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開拓者と走る | トレイルランナー・鏑木毅さんへのインタビュー

VOLUME.4

太宰治の小説『はしれメロス』では身代わりになってくれた友のために、
映画『フォレスト・ガンプ / 一期一会』では自分自身を解き放つために、主人公たちはひたすらに走りました。
古来、人はなぜ走るのでしょうか。
それぞれのゴールに向かって、今日も世界中の道という道をランナーが走っています。
この連載ではand wander丸の内店で店長を務める小山健太郎さんとともに、
走ることに秘められた魅力を考察してみたいと思います。

Photography by Shota Matsumoto
Text by Soya Oikawa (TSI)

いつの時代のどんな分野でも、最前線を切りひらく第一人者がいます。トレイルランナーの鏑木毅さんは、2009年、ヨーロッパアルプスの最高峰モンブランの山岳地帯を走る世界大会「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン」で3位に入賞しました。美しくも過酷な山岳地帯を走破し、現在も、現役のランナーとしてトレーニングを重ねています。

また、書籍の執筆や大会運営など、競技を広める伝道師としても、20年以上にわたり力を注いできました。今回は、自身の活動を通して山を走る楽しさを届けている鏑木さんに、小山さんがインタビュー。里山を一緒に走りながら、トレイルランニングの尽きせぬ魅力を教えてもらいました。

はじめの一歩は安全に

小山 昨年から、トレイルランに興味を持ちはじめました。ロードは走っているけれど山の経験は少ないランナーに、アドバイスや注意点があれば教えていただきたいです。

鏑木 装備はしっかり揃えておくといいと思います。トレイルランニング用のシューズと、山に適した専用のパックやウェアですね。インターネットも活用して、コースの事前調べをするのも重要です。

小山 安全第一なんですね。

鏑木 自分のレベルを見極めて、危ないからここは速度を落として歩こう、とリスクマネジメントするのが大切ですね。

小山 他に、持っておくべき心構えはありますか?

鏑木 「新鮮な空気のなかでランを楽しもう」くらいの気持ちでいいと思いますね。必要な装備はおさえつつ、ゆるいメンタリティではじめてみてください。

小山 今日、走る前にストレッチをした場所からは、綺麗な梅が見れました。緑に囲まれながらの準備は、それだけで清々しい気分になって。ストイックなトレーニングとは全然違いました。

鏑木 そうですよね。自然の澄んだ空気や景色の変化を楽しむことはトレランの醍醐味のひとつ。「どんな急斜面でも走らないとダメ」と思っている方が多いですが、登りは歩きでも大丈夫です。タイムに縛られず、「ゆっくり3時間かけて好きなコースに行ってみよう」というところから、すこしずつ走っていけばいいんです。

小山 ロードランの思考だと、歩く=サボっている、と考えてしまいます。

鏑木 山ではサボっていいんです(笑)。とはいえ、そのうち脚は鍛えられますよ。心肺機能もそう。初めは「1時間走るのもつらいな」と感じても、慣れていくと身体が「山用」に変わってきます。

小山 はやく山用の身体を手に入れたい(笑)。

鏑木 遊ぶような気持ちで山に行く機会を増やせば、自然と身につくはずです。ちなみに、初心者の方がひとりでトレランに行くときは、山深い場所よりも、アクセスがいい安心なコースにしましょう。経験者に同行してもらったり、ハードではない大会に参加してみるのも選択肢のひとつですね。

初トレイルにおすすめの大会

小山 今年中に大会に出てみたいんです。大会選びのポイントをお聞きしたくて。

鏑木 トレイルランのコースの特徴は、走行距離ではありません。同じ20kmだとしても高低差や斜面の性質など、条件は信じられないくらい違います。「累積標高差」という、登りの距離だけを足した数字があるんです。例えば走行距離は30kmでも累積標高が800mぐらいだったら、かなり平坦で、イージーなコースです。

小山 なるほど。その数値でコースの大変さがまず把握できると。その点含め、ビギナーにもおすすめの大会はありますか?

