
MARGARET HOWELL | 50 YEARS OF DESIGN展
たての暮らしと、よこの親しみ。
自然の豊かな色合いや、人の手で生産された天然素材を大切に、
親しみを込めて現代的な衣服を作り続けるクロージングデザイナー、マーガレット・ハウエル。
その確固たるものづくりの50年の軌跡を振り返るエキシビション
『MH50 - 50 YEARS OF DESIGN』をご紹介します。
MARGARET HOWELLのブランド50周年を記念したエキシビション『MH50 - 50 YEARS OF DESIGN』展が、東京の代官山T-SITE内にある多目的スペース「GARDEN GALLERY」にて開催されました。
会場にはこれまでほとんど公開されることのなかった、デザイナー本人のプライベートな資料をはじめ、時代の変遷とともに歩んだブランドの歴史を物語る貴重なアーカイブサンプルやプロモーションのための制作物などが多数展示され、マーガレット・ハウエルというデザイナーが半世紀もの間、一貫して探求してきたものづくりの哲学を表現した展示が設えられていました。5月の東京と6月の京都での開催期間中、あいにく来場が叶わなかった方も、ぜひこちらの記事でお楽しみいただければうれしく思います。
今回のエキシビションは、昨年2月にロンドンのフラッグシップショップで開催された内容をベースに企画され、加えて日本のファンへ向けたショートムービーも新たに制作されたほか、この『MH50 - 50 YEARS OF DESIGN』というエキシビションタイトルが示すように、「デザイン」という観点を通じて、マーガレット・ハウエル本人の視点と、ブランドMARGARET HOWELLとしての活動の様子がテーマごとに編集されていました。
それでは、順を追ってみていきましょう。

インスピレーション
来場者を迎える会場正面には、50年という、ブランドにとっての大きな節目で開催された本エキシビションのステイトメントとして、マーガレット・ハウエルにとっての、ものづくりの“インスピレーション”についてのコメントが記されていました。その中でマーガレットは創作の源やきっかけについて一言で言いまとめることが難しいと前置きつつも、「思い出であったり、人であったり、素材の手触りや、それらが作られた場所だったり、心に思い浮かんだイメージだったりします」と、手探りしてきた記憶を綴ってくれています。

服づくりの原点
マーガレット・ハウエルにとって「服作り」がどのようにして身近なものになったのかという幼少期のエピソードや、ブランド立ち上げ初期の縫製現場の様子、母が作ってくれたドレスを着たマーガレットと姉妹の写真などが紹介。とてもプライベートな展示内容だったこともあり、会場の正面入り口にそっと背を向けるように配置されていたのが、シャイな彼女を想起させ、とても印象的でした。

タフなコーデュロイ
美しい自然の風景を感じさせるやわらかい色沢で、タフで経年変化も楽しめるコーデュロイ地にフォーカスした展示。落ち着いた佇まいのセットアップやクラシカルなダブルのコートに加え、俳優のジャック・ニコルソンが映画『シャイニング(1980)』で着用したものと同タイプの貴重なサンプルを見ることができました。

リネンのユーティリティ
衣服や寝具、ティータオルにいたるまで、リネンの持つ用途の広さが好きだというマーガレット。なめらかな光沢とさらりとした肌触りの上質なリネンは、そのシワでさえも魅力的な折り目となってくれると言います。毎シーズン、シャツやニットなど多くのアイテムに用いられる、MARGARET HOWELLを象徴する素材のひとつです。

ダッフルコートとハリスツィード
MHL.というカジュアルラインの源流のひとつにもなっているという、タフで実用的なダッフルコートと、「本物であること」「生きていること」「キャラクターがあること」という、マーガレットが服に求めるすべてを兼ねそろえているというイギリスの伝統的な素材ハリスツィード。機械織りにはできない、羊毛を生産するひとびとの暮らしと仕事、そして広大な自然への親しみを感じることができる素材なのだと言います。

白いシャツの特別さ
白いシャツがもつ美しさ。その軽さや生き生きとしたキャラクターを写し出したエドウィン・スミスやコト・ボロホのようなフォトグラファーのすばらしい仕事も、上質な生地があってのもの。歴代の印象的なキャンペーンフォトに混ざって、軽快にカラーレスシャツを着こなしているフランスの映画女優ジェーン・バーキンの姿や、ポストカードとなった写真に用いられたヴィンテージのアーコール社製のチェアも。

シャツを作り続けて
資料の一部として展示されていた、1970年代頃のカタログの送付を希望するための用紙には、手描きの旧ロゴとともに「FINE SHIRTS & SHIRTINGS(上質なシャツとシャツ地)」と記され、ブランドが始まった当初はシャツをメインとして活動していたことを思い起こさせてくれます。そのほか、マーガレットが描いたデザイン画や淡いトーンのストライプの生地帖、繊細な縫製のカラーレスシャツサンプルも。

ポルカドットというスタンダード
小さすぎず、大きすぎず、中くらいの水玉模様で構成される普遍性の高いグラフィック。1970年代にマーガレット本人が家庭用のミシンで制作したというショートスリーブのシャツから、近年発表されたスカーフまで、彼女がいまでも必ず立ち返るクラシックなスタイルであることを示唆しています。

日本を想って制作されたショートムービー
『AFFINIITIES(=親しみ)』と題されたショートムービーに映し出されていたのは、風になびくススキや古民家の土壁、職人が和紙をすく様子や、使い込まれた茶筒など。日本を旅してまわり、各地を見つめたマーガレットのまなざしの先には、季節と交際する家、機能的で品格ある生活道具、美しい風土の香りがする食が織りなす、日本人の暮らしへの「親近感」がありました。

ショートムービーのそばには、1983年にマーガレット・ハウエルが初来日した時の写真と動画についてのメッセージが添えられ、その中で彼女は、日本に来てすぐに感じたという4つの親近感について触れています。
調和を大事にするデザインや暮らし
自然への深い尊敬の念
天然素材への愛
修理することもクリエイティブととらえる価値観
そのどれもが、MARGARET HOWELLのものづくりに込められた「親しみ」であり、彼女が一貫してこだわり続けてきた、暮らしが本質的かどうかというシンプルな指針にもなっているのだと感じさせられます。
日本では大阪万博が開かれ、世界ではビートルズが解散し、クラフトワークがデビューした1970年に、ジャンブルセールで出会った一枚のシャツに魅せられて、服作りをはじめたマーガレット・ハウエル。
半世紀を経た今もその精神は輝きを失わず、着ることで、趣や美しさが研ぎ澄まされていくような、本物の服づくりを、僕たちはこれからも親しみをもって楽しんでいきたいと思うのです。
50周年を記念したフィルム「MH50 - 50 YEARS OF DESIGN」の詳細はこちらを、
日本で感じたことを表現したショートフィルム「AFFINITIES」の詳細はこちらをご覧ください。
*エキシビションは終了しております。
LATEST