#STORY#quitan

はじめまして、quitanです。

古くて新しい「カテリーナ古楽合奏団」を訪ねて

VOLUME.7

昨年、あたらしくアングローバルに誕生したブランド「quitan(キタン)」。
コンセプトの設計からロゴデザイン、初の展示会の様子などさまざまな角度からデビューまでの道のりをお届けしてきました。
最終回となる今回は、デザイナーの宮田紗枝さんが「quitan」の活動を通じて強く関心を寄せているという
「カテリーナ古楽合奏団」を訪ね、代表の松本雅隆さんに「古楽」の魅力についてお話を伺います。

Interview by Juli Yashima
Photography by Shinnosuke Yoshimori

きっと誰もが記憶のどこかで触れたことがあるような、遠いむかしから今も流れるやさしい音とメロディ。東京・立川市を拠点に活動する「カテリーナ古楽合奏団」は、古楽器奏者の松本雅隆さんによって1973年に創設されました。主に中世からルネサンス時代のヨーロッパの音楽をルーツとしながら、復元された古楽器や世界の民族楽器、またロバの音楽座として子供達と一緒に作る空想楽器などを用いて、聴く者の心がポカポカしてくるような音楽活動を続けています。

古楽との出会い

宮田 もともとは趣味で習っていたチェロの先生がバロックチェロ奏者で、日々の会話のなかで「古楽」に出会いました。

ちょうどquitanのファーストコレクションのデザインを進めていた時期で、古楽とquitanの衣服の考え方はそう離れていないのかもしれないと感じ、もっと知りたくなって調べていったところで「カテリーナ古楽合奏団」にたどり着いたんです。

https://youtu.be/9hhMVE-4NDI

松本 それはうれしいですね。ありがとうございます。古楽器は“古い楽器”と書き表され、伝統楽器や民族楽器などを総じて古楽器と呼びます。その中で私たちが扱っている楽器は、バロック以前の中世・ルネサンス時代の楽器でとても古いものです。

その時代の楽器は現存するものがきわめて少なく、現代の古楽器の製作家は絵画の中に描かれた楽器を見ながら復元することもよくあります。かつてはわたしも作っていたのですが、現在は演奏をメインにしています。

カテリーナ古楽合奏団が拠点としているロバハウス。

おとぎ話に出てきそうな不思議な屋内にはいたるところにかわいい「ロバ」が。

ホールの壁には世界中から集められた古楽器などがずらりと並ぶ。

宮田 先日、こちらのホールで行われた音楽会で実際の演奏を聴かせていただいたのですが、古楽器は近代の楽器ほど大きな音が出ないので、小さな子供も一生懸命聴いている姿が印象的でした。

松本 私にとっては古楽を知らない方にどんな印象を持たれるかというのも楽しみのひとつなんです。「東南アジアの音楽のように聴こえる」「いやちょっと違うぞ」など、反応はさまざまです。子供たちも大人に混じって同じように夢中になって聴いてくれます。きっと先入観がないから新鮮に楽しめるのでしょうね。

想像を巡らすことから

宮田 わかります。私も気がついたら子供たちと一緒に歌っていたのを覚えているのですが、みなさんの音楽はどんな過程を経て作られているのですか?

松本 「今」というのはどこかと繋がっているので、その繋がりを手繰り寄せていく感じですね。たとえば中世の素朴なメロディの断片を繰り返し演奏しながら、それに即興演奏などの遊びを加えることでだんだん音楽が生まれて来ます。決して今流に作ろうということは考えないですね。きっとむかしの人のほうがおもしろいことをやっていたはずだというのが前提にあって「この音とこの音の間でもっと遊んだだろう」とか、「ここでもっと衝撃的な音を加えただろう」とか当時の音の風景を想像して遊びながら作っています。

宮田 私も布からいろんな想像をします。最初のきっかけとなるのは、古い資料やむかしの服の組み立て方、染色などですが、そこには必ずと言っていいほど解けない謎があるんです。

たとえば今日着ている服は中国の「ハニ族」という山岳民族の衣装なんですが、なぜか何枚も重ねて着るんです。なんでそんなに重ねたんだろうと、理由が解らないととても不思議に思えますよね。諸説ある中で「自分は豊かだぞ」ということを表現するためだと言われているんですが、quitanの服作りにはそういった想像を繋ぎ合わせて私の解釈を織り交ぜていくような側面があります。松本さんがおっしゃるような“遊び”と近いことをしているんじゃないかなって思いました。

松本 とても似ていますね。私たちカテリーナ古楽合奏団の音楽はオリジナルでも古楽のアレンジでもなく、当時の音楽を想像して手繰り寄せて再解釈しているという感覚が近いんです。

宮田 民族衣装というのはすごく不思議で、全然違う国なのに同じような作りの衣服が存在していたりするんです。それを辿っていくと、たとえば四角い布を無駄なく始末よく使っていくという考え方が世界で同時に、多発的に起こっていたことがわかります。

こういった学びを私なりに解釈して表現していくことができたら、ものづくりにも深みが出るのかなと思っています。さまざまな民族のことを想像したり、調べたりする方が企画する時間よりも長くなってしまうこともしばしばありますが(笑)、こんな風にそれぞれの土地に根付く暮らしを知ることって、その先の未来を考えていく上で必要なんだなって感じています。

