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ショップのチカラ

Dice&Dice | ぼくたちが、前へ進みつづける理由

VOLUME.6

作り手の思いを預かり、お客様につなげるための出会いをしつらえるショップ。
両者の間に立つスタッフは、そんな空間づくりのスペシャリストです。
商品を販売するだけの場ではなく、
街に息づき、人々と関わり交わり、暮らしを豊かにしてくれる特異な空間。
この連載では、ショップに宿るさまざまな「チカラ」を、
日々「立つ」スタッフならではの視点で紹介していきたいと思います。
第6回は、Dice&Diceにて店長つとめる藤雄紀さんです。

Photography by Dice&Dice
Text by Yuki To (Dice&Dice / TSI)
Edit by Soya Oikawa (TSI)

福岡でもっとも賑わいのある「西通り」に交差して東西へ伸びるのが「国体道路」です。東は中州を通り抜け博多駅の近くまで、西に進めば福岡市民の憩いの場である大濠公園へと辿り着きます。

天神から国体道路を西に少し歩いて、あまり目立たない脇道へ入ります。目印は角のオープンカフェ、とお洒落に言いたいところですが、実際にはカフェの向かいの老舗の豚骨ラーメン屋さんを目指して歩いてもらうと分かりやすいかもしれません。赤のれんに赤ちょうちんといういかにも福岡らしい店構えが、遠くからでも目に入ります。万が一、見逃してしまっても、周囲に漂う豚骨スープの香りにきっと足が止まることでしょう。

そのまま脇道をまっすぐ進むと、左手にモダンなコンクリート打ちっぱなしの四角い建物が見えてきます。看板は外壁のガラス板と小さなフラッグのみ。看板を探して歩くと通り過ぎてしまいがちですので、ファサードの植栽を意識してもらえると見つけやすいかもしれません。日本ではあまり見かけない植物が正面の植え込みにわさわさと生い茂っているので、まず見逃すことはないと思います。

タワシみたいな花のバンクシア。淡い色の葉が美しいゴールデンサンライズ。渦巻く新芽がかわいいディクソニア。そして、ひときわ目を惹く大きなマホニアの木がシンボルツリーです。

そうやってお店の目印になったり、お客様の目を楽しませたりしている自慢の植栽ですが、休憩時間に木陰のベンチでのんびりしたり、マホニアの実をついばむ小鳥をそっと眺めたり、毎日のように僕たちスタッフの心も癒してくれます。

建物はコンクリート4階建。1階、2階が店舗になっています。一面ガラス張りの大きな窓が特徴の1階は、陽がよく入りとても明るい雰囲気です。ヘリンボーン柄になった床材は、韓国の古民家の建材を再利用しています。節や元々の傷をそのまま残した粗野な質感が、よくあるものと違って非常に面白いです。

Photography by Kenta Nakamura @hanahanamegane17

Photography by Kenta Nakamura @hanahanamegane17

1の小上がりになったスペースは、新しいお店となって最近リニューアルオープンしました。

ニュースバランスとタッグを組んで運営する「&DICE&DICE supported by TOKYO DESIGN STUDIO New Balance(略称 TDSNBXDXD)」というお店です。

空間デザインは東京日本橋浜町を拠点にコンセプチュアルな空間を手掛ける「o+h」が担当。湾曲したブルーグレーの壁が囲む空間に、北九州の職人さんに依頼したアルミ打ち出しの大きなテーブルが存在感を放ちます。毎月新しいテーマで、様々な分野で活躍するアーティストやクリエイターとのインスタレーションを開催していく予定ですので、ぜひご注目ください。

1階と打って変わって、2階は少し重厚な雰囲気。一面じゅうたん張りの店内には、天童木工に製作を依頼し、はるばる山形県からトラックで運ばれてきたという、レジカウンターなどの什器がどんと構えています。フロアの中央にあるシルバーの間仕切りは、実は可動式になっていて、横に移動したり回転したり、ガラッとレイアウトを変えることができます。

レジカウンターに3灯吊られている照明デザイナーのインゴ・マウラーによるカンパリライトが赤い光を放ち、後ろのニコラス・テイラーが撮影したジャン=ミッシェル・バスキアのポートレートを怪しく照らす様子が、僕のお気に入りの風景です。

そんな2階にも、明るい光に包まれた一角があります。SEVEN BY SEVENのコーナーです。店内を間接的に照らすよう工夫された自然光のような照明が、窓から入り込む光と混ざり合い、やわらかい明るさをつくっています。あえて塗り跡を残した漆喰の壁、工業的なシルバーのハンガーラック。ところどころに置かれた植物のグリーンが映え、メキシコなどの温暖な地域のベランダを想起させます。

また踊り場の奥の白い壁は、一面手書きのサインで埋め尽くされています。これは今までイベントなどで関わり、お世話になったアーティストやデザイナーの方々が残していった思い出のサインです。

初めは真っ白だった壁も今はすっかり埋まり、その多さに驚いてしまうほどですが、ひとつひとつ見ればどれも思い出深く、昨日のことのように記憶が蘇ります。何事もさらさらと過ぎ去ってしまう時代だからこそ、このようにひとつの場所に思い出が積み重なっていくことの大切さを強く感じます。

Dice&Diceでは一年を通して、本当に多種多様なイベントを行います。例えば、ニューヨークで活躍するデザイナー大丸隆平さんを招いて開催した「OVERCOAT」のポップアップストアでは、大丸さん自ら接客を行う場面も見られ、特別企画のトークショーでは日頃聞けないような話が飛び交いました。

もちろんコロナ禍において色々と状況は変わりました。しかし、それは新しいことに力を注ぐきっかけにもなりました。例えば、最近ではお店だけでなくお家でもイベントを楽しんでいただけるよう、内容を掘り下げた動画や文章のコンテンツを、オンラインストア内の特集ページで発信したりしています。

こうやって困難があっても、それをポジティブに乗り越えられるのは「サイコロのように出す目を変え、立ち止まらずに前へ進む」というDice&Diceのポリシーが心にあるからかもしれません。

そもそもDice&Diceという店名は、ローリング・ストーンズの『タンブリングダイス(ダイスを転がせ)』という曲名をもじって名付けられました。周りを散々振り回し、結局博打に負けて嘆いている「転がるダイス野郎」が主人公のどうしようもない内容ですが、不思議と悲壮感はなく、ゆったりとノリのある曲調が気持ちいい名曲です。

その男は「ああ負けちまった」と嘆きつつ、きっと明日も懲りずにダイスを転がします。Dice&Diceは1989年設立。バブル期の激動の時代に「新しいことを始めよう」と足を踏み出す時、確かにこんなBGMがぴったりだったのかもしれません。

僕たちもその時の気持ちを忘れずに、いつまでも明日に向かってダイスを転がし続けようと思っています。ぜひ、福岡の転がるダイス野郎たちに会いにきてください。

  • Dice&Dice

    世界中のさまざまなカルチャーが交わる福岡を代表するセレクトショップ。長年かけて積み重ねたコミュニティから繰り出される独自のイベントも魅力で、数多くのクリエイターが足を運ぶ。「服ではなく文化を、売る」。

  • 藤 雄紀

    22歳でダイスアンドダイスに入社。個性的な先輩たちに揉まれて20代を過ごし、現在は頼れる店長としてスタッフから慕われる存在に。趣味はサーフィンと読書で、友人と文芸同人誌を自費出版し、福岡の文化系イベントで販売も行う。