鏑木 僕がプロデュースしている大会が、6月20日に群馬県太田市で行われます。「上州八王子丘陵ファントレイル in 太田」ですね。「ファントレイル太田」って検索してもらえるとすぐ見つかりますよ。11km24kmの2種目あるのですが、走り慣れていて、フルマラソンでサブ3を狙っている小山さんなら、24kmですかね。

小山 24kmでもビギナー向けなんですか?

鏑木 制限時間が長いので、歩きながらでもいいくらいです。あとは、12月にある「TOKYO 八峰マウンテントレイル」ですね。首都圏からすぐアクセスできるので、不安な人は手軽に試走に行けます。運営もしっかりしているのもビギナーには最適だと思います。

小山 そちらも鏑木さんが関わっているんですか?

鏑木 はい。ゲストランナーとして出場しています。選手全員がスタートして、5分くらい経ってから最後に走り出します。全員追い越すくらいの気持ちで走っていますね(笑)。

小山 参加者としては、追い抜かれつつ鏑木さんと一緒に走れると。

鏑木 そうです、そうです。「去年より進んだ地点で追い抜かれたので、この1年で少しは速くなりました」とか、「今年も逃げきれませんでした(笑)」といった会話をしながらゴールへ向かいます。

遅かった運命的な出会い

小山 ところで、鏑木さんが初めてトレイルランの大会に出場したのは、28歳の頃ですよね。

鏑木 そうです。山とランニングが自分のなかで結びついたのがその時でした。

小山 20代後半というのが意外で。

鏑木 子どものころから山は登っていました。両親が山好きで。大学では趣味として山登りをしていましたし、それまでも陸上はやっていたのですが、山で走る、という発想にはいたらなかったんですよね。はっきりとトレイルランニングに目覚めたのは、地元の新聞でその存在を知った20代後半。インターネットもなかったし、予習はできず、周りの選手の真似をしながら実際に走ることからはじめました。それですっかりハマってしまって、またすぐに別の大会にも出たり、毎週のように山に行って、猛烈に引き込まれていきましたね。

小山 陸上にはない魅力があったのでしょうか。

鏑木 ロードだと、ついタイムが気になっちゃうんです。「落ちちゃったな」とがっくりしたり。でも、山では走ることの楽しさにひたすら没頭できたんです。慣れていくと、地図を見ながら「あっちの山には行ったことないから行ってみるか」とか、臨機応変に行き先を変えることができる。自分の好きなコースデザインを描けるのも、トレイルランの魅力かもしれません。1990年代当時は競技人口が1万人もいないような時代だったので、「トレイルランニングとは」、という根本的なところから競技そのものを探求する楽しさもあったんです。

小山 開拓者ならではの視点ですね。

鏑木 トレイルラン専用のパックすらないときは、登山用のリュックサックを背負って、補給食としてアンパンやおにぎりを買って走っていました。シューズをいろいろ試して、装備のひとつひとつを手探りで考える。すべてが真っ白な時代でおもしろかったです。歴史のあるどんなプロスポーツにも、真っ白な時代があったと思います。トレイルランはまだ歴史が浅かったからこそ、自分の挑戦がトレイルランの歴史になるかもしれない、っていうことに、ワクワクしましたね。

サーファーのように山を乗りこなす

小山 山を走っていて、喜びや楽しさを感じるのはどんなときですか?

