自然がもたらす小さな発見と大きな面白味-アングローバル メンバーズと訪れたmitosaya薬草園蒸留所- ウラカタログ
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ウラカタログ

自然がもたらす小さな発見と大きな面白味-アングローバル メンバーズと訪れたmitosaya薬草園蒸留所-

VOLUME.2

普段目にすることない側面にフォーカスして日々のなかで考えるきっかけを探していく「ウラカタログ」。
第2回はアングローバルメンバーズへのイベントが開催された千葉県大多喜町にある
「mitosaya薬草園蒸留所」の代表をつとめる蒸留家・江口宏志さんの特異な感覚について。

Text by Soya Oikawa (ANGLOBAL)
Photography by Shinnosuke Yoshimori
Edit by Yoshikatsu Yamato (kontakt)

今回、アングローバルメンバーズ会員の方へ向けたワークショップに協力いただいた「mitosaya薬草園蒸留所」の代表である江口宏志さんは、ユニークな経歴の持ち主である。蒸留家に転身して活躍される前は、書店主としてUTRECHT(ユトレヒト)という国内外のアーティストやインディペンデントな出版社の書籍を扱う書店を営み、また、日本最大級のアートブックフェア「TOKYO ART BOOK FAIR」を立ち上げるなど、マイナーだが個性豊かなパブリッシャーや作家たちを紹介する機会をつくっては、今日のブックカルチャーに大きく貢献してきた。

そんな江口さんは3年ほどまえ、書店をスタッフへと引き継ぎ、一念発起して蒸留家へ転身。ドイツに渡って蒸留家クリストフ・ケラー氏のもとでノウハウを学び、帰国後、千葉県南部の大多喜町でひっそりと閉園していた薬草園を見つけると、約2年の改修を経て、蒸留所として再生させた。

江口さんは言う。「薬用植物を、体に作用するものとして広く捉えてみましょう」。それぞれに、独特な香りや効能があり、古くから医療をはじめ嗜好品としても人々との関係を持ってきた草木。また、同じく古くから、知恵や芸術の継承はもちろん、ふとリラックスしたいとき、なにか新鮮な感覚に出会いたいときに人が手を伸ばす書物。どちらも、僕たちに影響をあたえ、生きる上で欠かせないものだ。

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そんな二つのものに深く関わってきた江口さんと「蒸留酒が作られる場所」は、「生活の補助線」をテーマとしてメンバーズ会員へ体験型のサービス施策を考えていたアングローバルにとって、とても魅力的であった。江口さんから繰り出されるユーモア溢れる知見も期待できるとなればなおのこと、ぜひ一緒に企画を立てたい。

これまでにも、江口さんとは何度かお仕事をお願いさせて頂いてきた経緯がある。このANCM(ANGLOBAL COMMUNITY MART)の原点である2012年のMHL COMMUNITY MARTへの出店や、MARGARET HOWELLのウェブサイトに掲載されたコラムにご夫婦で登場して頂いたり。そのたびに江口さんは、周囲の期待値をかろやかに超えたユーモアと知見を披露してくださっていた。

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「お客様に向けて蒸留所ツアーを行いたい」と相談に伺ったのは2019年1月のこと。まだ施設は工事中で、mitosaya薬草園蒸留所としてもその段階ではまだ一度も開催したことのない企画ではあったが、快く受けてくださった。当日の朝まで降り続けた雨も奇跡的に上がり、10時半の開園時間に向けてスタッフ総出で準備が進んだ。

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まず最初に、蒸留施設について江口さんから案内を受けた。エントランスをくぐると、先代から受け継いだ貴重な標本サンプルや、ハーブや果物のなんともいえない豊かな香りが来客を出迎える。半円アーチの可愛らしい扉が4つ。お酒つくりの工程がそれぞれの部屋ごとに分けられ、この建物全体で出荷できる状態までが完結するように設計されている。

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さまざまな大きさのタンクでは、地元農家さんから仕入れる旬の素材の発酵がすすむ

