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わたしのマテリアルマニュアル

SUNSPEL企画 河合由起 | 2021年 春編

VOLUME.2

伝統的な天然素材から日進月歩の化学繊維まで、
私たちの身の回りにはたくさんの種類の「素材」が存在します。
「衣服」としてそれらをみるとき、作り手はどのように素材と向き合い、デザインしているのでしょうか。
本連載ではアングローバルで活躍するさまざまなマテリアルマスターたちに、
その独自の素材術を聞いていこうと思います。
第2回は「SUNSPEL」の企画を担う河合由起さんです。

Photography by SUNSPEL
Edit by Soya Oikawa (ANGLOBAL)

2021年春夏シーズンのSUNSPELを「マテリアル」という視点からひも解いていきたいのですが、その傾向について教えていただけますか。

基本的にSUNSPELはシーズンごとに素材使いが変化するというよりも、カラーでリフレッシュさせていくという感じですね。最近はすこしずつリネンも増えてきましたが、柔らかくて肌触りがいい。あくまでもそういう上質なコットンがベースです。

Q82ジャージー素材のTシャツ

カラーでいうと、今シーズンはイギリスのブランドらしい、少しスモーキーな感じというか、グレイッシュでニュアンスがある色使いが特徴かな。春夏なのでもちろん明るい色もあるのですが、全体としてはちょっと落ち着いた色味ですね。加えてここ数シーズンの春夏ではペールトーンも採用されるようになってきました。

そういったシーズンを象徴するようなカラーは主にジャージー(Q82)、リビエラメッシュ(Q75)、ピケ(Q30)の3つの種類の素材で表現されることが多いです。それらはすべてインポートの素材なんですが、頭に付いている「Q」は「Quality」のことで、SUNSPELの素材へのプライドを感じさせてくれますよね。

―日本で作られる素材もあるのでしょうか。

いくつかありますよ。SUNSPELの場合、インポート素材は基本的に繊維が細くてとてもなめらかなんですが、一枚で着るとすこし透けちゃうんですよね。ホワイトは特に。日本では欧米に比べて透けることを気にする方が多いので、薄いけど密度が高くて透けにくい「ヘヴィアーコットン(HEAVIER COTTON)」という素材を作りました。多様なマーケットニーズに合わせるために、インポートの素材で「無い」ところを補っている感じです。

MEN'S HEAVIER COTTON

WOMEN'S HEAVIER COTTON

―カラーはホワイトのみ?

「透けないホワイト」という明確な目的で作ったので1色です。始まりは「こういうのがあったらいいな」というショップのスタッフからのリクエストがきっかけで、2020年春夏シーズンに男女1型ずつ作って試してみました。それがとても好評で、今シーズンはビックシルエットにしてもう1型ずつ増やして展開することに。でも色は増やしていません。あくまでも「透けないホワイト」の勝負です。

―ほかのSUNSPELの生地と比べると少し肉厚な感じがします。

糸の太さと編み方を調整しながら、生地を厚くして透けにくくしているんです。実はこのヘヴィアーコットンはインドの超長綿の100番手という、SUNSPELの中でももっとも細い糸を使っています。なぜそんな細い糸で透けない厚みが出せるのか、詳しいことは内緒ですけど、そういう工夫がこの仕事をしていておもしろいところですね。

綺麗な表面を保ちつつ、隙間を詰めて編まれているHEAVIER COTTON。

―そういった生地作りはどのように進めるのでしょう。

生地屋さんや紡績工場やニッターさんにリクエストを出して似たようなサンプルを探してもらったり、試作を作って送ってもらったりすることもありますが、だいたいは現場に行って職人さんと一緒に話し合って考えます。「方向性はいいと思うんですが、硬さが気になるのでもう少し度目を緩めてみてもらえますか」という感じで調整を繰り返して理想に近づけていきます。

―職人さんとのコミュニケーションも大切なんですね。作りたい生地があってもそれを作れる人と場所がなければいけない。

そうですね。だいたいのものはイギリスやヨーロッパの工場でも作れると思いますが、あとは需要があるかどうかですね。SUNSPELってクリーンでファインな素材が圧倒的に多いので、特にヨーロッパではホワイトのTシャツは1枚で着るというよりもインナーとして用いられるんです。そのためこのヘヴィアーコットンみたいに透けない肉厚感を追求した方向性の素材はあまり見かけません。着方によってマーケットから求められているものの違いはあると思います。

