#ART&CULTURE#DESIGN

無意識を支える豊かなデザイン|グラフィックデザイナー 佐藤卓インタビュー

「明治おいしい牛乳」や「ロッテ キシリトールガム」といった
日常に馴染むプロダクトのパッケージをはじめ、
東京ミッドタウン21_21 DESIGN SIGHTの館長として展覧会を指揮するなど、
幅広い仕事を手がけるグラフィックデザイナーの佐藤卓さん。
富山県美術館にある「オノマトペの屋上」は、
彼がデザインした、擬音語や擬態語から生まれた遊具の集まる庭園です。
NHK Eテレ『にほんごであそぼ』のアートディレクションもなさっている佐藤さんにだから聞いてみたい
「子どもの視点」や「遊び」といったキーワードから話をはじめ、
無意識に潜むデザインや、好奇心をくすぐるデザインについてインタビューしました。

Photography by Ayumu Yoshida
Edit by Yoshikatsu Yamato (kontakt)

オノマトペから遊具を考える

―まず、なぜ美術館の屋上に遊び場ができたのでしょうか?

佐藤 富山県美術館の敷地にもともと公園があったんです。そこで地元の子どもたちに親しまれていたのが「ふわふわドーム」という遊具。美術館の設計をなさった内藤廣さんはそれを引き継ぐプランを考えて、私に、広場の構成と遊具のデザインのご依頼をくださいました。私はNHKの『にほんごであそぼ』で、擬音語や擬態語をアニメーションだったり映像にしていましたから、「ふわふわ」ってオノマトペだよなあと。そこから遊具を考えるアイデアを思いついたんです。

―オノマトペの言葉がまずあって、そこから、遊具のかたちを引き出していったんですね。

佐藤 たとえば、「ぼこぼこ」なら、そのオノマトペからイメージできるかたちをスケッチしていきます。子どもが寝転がったり、飛び越えたりするならこうかな、と、いろいろ描いてみるんです。

―それこそ遊びのようでもあって、なんだか楽しそう。

佐藤 とても感覚的な作業でしたね。それから、遊具としてふさわしいのかどうか、本当にこれでいいのかな? と客観的な視点で判断していきます。遊具を制作する専門の会社であるジャクエツさんは安全性や耐久性に関するノウハウを持っているので彼らに相談したり、ときどき建築家の内藤さんに見ていただいたり。さまざまな条件を照らし合わせていきました。

中央にあるのが ふわふわドーム

ぼこぼこ を飛び越えたり 

あれあれ を見上げてみる

子どもがつい抱きついてしまう ぶりぶり

どこへ自分の声が届くのかな ひそひそ

佐藤さんが考える「子どもの視点」

NHK Eテレの『デザインあ』や『にほんごであそぼ』といった、子ども向けのテレビ番組制作に携わっていますね。オノマトペの屋上もまた、メインのターゲットは子ども。あえて「ターゲット」なんていう言葉を使ってみましたが、佐藤さんは子どもをどんな存在だと考えていますか?

佐藤 だいぶ歳を取りましたが、私もかつては子どもでした(笑)。振り返ってみると、子どもは遊びと学びの境目がないですよね。ご飯でも遊ぶし、遊びながら学ぶ。物事は分かれていなくて全部つながっています。そんな感覚って、大人になったらなくなるわけではなく、誰しも必ずあるけれど、眠っているだけです。大人が考える「遊びとはこういうものだ」を無理やり考えて「こう遊びましょうね」という遊具を作るのではなく、子どもが自然と「遊んじゃう」ものになったらいいなあと思っていました。

―美術館の上にあるということもあって、彫刻のようだとも思いました。でも、思ってみると、公園にある遊具も、そのまま「遊具」だと解釈すればそれまでですが、オブジェとして面白がることだってできるのかもしれません。

