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日々の積み重ねから生まれる音楽

ハンバート ハンバート インタビュー

オリジナル曲のセルフカバーとカバー曲を織り交ぜた、
企画盤「FOLK 3」を発売した二人組のハンバート ハンバート。
ひとつ屋根の下で3人の子どもたちを育てながら、
音楽活動のパートナーとしてもタッグを組む佐野遊穂さんと佐藤良成さんに、
家族としての生活と音楽制作についてお話を聞きました。
記事の後半では、お二人のインタビュー動画もご覧いただけます。

Photography by Natsuki Kuroda
Styling by Lim Lean Lee
Hair and Make-up by Azusa Katsuragawa
Videography by Soya Oikawa (TSI)

二人は大学時代に同じバンドのメンバーで、もともとは6人のメンバーがいたんですよね。

遊穂 そうですね。良成に「デモテープをつくるから」とコーラスを頼まれたのが、最初のきっかけです。

良成 当時6人ほどメンバーがいました。とはいえ、そのメンバーで活動していたのは実質1年くらいかな。

 

その頃、遊穂さんはボーカル活動をしていたんですか?

遊穂 いえ、カラオケだけです。だから、単発バイトみたいなつもりでレコーディングに行って。

良成 バイトってことはないだろう(笑)。

遊穂 練習スタジオにも行ったことがなくて「へえ〜こういう仕組みなんだ」と感心したり。それで1曲か2曲を一緒につくって、いいよね、入ってくれる? と誘われて参加することになったんです。

良成 そうだったね。

遊穂 たぶん、本当は他に頼んでいる人がいたのに、その人が来なくなっちゃって、とか、そういうことだったと思います。なんだか急いでいて、はやめにお願いできない? みたいな(笑)。

良成 デモテープを作らないとライブが出来ないんです。会場を使わせてもらうには、資料として音源がないといけない。だから急いでいたのかも。すべてのスタートです。その音源はレコード会社に送ってみたりもして。それから就職活動などの時期にみんなが辞めていってしまったけど遊穂はやめなかったので、二人であらためてデモテープをつくりました。

音楽をつくるプロセスについて教えてください。作詞・作曲は良成さんがなさっていますよね。

良成 そうですね。僕はまずメロディが浮かんでくるタイプです。曲を先につくって、そのメロディから思い浮かぶ情景や、気持ちに合う言葉を入れていきます。弾き語りやフォークのミュージシャンは歌詞が先行することも多いみたいで、ミュージシャン同士で曲作りについて話すときはよく驚かれますね。

遊穂 曲と詞ができたら、それを私が聞いて、いいね、ということになれば、さっそく明日からやってみようという流れになります。初めの時点で、良成のなかにここは遊穂が歌って自分が歌う、っていうのがある程度イメージできているものもあれば、それがないものもある。そういうときは、メインのメロディをどちらが歌うか、両方で試しますね。

聞いてみて、ちょっと違うな、というときもありますか?

遊穂 歌詞に関しては、ときどきあるよね。良成の詞は、想像の幅があるのが魅力だと思っているけれど、限定的になってしまうフレーズが入っていたりすると、そこはよくないんじゃないかと伝えたり。たとえば、ある人が出てきて、そのひとが男なのか女なのかは、聞くひとがそれぞれ持っている体験によってそういうふうに聞こえるっていうのがいいのに、すぐにわかってしまったりとか。

良成 逆もあるよね。

遊穂 そうだね。あまりに観念的過ぎると、聞く人が入っていけない。そういうときは、シチュエーションをもうちょっと具体的にしたほうがいいんじゃないか、とか、そういうやりとりをします。録音したものを2日後くらいに聞いて、やっぱり違うかも、と思えば、歌うパートを大胆に入れ替えたりもして、いろんなパターンをひたすら試しますね。

良成 人の意見は聞いたほうがいいね。自分のことはわからないですから。

遊穂 お互い、自分だけでは考えていなかったことに気づいて「なるほどね」ということがあったりします。二人だけではなく、スタッフに気づかされることもある。そうして予想していなかった方向に転がっていくのは素晴らしいことだと思います。

響きや高さの異なる、二人の声があるのがハンバート ハンバートの大きな特徴だと思います。

遊穂 男女で歌うことのいちばんのメリットは、合わせればキーが上から下までカバーできること。ひとりで歌うとなると、下は出るけど上は出ないとか厳しい音域のものも、二人で歌い分けてしまうっていうのが私たちの得意技ですね。

思わぬタイミングで良成さんの声が前景になったり、コントラストというか、二人のかけ合いが聞いていて楽しいです。

遊穂 それがいいところといえばいいところだけど、制作の過程では、二人の声をどう配置するかは難しいこともあります。サビで聞かせたいところが高音になると、どうしても声が細くなって、落ちてしまうように感じたり。そうなれば、歌うパートを入れ替えたり、歌詞を変えたり、テンポを変えたり。いろんな工夫を試しているよね。

良成 いろんなパターンがあるんですよ。

生活もともにしているお二人ですが、日々、どんなスケジュールで制作をしているんですか?

