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ウラカタログ

VMSによるヴィジュアル・マーチャンダイジングの心得

VOLUME.14

普段目にすることのない側面にフォーカスして
日々のなかで考えるきっかけを探していく裏方の記録「ウラカタログ」。
今回は、VMS(ヴィジュアル・マーチャンダイジング・スタジオ)による
and wander丸の内店のディスプレイ変更の裏に秘められた、
ある大切な目的についてお送りします。

Photography & Text by Soya Oikawa (TSI)

VMDという視覚術

行き交う人々の視線を、惹きつけてくぎ付けにし、離さない。ショップでの課題や挑戦を視覚的に、解く。ブランドの商品計画を可視化し、躍動させる。ものとその見え方の調和と混沌を、あやつる。

ショップ空間をしつらえるVMD(ヴィジュアル・マーチャンダイジング)は、「売り場づくり」や「打ち出し」といった言葉でくくりきれない、多様で高度な技術を必要とし、計り知れない効果をも、もたらす手法です。オンラインを含めた、ショップに関する視覚的な仕掛けはすべて、VMDの術中で生み出されるといっても過言ではないかもしれません。

自由空間の編集

昨年から、and wanderではVMDの専門家集団である「VMS(ビジュアル・マーチャンダイジング・スタジオ)」と一緒に、定期的にショップ空間の編集を行なっています。その作業のようすから、普段の生活にも応用できるような「ものを魅力的に見せる」ためのヒントが得られるのではないかと、今回、取材させていただくことになりました。

「ショップのチカラ」Vol.3でも触れたように、and wanderのショップは、その空間の使い方を自在に変更できるように設計されています。しかしどの商品をどのように見せるのか、ひとくちに「ディスプレイ」と言っても、アプローチは無数にあります。その時打ち出すべきものは何か、コーディネートで実用性を示すのか、演出物を添えてシーンを想起させるのか、また圧倒的なボリュームでインパクトを放つのか、芸術作品のように、単体でしっかりと主張するのか。

スタッフはブランドとユーザー、主観と客観との間を行き来しながら、時に楽しみ、時に悩み判断を重ね、最適な演出をたぐり寄せていきます。

夜の模様替え

その夜、and wander丸の内店では、2021年秋冬シーズンの立ち上がりを打ち出すため、営業終了後に3つの大きなディスプレイ変更が予定されていました。

ひとつは、通りに面した入り口の大きなウィンドゥに「カッティングシート」を張ること。

街を歩いていて、しばしばショップのウィンドゥなどに、文字やイラストや写真のグラフィックデザインが施されているのを見たことがあると思います。それらは、ショップの中ではいま、何を主張しているのか、というのを表現しているメッセージでもあります。

この夜に用意されていたのは、シーズントピックであるスイスのデザインデュオ「Bienvenue Studios(ビエンベニュー ・スタジオ)」とのコラボレーションワークを打ち出すためのグラフィックデザイン。上下に分けられた2枚の大きな面のカッティングシートを貼るためには、熟練した職人の技術が必要です。

もうひとつは、ショップの空間で、島のように周囲から独立して置かれている「アイランド什器」の天板の変更。

普段は、ウォレットやハットなどの小物などを見せるために、数個のボックスを連結させ、その上にナチュラルな木製の天板が敷かれていますが、今回はウィンドゥのカッティングシートのブルーカラーと合わせることで、同じ企画に連動したディスプレイだということを示します。水平で安定しているものの、使用しているうちに天板がずれないように、滑り止めが挟まれていました。

そして最後のひとつは、ビジネスユースも可能なテーラード仕立てのセットアップの打ち出し。

東京屈指のオフィス街でもある丸の内で、and wanderが考えるビジネスウェアを提案。特製のL型のハンガーラックが導入され、オンでもオフでもない、シーンを絞らずにどこへでも接続できる自由なスタイルとして、ブラックでコンパクトに統一されていました。

それらすべての作業が、VMSのみなさんと専門業者さん、そしてand wanderのスタッフによって同時に進められ、店長の小山さんは各所に気を配りながら意見を交わしていました。

技術よりも大切なこと

VMS代表の堀田さんに話を聞くことができました。ラグジュアリーブランドからコスメまで、ジャンルを越境してさまざまなVMDを手がけるお仕事から、日常生活へも応用できるような、実践的なヒントをお聞きしようとしたのですが、図らずも、魅せるテクニックよりも、もっとずっと根元的な目的の存在を教えていただきました。

「ディスプレイ変更というのは、あくまでも手段のひとつで、(なぜこういうことをするのかという)本来の目的は、スタッフのストロングポイントの発見や、チームとして成長していくためなんです」

まさか、そんなテーマが通底していたなんて思いもしませんでした。ブランディングに沿って、商品をどう魅力的に見せるかという作業をしながら、ひとつのショップをチームとして機能させるというミッションが進行していたのです。商品を売るために必要なのは、うまく見せるスキルそのものではなく、それを用いるスタッフたちであり、「チームとしての統制」がとれているかが重要だというお話でした。

スタッフとのコミュニケーションを重要視するVMSは、一連の作業が終了すると「OJTOn The Job Training)」というディスカッションの時間を設けています。

店長の小山さんは、そんなVMSとの定期的なOJTを通じ、「みんなが、ディスプレイに関してしっかり話し合うことができて、日々の業務の中でもVMDへの意識が高くなりました。以前までは『わからない』で止まってしまっていたことも、『こうしてみたい』というアイデアや挑戦となって現れるようになって、ショップとしての成長を感じる」と言います。

「ディスプレイはツール」

そう話してくれたVMS堀田さんの視点は同時に、「ゆえに使う人たちが大事」ということを気付かせてくれました。店長の小山さんの言葉は、まさにそのことを裏付けるものであり、それはショップに求められるあらゆる技術についても同じことが言えるのではないでしょうか。

一日の営業を終えた閉店後に、ものすごい集中力を発揮したスタッフたち。その夢中なようすからは、and wanderへの純粋な好奇心と、VMSによって育まれたチームとしての「一体感」を感じずにはいられませんでした。

VMSと、and wanderのチーム作りはこれからも続きます。

  • VMS(ヴィジュアル・マーチャンダイジング・スタジオ)

    VM(ヴィジュアル・マーチャンダイジング)」の視点から、マーケティングと売り場と人材とををつなぐ専門家集団。コンサルティングから什器のデザイン、施工まで、VMに関するすべての領域をサポートするほか、VMリテラシーの向上を目的としたセミナーやワークショップも開催。

  • and wander MARUNOUCHI

    2020年10月にオープン。ショップを構えるのは1963年竣工の新東京ビルヂング。付近は東京駅や皇居外苑、三菱一号館美術館、東京国際フォーラムといった文化施設に囲まれ、歴史やカルチャーへの接続が楽しめる。