鏑木 くだりですね。自由な感覚が得られるんです。踊っているときって楽しいじゃないですか。あの感覚と近いのかもしれません。一定のフォームではなく、道の状況に瞬時に対応していく。音をとらえるように、路面の状況をとらえて自由に身体を動かします。

小山 僕もくだりが楽しいですね。童心を思い出すような自由を感じます。

鏑木 登りもだんだん楽しくなってくるはずですよ。サーファーが波に乗ってるような感じかな。波を読みながらその抑揚を乗りこなすように、登ったり、くだったりしていると、「山を乗りこなしているな」と体感できる。その瞬間が一番楽しいし、フィジカルだけでなく、思考やマインドにおいても「対応力」が身につく気がします。

トレイルランが教えてくれる「柔軟性」

小山 トレイルランは全身の筋肉を使うから、一箇所を酷使する運動より故障のリスクが少ないと聞いたことがあるのですが、鏑木さんの経験ではいかがですか。

鏑木 堅い路面を走るロードは、気をつけていないと自分の弱いところに痛みが集中します。僕はもともと腰坐骨神経痛で、痛みを逃せなかった。でも山は路面がソフトっていうのもあるし、登りくだりとか、いろんなフィールドに対応するため、全身運動になります。もちろん足は疲れるんですよ。でも、フォームが変わるから局所的にくるっていうのはあまり無い。だから、克服できたんです。ロードのランナーにもいい影響があると言われています。

小山 山を走るからこそのマインドの変化についても聞きたいです。

鏑木 トレイルランならではの「マインドセット」があると思いますね。専門分野だけに集中していると、自分の伸び代に気づけなくなってしまうことがあるかもしれません。でも、状況によっての対応力が問われるトレランは、仕事だったり、人生の考え方にもいい影響があるんじゃないかな、って思いますね。

小山 すごく面白いです。

鏑木 また、僕にとっては、山は頭が冴える場所でもあります。新聞連載で書く話題や、講演のテーマ、本のアイデアが湧いてきます。思考のつまづきが解消されるというか。競技者としてはトレーニングの場所ですが、発想の源でもあり、ストレスが溜まっているときには精神的な活力を回復できたりもして、すごく大切ですね。

小山 ロードとは違って、日常から物理的にも距離を置く機会になるのも、発想を転換するにはいいのかもしれませんね。

鏑木 そうですね。さきほども言ったように、リスクとの付き合い方もトレイルランから学べる気がします。僕は基本的にズボラな性格ですが、レースに関するところはすごく注意しています。すごく細かく、地道に計画を立てるんです。

小山 リスクを感じたときは上手に力を抜く。サバイバル力ですね。

鏑木 何日間も続く長いレースでは、かなり戦略的に考えます。人生はレースではありませんが、人それぞれ、のぼりやくだりがあって、さまざまな柔軟性が必要になりますよね。危ないときは無理なく速度をゆるめて歩き、調子がいいときは踊るように駆けていく。トレイルランをしながら、そういうマインドが身につくといいな、と思います。

小山 大会を運営したり、トレイルランを楽しむ環境を整備している鏑木さんの活動は、柔軟な精神を身につける、現代ではすごく大切な力を広めることにもつながっていくといいですね。山ではサボっていい。ときには肩の力を抜くことも、走るためには大切なんですね。僕もぜひ、大会に参加して、山を乗りこなす感覚を味わってみたいです。今日は貴重なお時間をありがとうございました!

鏑木 こちらこそありがとうございました。この山は、茂みだったり、竹林だったり、視界がひらける場所など、いろんな景色が楽しめたと思います。走る場所を世界に広げると、本当にたくさんの景色に出会うことができます。

小山 すごく憧れます。いつか行ってみたいです。

鏑木 山を遊ぶように楽しむ気持ちを知ってもらえたら嬉しいです。またぜひ、トレイルランニングのコースで会いましょう。

  • 鏑木毅

    トレイルランナー。2009年の世界最高峰のウルトラトレイルレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(現UTMB)」世界3位に輝き、その後国内外の主要なレースで幾度も上位に入賞。競技人生の経験をもとに「ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)」をはじめとした、レースのプロデュースや執筆など、普及活動も積極的に行う。

  • 小山健太郎

    1986年、長野県生まれ。and wander丸の内店にて店長を務める傍ら、社内のスポーツ部の部長としても活躍。20213月のフルマラソン大会で念願のサブ3を達成。次の目標であるトレイルランニングのレースに出場するため、日々練習に励んでいる。