松本 そうですよね。歴史的な勉強も大切ですが、自然の音に耳を澄ましたり、いろんな国を歩いてみたりしていると、今がどこかと繋がっていることがよく見えて来ますね。

身近なくらしの中に

松本 私はルネサンス時代のフランドル地方の画家ブリューゲルが大好きなんです。古楽器がよく描かれているということもあるのですが、木陰で老いも若きも流れ者も、みんなが寄り添って手と手を繋いで踊ったり、食事をしたり、そんな村の風景がとてもいいなあと思うんです。私が古楽器を演奏している先に描いている理想は、あの絵に描かれているような風景に戻りたいという願望かもしれません。

宮田 私もたまたま服というものを通して表現をしていますが、目指したい世界は同じように思います。世界の文化を知ってもらうとか、認め合うこととか。いろんな違いを持った人が共存する世界があればいいなって思っています。

もっと早く古楽器に出会っていたら、私も古楽器の演奏を通じて表現していたかもしれないですね(笑)。そう思わせてくれるくらいカテリーナ古楽合奏団のコンサートはとても楽しいので、ぜひ多くの方に足を運んでみていただきたいと思うのですが、一方で実は私、クラシックのコンサートにはとてもラフな格好で行くことにしているんです。

松本 それはなぜですか?

宮田 松本さんがお話してくださったように、知れば知るほど、当時の音楽は生活に近かったんじゃないかなって思うようになったからなんです。だから普段着る服で行こうかなと。

松本 たしかに、生活に身近という意味では私たちのコンサートに来る人もラフな感じの方が多い気がします。宮田さんが言うように、音楽は特別なものではないと思うんです。音楽は難しいとか、自分は歌が下手だとか言う方もいますが、そんなことはないです。誰でも音楽を持っている。自分を活かせる音楽や楽器を見つけるといいと思う。むかしにはきっといろいろあったはずです。古楽器を通してその辺りをもっと掘り起こしていきたいなと思っています。

宮田 クラシック音楽をもっと素朴に捉えてみるのはおもしろそうですね。quitanの服でも、体型や年齢や性別といったことにあまり囚われないようにしていて、誰にとっても日常のくらしの中に自然とあるものだといいなと思います。

ロバハウスに隣接した「空想音楽博物館」。

子供たちと一緒に作ったさまざまな空想楽器が展示されている。

松本 私たちはヨーロッパで演奏しているわけではなく、湿気の多い日本で演奏している訳で、日本の風土や言語に合うリズム感を大切にしています。ヨーロッパの音楽でありながらがら、いかに自分たちの音とミックスして表せるかということを、いつも考えていますね。

宮田 私はこれまでにいろんな土地を訪れて、見たこと、感じたこと、学んだことを表現しているので、そこにはそれぞれの土地への私なりの解釈がきっと入っています。世界中にある文化や暮らしの知恵をもっと拾って、再現ではなく自分なりの解釈として形にしたい。それが今の私を通した衣服の解釈という表現の仕方なのかなって思うんです。

松本 私は古楽に触れ始めた50年ほど前から、古い音楽をやっているという感覚は全く持っていなくて、常にこれが最も新しい音楽だと思ってやってるんです。今もその感覚でいるのですが、再現ではないという言葉に共感しました。

宮田 quitanでは、「文化の交歓/ブリコラージュ」という言葉を大切にしているんです。多種多様な文化が自然と出会う中で、新たな文化が生まれるかもしれないし、もしかしたらどちらかだけが残るかもしれない。松本さんのおっしゃる「新しい音楽」とは、そういったいろんな文化のかけらを集めてブリコラージュしているquitanのものづくりと共通するものがあってとても勉強になりました。

松本 古楽が好きというだけでなく、ここまで掘り下げて服飾という分野で表現されている方に出会えたのはうれしいですね。それが私たちの音楽と結びついているという驚きもあった。今日はお話できてとてもうれしかったです。ありがとうございます。

宮田 こちらこそ素敵なお話と音楽を、どうもありがとうございました。

quitanを示す7つのルール】

1. As universal as possible - 可能な限りユニバーサルであること

2. As ecological as possible - 可能な限り環境に、地球に、配慮されていること

3. There is always "something" inspired by tradition - 伝統から学ぶ「何か」があること

4. Well-placed production - 適材適所であること

5. Only the fabrics that I loved are chosen/woven - 私の愛した素材だけが使われている/作られていること

6. There is always "a color" for the season - 迎える季節には、いつも大切にしている一つの「色」がある

7. Supporting developments sustainably - 持続可能な支援を

全7回にわたってお送りしてきました「はじめまして、quitanです。」は今回で最終回となります。まっすぐに世界を見つめ、地球と人びとが織りなす文化を学びながら服作りを続けるデザイナー宮田紗枝さん。この春にようやくファーストコレクションが発売となるquitanの旅はまだ始まったばかりです。これからの活躍にどうぞご期待ください。

  • カテリーナ古楽合奏団

    1973年に松本雅隆さんにより結成。東京立川市にある稽古場兼ホールの「ロバハウス」を拠点としながら、中世・ルネッサンス時代の古楽器の演奏や空想楽器を用いた音楽イベントなどを行うほか、国内外さまざまな音楽会へも参加。またTV番組や映画の音楽を担当するなど幅広い音楽活動を続けている。

  • 宮田・ヴィクトリア・紗枝

    アメリカ・シアトル生まれ。quitanデザイナー。幼少の頃より多国籍な環境で遊牧民のように転々と暮らしの場を変えつつのびのびと育つ。大学を卒業後はファッションの現場でものづくりの経験を積み、2020年にアングローバル入社。2021年春夏よりユニセックスブランド「quitan」を展開する。