#AGRICULTURE#INTERVIEW

農業から、持続可能な食生活を考える。

野菜の宅配販売「坂ノ途中」インタビュー

「100年先も続く、農業を」をコンセプトに、
農薬や化学肥料を使わずに育てられた野菜を全国に届ける「坂ノ途中」。
彼らがパートナーとする生産者の多くは、農業をあらたにはじめた新規就農者です。
新鮮な有機野菜が届く宅配サービスは、美味しい食卓につながるだけでなく、
持続可能な社会に近づくためのアプローチでもあるそう。
いったいどういうことでしょうか?
人間がはるか昔から続けてきた農業と、環境問題の深い関係、
そして坂ノ途中が考える、ブレを許容する食生活の未来について、
坂ノ途中の代表取締役、小野邦彦さんに聞きました。

Photography by Hiroyuki Takenouchi
Edit by Yoshikatsu Yamato (kontakt)

―食料品の宅配サービスはさまざまにありますが、坂ノ途中は「100年先も続く、農業を」というコンセプトのもと、サスティナブルな方法で続けていける農業を考え、野菜を販売しているのが大きな特徴だと思います。

小野 僕らのテーマは、環境に負担の少ない農業をどうしたら広げられるか、ということです。パートナーである生産者さんの9割は、「新規就農者」といって新しく農業に挑戦した人たちです。彼らは、農薬や化学肥料を使わないオーガニックやそれに近い方法で農産物を育てています。

新規就農された方は、強い思いをもって農業に取り組まれますが、どうしても小規模な経営になりがちで、出荷できるものも少量だったり不安定になります。一般的な流通の仕組みでは、どうしても「付き合いにくい相手」になってしまいます。新規就農者をメインパートナーとして事業が成り立っているのは、日本では前例がないと思いますね。

坂ノ途中 代表取締役の小野邦彦さん。

―そもそも、農薬や化学肥料は地球環境にどんな影響があるのでしょうか?

小野 化学肥料のうち一番よくつかわれる窒素肥料は、簡単に言えば、空気中の窒素を天然ガスで圧力をかけて固定化したものです。作る過程でエネルギーを消費するだけでなく、田畑に投入したもののうち半分くらいは植物に吸収されず河川に流れ出ます。河川の「富栄養化」といいますが、ともかく栄養過多状態を生み出し、植物プランクトンの大量発生など水質汚染を招きます。畑だけではなく、川や海の生態系までアンバランスにしてしまうんですね。

農薬は、主には田畑にいる虫や草や菌といった生き物を排除するために撒きます。狙った生き物だけを排除することは難しく、生態系は脆くなってしまいます。カメムシなど害虫と呼ばれる昆虫を殺すつもりで農薬を撒いていたら、益虫と呼ばれる肉食昆虫まで排除してしまった、という具合です。

―人間のコントロール下で行われることだけれど、いずれも副作用というか、それによって引き起こされるのは、必ずしもいいことばかりではないんですね。理想的な考え方ですが、肥料としての役割をはたしながら、水質汚染にはならない、といった万能な肥料があればいいのに、なんて考えてしまいますが自然相手に常にうまくはいかないというか。

小野 とはいえ坂ノ途中では、農薬や化学肥料を過度に敵視するというよりは、できるだけ土質や気候にあったものを栽培していこう、そうすることで、外から資材やエネルギーを投入しなければいけない状況自体を起こりにくくしようというスタンスです。農薬を使っていなく気候に合わない作物を育てるために温度管理をしていれば、それだけたくさんエネルギーを使いますよね。現代農業は「生産」とは言うけれど、実は、消費しているエネルギーのほうが多いんです。

―エネルギー収支が赤字というか、環境への負担はさておいたままで続けているんですね。野菜や果物など、農作物にはナチュラルな印象を抱きますが、大規模生産の現場は人工的な仕組みで成り立っているんですね。

小野 そもそも農業は人間の営みのなかでも最も大きな環境破壊の要因なんです。1万年前からずっとそうです。人間の歴史は、畑を耕して土が痩せて食べ物が作れなくなったら、別の場所へ移動して食べ物を作っての繰り返し。森林伐採の理由は農地の確保です。農薬や化学肥料を使う現代農業に限った話ではなく、農耕の歴史は、環境へのインパクトという意味では負の歴史なんです。

取材時、自社農場である京都府亀岡市の「やまのあいだファーム」。
このエリアとしてはめずらしく、ふかふかの雪に覆われていた。

―でも、食べるものがないと生きていけないですし、やめるわけにもいかない。

小野 教科書に出てくる文明発祥の地は、今ほとんどが砂漠ですよね。ひとつの文明が1000年以上続くことがめったにないのは、土をサスティナブルに活用する手段をまだ人間が身に付けていないからなんです。

―坂ノ途中のコンセプトにある「100年先」が妙にリアリティのある数字に思えてきました。人の一生くらいで、それほど長くないですよね。ただ、そんななかでも、坂ノ途中が提案しているのは、やり方は工夫できそうだよね、ということでしょうか。

小野 そうですね。農業の世界には「スケールデメリット」があるんですね。大規模で、いわゆる「見渡す限りのキャベツ畑」という景色って、生態系はペラペラの状態です。それよりも、家族単位で営むような小規模の農家がたくさんあるほうが、特定の作物を大量に供給することはできないけれど、想定外のことが続いても何かしら収穫物がある、何かあったときのレジリエンス(回復力、しなやかさ)は高いとされています。この認識は持続可能な農業を目指すうえでは一般的です。

