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わたしのマテリアルマニュアル

YLÈVEデザイナー 田口令子 | 2020年 冬編

VOLUME.1

伝統的な天然素材から日進月歩の化学繊維まで、
私たちの身の回りにはたくさんの種類の「素材」が存在します。
「衣服」としてそれらをみるとき、作り手はどのように素材と向き合い、デザインしているのでしょうか。
本連載ではアングローバルで活躍するさまざまなマテリアルマスターたちに、
その独自の素材術を聞いていこうと思います。
第1回は「YLÈVE」のデザイナー田口令子さんです。

Photography by YLÈVE
Edit by Soya Oikawa (ANGLOBAL)

「マテリアル」という視点でYLÈVE2020AWシーズンのコレクションを見ると、どのような傾向がありますか?

YLÈVEではずっと「天然原料」と「ハリ感」にこだわってきました。わたしはデザインのルーツを辿っていったところに軸足を置いてものづくりをするので、その意味で「天然原料」がベースなんです。もうひとつの「ハリ感」というのは生地ができあがったときのふくらみのこと。YLÈVEらしいシンプルなパターンの構造と、服と身体の間のゆとりを考えたときに、その生地が形づくるフォルムをとても大事にしています。

­―その二つが一貫してベースにあるのですね。

そうです。そうした素材への意識が基礎としてあって、ここ数シーズンでは、原料が持つ風合いやニュアンスをより活かそうとしていたり、見た目と触り心地のギャップを意識していたり。さらに今シーズンはこれまでよりも色を多用しています。

―アイテム別に見ていくとどうでしょうか。

風合いやニュアンスでわかりやすいところだと、ルックの最初に出てくるアルパカを使ったダイヤ柄のハンドニットです。アルパカは、加工によってはツヤを出せるしウールよりもナチュラルな風合いが出やすいのですが、今回は原料の持つ粗野感を活かしてローゲージでざっくり編むということをしました。

 それからリバーシブルウール。あえて甘く織って、最後に縮絨加工をすることで肉感や表情が不均一になります。これまでは高密度できれいに仕上がっている素材を使うことが多かったのですが、特に今シーズンは揺らぎがあるというか、ニュアンスのある素材が特徴と言えると思います。

「見た目と触り心地のギャップ」や「多色使い」という点ではどうでしょうか。

スラブウールのニットは、英国羊毛の野性味というか、ちょっとラフな感じの見た目なのですが、触れてみると軽く柔らかくて、ふくらみがあります。またこのシーズンの制作をしていたのがちょうど1年くらい前でして、ヨーロッパで建築や絵画を見て回る機会があったんです。その時に「幾何学」が印象に残りました。それがヒントになって、粗野な特徴を活かしつつグラフィカルなジグザグのケーブル編みにしています。

そしてカラーはビビッドなパープルを選びました。イギリスって、ときどきすごい鮮やかな制服とかユニフォームがあるじゃないですか。パープルのブレザーにイエローのパイピングがされていたり(笑)。トラッドベースの私にとっては、タータンチェックの鮮やかさなんかも「イギリスらしさ」なんですよね。そうふと思って差し色のアイテムにいいかなって。

他には超長綿を使ったコーデュロイもそうですね。一般的なコーディロイはもう少し地厚で硬さがあるのですが、それを超長綿の柔らかさを活かして薄い基布で畝を丸くしてあげると上品な印象が出ます。カジュアル過ぎずに大人の女性でも着られるコーデュロイが欲しかったんです。

—今シーズンはデンマークの「THE INOUE BROTHERS...」とストールを中心としたコラボレーションも行っていますね。

お仕事としてのきっかけは、ダイスアンドダイスのディレクターの吉田さんの紹介でしたが、もともと彼らの書いた『僕たちはファッションの力で世界を変える』という本を読んでいて、美しい意識で他者のために活動していて、かつ作るものも素晴らしいと思っていました。

ストールの素材にはアルパカが用いられています。

はい。全部ベビーアルパカです。カシミアとはまた違った光沢感があって毛玉にもなりにくくて、原料の持ち味が本当によく引き出されていると思います。ファッション産業に対する彼らのポジティブな考えも素晴らしいし、実際に南米でアルパカを飼育する方々の労働環境の改善に取り組みながらというエシカルなものづくりの背景もとても感動しました。YL­ÈVEのものづくりを通じてふと世界を見渡した時、深いところで彼らとつながっている気がするんです。

—深いところというと?

ファッションブランドという単位で「エシカル」とか「エコロジー」っていうスタイルを持つことも大切ですが、一人ひとりが個人として社会や消費についてどう考えているかっていうことが大事だと思います。その個人の視点に降りていってみると、「THE INOUE BROTHERS...」という活動は井上兄弟自身が世界に対して考えていることが、歪みなく表されていると思います。心の方が先というか、けっして簡単ではないのに素敵ですよね。

―個人として素材と向き合うことから。

そうですね。マテリアルに関して考えることは私の中にもいろいろとあるのだけれど、普段そこを深掘りして言語化することはないので今日はおもしろかったです。どのような向き合い方で素材やものがつくられているのかを知ることはとても意義があると思います。

―また次のシーズンもぜひよろしくお願いします。

はい。ありがとうございました。

  • 田口令子

    2018年春夏シーズンよりYLÈVEをスタート。自身の身の回りの人が日常に着られる質の良いもの、という視点からシンプルでありながら素材や仕様にこだわった「余白のある服」を展開。