―グローバルブランドならではですね。海外進出を果たした日本企画の素材というのはあるのでしょうか。

「ループウィールド・ループバック(=吊り裏毛)」という素材は日本企画が海を渡った最近の例です。SUNSPELではいま3種類のループバック(=裏毛)があるんですよ。

―日本ではスウェットと呼ばれる素材ですね。なぜ3種類も?

もともとSUNSPELで使用していたポルトガル製のものと、日本企画として加わったものが2つで計3種類。触ってみないとちょっとわかりにくいかもしれませんが、簡単に言うとフワッとしているか、ツルっとしているかの違いです(笑)。使う糸と編み方の組み合わせの塩梅で、同じループバックでも全然違った表情になるんですよ。ちょっとサンプルを並べてみますね。

左 ポルトガル製:単糸ループバック(=裏毛)
中央 日本製:単糸ループウィールド・ループバック(=吊り裏毛)
右 日本製:双糸ループバック(=裏毛)

左 ポルトガル製:単糸ループバック(=裏毛)
中央 日本製:単糸ループウィールド・ループバック(=吊り裏毛)
右 日本製:双糸ループバック(=裏毛)

―グレーのループバックが3つ並びました。

1つめ(写真左)はもともとSUNSPELにあったポルトガル製のループバック。先シーズンにイギリス人アーティストのDavid Shrigleyとのコラボレーションで使用したループバックがこのタイプですね。表が微起毛加工されていてフリースみたいにふわふわしていてすごく柔らかい。2つめ(写真中央)は今シーズンSOPHNET.とのコラボレーションで使われているループウィールド・ループバック(=吊り裏毛)。旧式の吊り編み機でゆっくり編んでいくので空気を含んで網目の密度も緩くてふんわりしているのが特徴です。ポルトガル製よりもさらにオーセンティックでヴィンテージっぽい雰囲気ですね。そして3つめ(写真右)も日本製で、表が起毛されていなくてツルっとクリーンでなめらかです。

―触ると全然違います。編み方はどれも一緒なのですか。

基本的には一緒です。糸には単糸と双糸とがあって、紡績されたままの1本の糸、つまり単糸はねじれていたり太さにむらがあったりするので、ラフでカジュアルなデザインに向いています。一方その単糸を2本撚り合わせたのが双糸で、太さがより均一になってツルっとなめらかになります。

そのことを頭に覚えておいてもう一度3つのループバックを見てみると、ポルトガル製と日本の吊り裏毛の方は表に単糸が使われていて、デニムやチノとよく合うオーセンティックでカジュアルな表情をしています。でも私はそれらとは違った見え方の、フランネルのきれいなトラウザーズにも合わせやすい大人っぽいループバックというところを目指して3つめの双糸のバージョンを作りました。結果、ちょっとずつ違うループバックが3種類できたわけです。

―それも「無い」ところを補うイメージですね。

その通り。こういうのも “SUNSPELらしい”と思って作りました。クリーンでファインな素材が多いブランドなので、方向性を合わせたループバックも必要だろうと。突飛なデザインができない分、こだわるところはとことん素材になるんですよね。

ーそういう微差の豊かさが長く愛され続けている魅力でもある気がします。

サンスペルを愛用してくださるお客様はきっと、ジャージー、アンダーウェアの心地よさを気に入って日常的に使用してくださる方が多いと思うので、ショップに行けばそれに応えられるようにウェアのバリエーションを揃えておきたいなって思うんです。

―見た目ではほとんどわかりませんが、触れるとその違いの大きさに驚きました。今日はありがとうございました。

こちらこそ、ではまた。

  • 河合由起

    アングローバルに入社して15年。マーガレット・ハウエルで10年間にわたりニット、カットソーの仕事にたずさわった後、サンスペルの専任に。デザインよりも素材作り、モノ作りの方を好むの職人気質なところがあります。