遊穂 昼間は子どもたちが学校に行っているので、一緒に作業ができます。夕方から夜にかけてはなにもできないですね。住宅地の普通の家だから、夜は大きな声を出すこともできないので。

良成 夜は、作業部屋にこもってヘッドホンをしてできる作業をしたり。

遊穂 私がさてお風呂に入ろうとしていると、これどうかな、とか、聞いてきたりして話をしたり。それで翌日の昼間に実際に試してみる。

2021年の98日には、企画盤の第三弾「FOLK 3」が発売されました。これまでの二枚に引き続きオリジナル曲とカバー曲が織り交ぜられた2人だけの弾き語りアルバム。これは、三つで完成、ということになるんでしょうか。

良成 三部作ってよく言いますよね。でも、インディー・ジョーンズは四作目が出ているし、スター・ウォーズも三部作だったのに、続いたり、前に行ったり。

遊穂 前にいくっていうパターンもあるのか(笑)。

良成 ゼロに行くことも出来るよね。でも、まだ先のことはわからないです。

いわゆる「フォークソング」とは言えない曲も混じっています。

遊穂 意外な曲は意識的に入れています。

良成 たとえばJ-POPとジャンル分けされているような曲をフォークスタイルにして演奏するっていう。

そのフォークスタイルとは?

良成 ハンバート ハンバートにとってのフォークは、ギター1本と二人の声っていうシンプルな方法で演奏することです。

遊穂 木で出来ているスマートフォンのケースってあるじゃないですか。そんなイメージ。

良成 ああ、なるほど(笑)

スマートフォンは、現代的でみんなに馴染みがある。そういう意味でポップスだけれど、そのケースは、ずっと昔からある素材の木でつくられているという意外な感じですね。スチャダラパー featuring 小沢健二の「今夜はブギー・バック(smooth rap)」なんて特に新鮮でした。歌い出しの「ダンスフロアーに華やかな光」なんて、ジャンルでいうところの、いわゆるフォークとは対極の場面ですね。

遊穂 カバーにはいろんな面白さがあります。まず、コードを調べる。それで弾いてみる、歌ってみる。詳細に聞いて、ここがこうなっているんだとわかっていきます。なぞることで、「すっごいよくできてるこのコード進行・・・!」という発見があります。

良成 自分で作る曲ではないから、自分では使わない言葉にしろ、自分では作らないメロディラインを演奏したりは楽しいですね。ライブでもカバーをよくやってきました。

遊穂 歌って、曲と詞だけでなく、ミュージシャンのキャラクター性とセットにして聞いていると思います。でも、私たちのスタイルでやるとなると、シンプルなところを抽出して骨組みだけを取り出すことになる。私達の歌をだれかが歌ってくれたときにもそれは起きると思います。なにかがカットされていたり、足されたり、サウンドが違うし新鮮なんだけれど、別の曲にはならない。曲のアイデンティティは残るんです。

https://youtu.be/ttEWGP5Z-9c

アルバムには、オリジナル曲の再録もあるみたいですね。

良成 この企画の第一弾の「FOLK」はデビュー15周年の節目につくりました。節目だし、昔の曲を振り返って再録するのもありかなあと。作ったばかりのときは僕らにとっても新曲なのである意味慣れていないんですが、そのあと、ライブで何度も演奏したりしていくうちに慣れてくる。そうすると、アルバムに収録をしているときにはわからなかった、曲の良さを引き出す方法に気づくことがあるんです。意外とわからないんですよ。そうすべきだったな、ということがあったりして。

アルバムには定着されるけれど、すこしづつ微調整がされるんですね。そういったアレンジや曲の変化が聞けるのもライブの楽しみのひとつですね。たとえば「バビロン」は、2008年発売の「まっくらやみのにらめっこ」の1曲目に収録されているもの。「考える 本を読む 夢を見る 嘘をつく」といったように、はじめ動詞が連続していきます。和やかで、友好的な動詞もあれば、残酷な動詞も入ってくる。ただあたたかいだけではない歌詞の世界と、二人の声のコントラストがあいまってハンバート ハンバートらしい曲だと思いました。