佐藤 いやあ、そうですね。大人はつい物事を分けてしまいます。「分かる」とも言うように、分けることは理解することでもあります。名前をつけて概念化していくわけです。水は水。コップはコップ。そうして受け流すのは、社会生活を円滑に進める上では重要な能力です。しかし、子どもの視点に立ち返っていくというのは、当然のように私にも染み込んでいるその分ける思考を壊す作業です。だって、夢中になる、ということにはきっと大人も子どもも関係ないんですよ。哲学者の西田幾多郎の言葉に「主客未分」という言い方があります。え、何これ、っていう気づきの経験や、なにかに没頭しているとき、私と対象の区別はないんですよね。

回転する ぐるぐる

つるつる に寝そべる

特別さの演出ではない、日常に馴染むデザイン

―佐藤さんのお仕事には、コンビニエンスストアで買える牛乳やガムなど、生活に言葉通り溶け込んでいるものが多くありますよね。

佐藤 目立たせる、人の気を引くことが目的になるデザインも当然あります。たとえば広告とか。それはあってもいいのですが、ごく日常的なものが毎日気を引いてくるとしたら、ある意味、邪魔でしょうがないですよね。

―確かにそうですね。近著の『塑する思考』では、「デザイン家電」といった呼び方には誤解が含まれているとお書きになっています。

佐藤 そこで言う「デザイン」には、「デザインっぽいもの」というニュアンスが含まれていると感じます。しかし、「いかにもデザインされているものをつくる」のがデザインでしょうか? たとえば、冷蔵庫は目立っている必要がないですよね。冷蔵庫は冷蔵庫以下では困るけれど、冷蔵庫以上でも困る。俺はここにいる! と常にアピールしてきたらうるさいでしょう(笑)。日常的なものをデザインするときには、行き過ぎたらちょっと行き過ぎたな、足りなかったらちょっと足りなかったなってことに気付いて、目盛りを合わせていく。緻密な作業ですが、やりすぎはいけない。そして、ここだっていうところを探るんですね。

―なるほど。

佐藤さんがパッケージデザインを手掛けた「明治おいしい牛乳」

「ロッテ キシリトールガム」

佐藤 だから、デザインをしない、では全くない。その商品について徹底的に考えます。聞き取りや、自分なりの調べものもたくさんする。そうして「間に入って」よりよいものを導き出すのです。だから、あくまでも非常に能動的な作業ですよ。能動的だけれども、気を引くものではなく、必要を満たして日常に寄り添うものを目指す。たとえば、信号機だってデザインなんですね。このインタビューが文章になれば、その文字の大きさやフォント、サイトのレイアウトもデザインです。今は、どうしても目立つものオシャレなものばかりが取り上げられますが、特別なものを作るのではなくて、むしろ、目立たないというか周辺の環境と適切につながって馴染み、機能を備えたものをつくるのもデザインなんです。

―妙に信号機が気を引くものだと、事故が起きそうですね(笑)。どんな気候や時間帯でも、チラッと見て何色かわかることが大切。アクセルかブレーキのふるまいが、スムーズに引き出されることがポイントでしょうね。

佐藤 ですね。日常生活で、ある人の意識が向かう先って、その瞬間は常にひとつです。つまり、ほとんどの物事が無意識のなかに入ってるんですね。でも、無意識のなかにも無数のデザインがある。そこでデザインをしてる人たちがこんなにいっぱいいるんですよっていうことを、職能としても伝えないといけないと思っています。そういうものが豊かさを支えてるわけですから。無意識のなかに程よく存在してくれればいいデザインのほうが、圧倒的に多くていいわけです。デザイナーは造形力があればいい、ではない時代ですね。医療や福祉、政治や教育にも関わっていって、ナビゲートをする役割だと思っています。

オノマトペの屋上にある点字ブロック ぽつぽつ?

洋服は人の無意識に関わっている?

