルール】

1. As universal as possible - 可能な限りユニバーサルであること

2. As ecological as possible - 可能な限り環境に、地球に、配慮されていること

3. There is always "something" inspired by tradition - 伝統から学ぶ「何か」があること

4. Well-placed production - 適材適所であること

5. Only the fabrics that I loved are chosen/woven - 私の愛した素材だけが使われている/作られていること

6. There is always "a color" for the season - 迎える季節には、いつも大切にしている一つの「色」がある

7. Supporting developments sustainably - 持続可能な支援を

  • 紙事(かみごと)

    紙を使ってあらゆる方法で、それぞれの持つまだ見ぬ景色を案内してみる紙の活動。
    一人一人に合わせて「文字を整える」ためのお稽古は順次開催中。
  • 宮田・ヴィクトリア・紗枝

    アメリカ・シアトル生まれ。quitanデザイナー。幼少の頃より多国籍な環境で遊牧民のように転々と暮らしの場を変えつつのびのびと育つ。大学を卒業後はファッションの現場でものづくりの経験を積み、2020年にアングローバル入社。2021年春夏よりユニセックスブランド「quitan」を展開する。