 

遊穂 良成はびっくりするようなものが好き。小説でも、最後の最後で大どんでん返し、みたいなものとか。

良成 「バビロン」では違う歌詞を歌ってみるっていうのをやってみたんですね。逆の側にあるような詞がかけあわされているけれど、ごちゃごちゃは聞こえないようにして。

曲の終盤で「わたしはあなたであなたはわたし 時空を超えて 出逢うきみとぼく」といって、それまで二つの極に分かれていたものが合流するようにも感じます。

遊穂 そういえば、子どもの運動会で歌われていた曲で、紅組と白組がパートに分かれて違う歌詞を歌うんだけど、最後に合わさっていく曲がありました。刻む感じのパートと、声を伸ばすパートがあったりして感動しましたね。

良成 あいがけカレーみたいな。

遊穂 織りなしてる〜! っていう(笑)。

ハンバート ハンバートは、2019年の1年間、「平日しかライブをしません」宣言をしていました。二人での活動だから、週末にある子どもの行事に行けないことも多く、子どもと過ごす時間を取るために、そのような決断に至ったのだとか。

遊穂 私たちだけでなく、ツアーのスタッフにも同じくらいの子どもがいる親がいて、それならやってみようと。そんなことをしてお客さんに来てもらえるのか、スタイルが成立するのかは不安がありました。いざやってみると、その姿勢に共感をしてくださるお客さんも多かったし、意外と、平日のほうが来やすいっていう職種の方もいることが分かった。週末にわざわざ出ると家族との予定を置いて出てこないといけなかったりもして、会社帰りのほうが来やすいって人がいたりして。そういえばそうだよね、と思いました。

良成 ライブツアーは全ての都道府県でできるわけではないから、週末のほうが隣県からも来やすい、って声もありました。フェスなどのイベントも土日や休日なので、それに出られなくなってしまう。ずっとは続けられないから1年限定にして。なんでも一長一短ですね。

親とはこうあるべき、ということや、クリエイターたるものは……、などさまざまな考え方があると思います。仕事に限らず、プライベートな生活でも、すべてが自分の理想通りに進められるということはないのかもしれません。それほど極端な変化ではなくても、できる範囲で試してみる。お二人の1年限定の試みは、とてもリアルな試みだと感じました。

遊穂 私たちは、自信満々で子育てや音楽活動をしているのではないです。迷ったり失敗したなあと思うこともある。子どもを育てることにしても、音楽活動にしても、ずっとわからないことばかりで、常にこうしておけばベストだ、という方法は、だいたいないと思っています。

良成 子どもがいなかった時は、自分の音楽のことばかり考えていたけれど、子どもができてからは、親としての視点だったり新しい目線が出てきたと思います。

遊穂 特に子どもが小さいときは、大人の世界だけでは見えてこないハプニングがあるし、大人だけの世界でのルールが通用しなくなることがよくありました。こうしておけばいいんだ、と思ってそうしていると、それにも穴がある。私たちもそのときどきで悩んだり、わからないけど進んでみる、っていう姿勢でいるのが大事かなと思います。

https://youtu.be/7PekwZxbkgM

家で歌を歌ったりすることはあるんですか? 制作以外に。

遊穂 それぞれが年がら年中、歌っています(笑)。私はよくお風呂で歌っています。

良成 子どもたちが僕らの曲を口ずさんでいることもあります。制作をしているとき、聞かせようってことはしなくても、丸聞こえなんでしょうね。「もう歌ってるよ」と驚いたり。僕はこどものとき、ずーっと歌っていましたね。街中でも、家でも学校でも、どこでも歌って怒られていましたね。思い浮かんだ曲をブレーキを掛けず口ずさんでいたんだと思います。

遊穂 子どもを育てていて思ったんですが、そもそも歌うのが本来の姿なんだな、というか。歌わなくなっちゃうひとは何か理由があって歌わなくなっていったんだと思います。

良成 それこそフォークソングは、農作業や織物、船を漕ぐときに息を合わせるためなど、労働をするときに歌ったのが原型にあるね。誰かに聞かせるためではなくて。

遊穂 立ち上がるときに「よっこいしょ」とリズムをとりますよね。そういう、つい口にしてしまうくらいの感じが最初にあって、フォークは生まれてきたんじゃないかと思います。

  • ハンバート ハンバート

    1998年結成の佐藤良成と佐野遊穂によるデュオ。2人ともがメインボーカルを担当し、フォーク、カントリーなどをルーツにした楽曲と、別れやコンプレックスをテーマにした独自の詞の世界は幅広い年齢層から支持を集める。