―無意識に入っているといえば、着ているときの洋服がそうかもしれません。

佐藤 そうですね。でも、自分の体は服との摩擦によって体感できている、とも言えますよね。自分の輪郭は、服や外的な刺激によって認識できる。想像してみてください。風もなにもない真っ暗闇にすっぽんぽんで立って手足を伸ばしたら、どうでしょう? 時間が経つと自分の手の先がどこにまでいってるか、分かんなくなっちゃいそうでしょ。

―ひやっとします。意識はしていないけれど、服がもたらしている安心感って偉大ですね。

佐藤 ざらざらだったり、なめらかだったり。そういう感覚と共に、自分を意識化してくれる素晴らしいもの。そうやって考えると、服はTシャツ1枚でも面白いです。

―ファッションは、流行やかたちの話がどうしても多くなってしまいますね。でも、身体との関係で服の役割を考えてみると、選び方や楽しみ方も変わっていきそうです。

佐藤 ワインが親しまれているのには、ソムリエの存在が大きいと思うんですよね。ワインのおいしさを、実に豊かな言葉で説明してくれる。そうすると、えーって思いますよね。で、飲んだときの感動を覚えておける。ファッションにも、そんなひとがいたらいいですね。素材の産地や質感、体感を豊かに語り、人間の皮膚のこともよく知っていて認知科学的な観点を持っているソムリエがいたら、いろいろ着てみたくなりそうです。

21_21 DESIGN SIGHT から発信していること

―東京ミッドタウンにあるデザイン施設、21_21 DESIGN SIGHTでは、館長をなさっています。ゲストのディレクターを迎えたり、佐藤さん自身が展覧会の企画やディレクションを行うこともあります。

佐藤 いろんな展覧会をやってきましたね。2007年に「water」という「水で世界を見てみよう」というテーマの展覧会をしました。そこで、牛丼1杯にどのぐらいの水が使われてるかを見せました。実は、2,000リットル使われてるんですね。

―えっ、多すぎませんか。

佐藤 まず、牛は大量に水を飲みます。それから、牛が食べる穀物を育てるのにも水が必要。もちろん、米を育てるのにだってお水がないといけません。そうして計算すると、だいたい牛丼1杯2,000リットルって研究結果が出ているんです。

―牛丼そのものからは、見えてこない水ですね。

佐藤 つまり、アメリカから牛肉を輸入して食べるのは、アメリカの大量の水を日本人が間接的に使うことでもある。そんなふうに牛肉を見る機会って、普段、あり得ないじゃないですか。そういうことに1回気が付いてみてはどうかと思い、展覧会をやったんですね。

富山県美術館のほど近くにある噴水の水では子どもが大はしゃぎ つやつや

しだれ柳が風に揺れて そよそよ?

生活の補助線とデザイン

―このサイトは「生活の補助線」というテーマを掲げていて、今のお話から、その展覧会はまさに補助線の役割をしているのかもと感じました。

佐藤 そうですね。補助線をぽんって投げ掛けた途端に世の中の見方が変わっちゃう。そうした投げ掛けは重要だと思います。世の中って、いろんな目で見ることができる。好奇心を引き出して、意識のベクトルを変えていく。それもやっぱりデザインの大切な役割だと思います。

21_21 DESIGN SIGHTの展覧会のポイントだと思うのは、補助線が、抽象的ではないこと。いつも具体的で、それが面白い。日常って、すごく具体的ですよね。

佐藤 そうそう、具体的。補助物、補助事というかね(笑)。受け流してしまいがちですけれど、日常のなかにありふれている物や事こそ、思考の補助線になるということです。その視点を、世の中に投げ掛けるのが21_21 DESIGN SIGHTっていう場。大人ももちろんですが、こうした視点のきっかけづくりが子どもの教育にも行えたら、世の中って面白いかも、と感じてもらえるんじゃないかと思っています。

富山県美術館

  • 佐藤卓

    グラフィックデザイナー。1981年東京 藝術大学大学院修了、'84年佐藤卓デザイン事務所設立(現:TSDO)。「明治おいしい牛乳」「ロッテ キシリトールガム」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、金沢21世紀美術館や国立科学博物館のシンボルマークなどを手がける。NHK Eテレ『にほんごであそぼ』のアートディレクター、『デザインあ』総合指導も担当。

  • 富山県美術館 オノマトペの屋上

    富山県富山市木場町3-20

    TEL 076-431-2711

    オノマトペの屋上 開園時間は8:0022:00

    ※安全性の観点から、遊具で遊べるのは日没まで。

    ※冬季の12/13/15は休園します。