ものをつくる身のこなし ウラカタログ
#BEHIND#THE#SCENE

ウラカタログ

ものをつくる身のこなし

VOLUME.3

普段目にすることのない側面にフォーカスして日々のなかで考えるきっかけを探していく「ウラカタログ」。
第3回はMARGARET HOWELL 神南店の20周年を記念して行われたトークイベントに登壇していただいた、
吹きガラス工房「fresco」の辻野剛氏が抱く、ものづくりへの情熱を裏付ける「身のこなし」について。

In-Store Photography by Daisaku Kikuchi
Text and Photography by Soya Oikawa (ANGLOBAL)

MARGARET HOWELLにはHOUSEHOLD GOODSという質の良い暮らしを提案するラインがある。デザイナーのマーガレットが暮らしのなかで親しんできたブリティッシュメイドの家具、ポストウォー時代の優れたデザインプロダクト、そのほか、彼女が好んでいる日本の民芸の流れを汲んだ生活用品やカトラリー、また、それらを紹介した書籍などを扱っている。

大阪のガラスブランド「fresco」がHOUSEHOLD GOODSのラインナップに加わったのは2017年。まるで自然そのものをガラスに映しとったような色合いが特徴で、これまでにもいくつか、MARGARET HOWWELLによるスペシャルオーダーを製作していただいている。また2018年には、ロンドン国立近代美術館TATE MODERNでマーガレットがゲストキュレーターを務めた、館内のミュージアムショップ「TATE EDIT」へ同シリーズが選出された。

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そして新たに2019年には深みのあるブラウンの、スペシャルオーダーされたプロダクトが加わった。そんな継続的な関係を育てていくなかで、11月には、「fresco」の代表を務めるガラス工芸作家の辻野剛さんをMARGARET HOWELL神南店にお招きしトークイベントを開催する運びとなり、その打ち合わせも兼ねて大阪和泉市の工房を訪れることに。

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吹きガラス工房「fresco」はみかん畑に囲まれた緑豊かな環境にある。カフェやギャラリーショップも併設されている大きなガレージを改装したような淡く青い外壁の工房は、職住一体を求めた辻野さんが約2年をかけてほぼ一人で作り上げた。

工房は10時から動き始めるため、僕たちは早朝にお時間をいただいたのだった。冗談を交わしながらの打ち合わせはスムーズに終わり、その後少しだけ作業を見学させていただくことになった。工房のスタッフはきびきびと準備を進め、炉に火が灯るのを機に、辻野さんの表情は険しい職人の面持ちに変わる。

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いくつかあるガラスの成形技法のなかで、辻野さんは主に「宙吹き」という技法で制作を行なっている。高温の溶解炉で真っ赤に溶けたガラスを吹き竿という金属の管に巻き取り、宙空で反対側から吹いて膨らませて成形をする。1200度もの高温の溶解炉から取り出され赤熱したガラスは、ドロドロで柔らかく色々な形に整形できるが、あっという間に冷めて割れやすくなってしまうため、何度も別の炉に入れては熱し直し、適切な高温を保ちながら形を整えていく。わずかな時間で変化してしまうガラスがどんな状態にあるのかを適時判断しながらの作業は、長い経験のなせる技だ。

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技法によってデザインや色合いが無限に広がるというガラス工芸の奥深さを知ったのは後日だったが、この日、何よりも目を引いたのは辻野さんの「身のこなし」だった。

一般的には、伝統芸能やバレエなどの芸術表現が上演される「舞台」において、その身のこなしの美しさはいっそう際立ち、注目されるのかもしれないが、日常の様々なところにも美しい身のこなしがあることを僕たちは知っている。それは野球選手のスイングや陸上選手のランニングフォームから、茶道家の一服や魚屋の包丁さばき、大工の釘打ち、さらには洗濯物を畳む所作に至る生活のそこかしこに、美しいふるまいはあるのだと思う。

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それら全てに共通するのは、何千何万回と繰り返されて磨き込まれたものだということ。辻野さんのあらゆる動作は、「frescoのガラスをつくりあげる」という一点に向かって鍛え上げられているようだった。作業ベンチと炉を行き来する足取り、炉の前での立ち姿、吹き竿を回転させる際のなめらかな指の動き、アシスタントパートナーとの阿吽の呼吸で繰り出されるジャックや紙リンやパドルといった道具を用いるタイミング、全てに無駄がない、その一切が、刻一刻と変化するガラスの状態に寄り添うための身のこなしであった。

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ものづくりには人が関わり、人の心と身体が関わる。幾度も繰り返された動きは、身体が本能的に導き出した最も効率的な軌跡を描き出しているかもしれない。静かに佇んでいながら、つい手に取りたくなるfrescoのガラスには、目に見える物質としての美しさだけではなく、何十年もかけて到達した、辻野さんにしかできない身のこなしが宿っている。そういうことを、この訪問で学ぶことができた。

後日、MARGARET HOWELL神南店で開催されたトークイベントの様子はこちらでご覧いただけます。

  
  • fresco

    大阪府和泉市小野田町259

    和泉中央駅より南海バス「槇尾山口行き」または「父鬼行き」のバスに乗り「槇尾山口バス停」で下車、徒歩15分

    工房・factory shop 10:00 - 18:00 / 火・水休

    Cot Café 11:00 - 18:00 土日のみ営業(11月~3月は11:00 – 17:00の営業)

    TEL

    fresco 0725-90-2408

    Cot Cafe 0725-90-2409