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発酵や漬け込みを終えるとドイツ製の蒸留機へ

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匂いを混じりっけなく保存するガラス容器で静かに熟成がすすみ、香りはまろやかに

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瓶詰めやこだわりのパッケージングも手作業で行われる

ツアーのメインプログラムである「ノンアルコールジン作り」のワークショップでは、農大学院生の山口さんがサポートにまわってくださった。朴訥なキャラクターで博識を披露し、なごやかな雰囲気のなか、ジン作りの一連の流れについてレクチャーを行ってくれた。

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一行は朝の雨粒がきらきらとかがやく植物の生い茂っている野外へと、蒸留につかうハーブや果物を取りに出る。江口さんと山口さんによる、植物への愛に溢れたガイドに耳を傾けながら、全体で500種類もあるという薬草植物のいくつかを自分の手で摘みとり、そっと鼻に近づけ、自分の知っているものの香りに喩えたり、自然がもたらす豊かな迫力に驚いたりと盛り上がった。

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園内を歩きながら個性あふれる植物の生命を感じつつ、お二人が添えてくださる知識がそこに新鮮な視点を与える。あっという間に素材は集まり、蒸留作業を担当する山口さんに手渡される。「ラベンダーやローズマリー、パイナップルセージとニッケイ、さらにはフェンネルとフクレミカン。すごく盛りだくさんです。濃厚なノンアルコールジンが出来ると思いますよ」。

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ツアーの裏では、MARGARET HOWELL CAFEチームがランチの用意。フムスサンドウィッチとポーク、スウィートポテトのサンドウィッチに、キドニービーンズやローズマリーのスープを加えた特製のランチセット。準備の様子を見に行くと、江口さんの奥さまでありイラストレーターの山本祐布子さんも料理に参加してくださっていた。

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1時間ほどかかる蒸留が終わるのを、楽しみに待ちながらのランチタイムとなった。緑に囲まれた大きな円卓に座る。参加してくださった方々の顔がお互いよく見える。円卓は、ゆるやかな一体感を生み出す不思議なテーブルだ。最近このmitosayaにやってきたばかりだという子犬のムギちゃんは、おこぼれを狙って元気に走り回っていた。

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昼食後は温室に移動して完成したノンアルコールジンとの対面を待つことに

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山口さんが、できたてのノンアルコールジンを持ってきてくれて、一行はグラスを手にとりあい、感想を交わす。さっき自ら嗅いだ植物のをその味に探したり、強い個性たちがふしぎに調和した香りに感動を覚えたり。

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参加者の皆さんの前に山口さんが瓶詰めをしてくれた綺麗なボトルたちが並び出されると、「自分で書いてみるときっと思い出になりますよ」との江口さんの発案で、ペンとオリジナルラベルが配られ、参加してくださった方一人ひとりが、思い思いにボトルに命名をした。その時間は、普段考えることのなかったいろいろなことを知り、さまざまな考えをめぐらせた映画のエンドクレジットを見ているときのような、充実した気持ちに似ていた。

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mitosaya薬草園蒸留所は「自然からの小さな発見を形にすること」をテーマにしている。それは、ここで作られるオー・ドー・ビーの製造にまつわる発見でもあれば、豊かな森林に囲まれた暮らしのなかでの発見でもある。

降っている雨そのものではなく、さっきまで降っていた雨が残した雫。たわわに実った果実の香りそのものではなくて、その香りに誘われてやってきた鳥や昆虫たちの表情。ことの大小のあいだ、ものごとの前後に「発見」は潜んでいる。一日として同じ日はない自然との共生のなかで、日々起こるささやかな変化を見つけては、そのつど面白がって新たな関係を築こうとする蒸留家の江口さん。

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僕たちの日常には、どれほど小さな発見があるだろう。帰宅途中の電車の窓に映る自分から、窓の向こうにピントを遠くずらせば、市街の明かりの向こうにそれまではまるで気がつかなかった三日月が見えるのだった。

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  • mitosaya薬草園蒸留所

    〒298-0216 千葉県夷隅郡大多喜町大多喜486

    TEL 0470-64-6041

    MAIL info@mitosaya.com