国連も、2019年から2028年を「家族農業の10年」と定めています。だけれど、日本では未だに「規模拡大」「安定生産安定供給」という発想がだいぶ強い。そんな流れのなかで、小さな規模で新しく就農したけれど長く続かずやめてしまう、というひとが沢山いるんですね。強い思いはあるのに、まとまった量の収穫が約束できないから大きな流通に乗せられなくて、販売先は近所の直売所やレストランだけ。経営的に立ち行かなくなってリタイアしてしまうというわけです。それを変えたかったんです。

―つくることにたいして熱心でも、継続的に売っていけるための流通方法がなかったと。

小野 イベント的に、農家さんを応援しよう!といった取り組みがあちこちで生まれては消えます。結局、作り手にとっての継続的な収入にはつながっていないものも多い。既存の農家さんには「どうせすぐにやめちゃうでしょ」と、新規就農者は頼りない存在だと思われてしまい風当たりは強い。だからこそ余計定着しにくい。そして地域では「やっぱり辞めよった」と言われてしまう。こうした負のサイクルには、課題意識を持っている農業関係の方も多いです。

しかし、解決のためのこれだと思える動きはなくて。僕としては、一方に農業をはじめたいという人がいて、一方で、空き農地が増えている。ならはじめようと。彼らは仕事を辞める覚悟があって好きで好きで農業に挑戦するので、技術や品質はとても高い。勉強熱心ですし、とてもよく働きます。そこで僕らは、ITや宅配といった現代的なツールを使いつつ工夫を重ねて、彼らの育てる農作物を売っていこう、売り先を開拓しよう、ということをしてきたんです。見本があったわけでないので試行錯誤しましたが、今では300軒ほどの農家さんと繋がって、自社便や宅配便で全国に販売をしています。

やまのあいだファームで育った、スティックブロッコリー。
取引農家さんに育ててもらおうと提案するにあたって、
自社農場で試験的に栽培してみることも。

―環境負荷の少ない有機農業でつくられた野菜の味わいには、どんな特徴があるんですか?

小野 生き物いっぱいのところで時間をかけて育った野菜には、複雑な美味しさがあると思います。たとえば、やまのあいだファームで獲れたスティックブロッコリーは甘いけれど、甘さだけではない。噛むごとに風味が変化して、香りもしっかりしている。一方で、たとえば糖度を高めた「激甘ミニトマト」など甘さだけを追求した味は、圧倒的に施設栽培が有利です。二酸化炭素濃度や水分量など、どんなパラメーターを管理したら糖度が上がるか、ある程度答えがでているので。ただ、甘さ以外の味はあまりなくて、平板な味わいになりがちだということもあって……。

―ある部分を強めることはできても、甘みだけでなく酸味も感じられて、といった複雑なバランスは出せないんですね。それを求める舌があるかどうかも、今後の未来につながっているかもしれません。

小野 そう考えていくと、僕らの挑戦が成り立ちうるかは、ある意味、食べるひとの味覚にもかかっていると言えます。甘ければそれでいい、となってしまったら、有機栽培は勝てないですから。

―自然は、晴れの日もあれば、雨の日もある。今日みたいに雪が降る日もある。野菜はいろいろな状況に晒されます。それで対応力がついて、豊かな味につながったりするのでしょうか。

小野 そうですね。ところで、ワインには複雑さを楽しむ文化がありますよね。産地や農家ごとの個性や、年度によっての味のブレが評価される。本来、生き物を食べるっていうのはそういうことだと思うんです。野菜も、雨が多ければ水っぽくなる。でも、そういうこともあるし、それをリアルに体感することの価値こそ僕らは伝えていきたいです。

―水分の多い野菜は、ポタージュにしたら舌触りのなめらかなスープになったり、調理法によって水っぽさを長所として活かせたりもしますよね。もちろん、野菜の状態が分かって、それに合ったレシピを思いつけるのは料理上級者かもしれませんが、ブレがある野菜によって、こちらが引き出される対応力もあるのかも、と思いました。

小野 食に限らずですが、社会がどれくらい持続可能になっていくかは、「ブレをどれくらい許容できるか」ということがポイントだろうと思います。さらにいえば、人間に対する世知辛さなんかも、それとリンクしている。人間だって、本来ブレがあって不安定なもののはずです。

しかし「安定」ばかり求められる無言の圧力を感じることがありませんか? でもそれって、しんどいです。いきなり人間のブレを許せるかどうかはわからないけど、まずは、ちょっと遠い野菜のブレを楽しんでみる。そうしていくうちに、おおらかな包容力を人にも向けられるようになるかもなあと思ったりもして。

―ところで、旬の野菜がセットで届く定期宅配は、料理好きの上級者向けのサービスかな、と思っている人もいるかもしれませんが、どうですか?

小野 いえいえ、料理をパパッと済ませたいひとにもおすすめですね。しっかりと味のする野菜が届くので、焼くだけ、煮るだけ、とりあえず味噌汁、といったシンプルな料理でも、しみじみと染み込むような美味しさがあるはずです。定期便だと、だんだん野菜のことがわかっていく楽しさもあると思います。人参なんかは、冬が深まるにつれて、戦い抜いた顔つきになってくるんです。リアルに季節が巡っていくってことが体感できるのは面白いと思います。

野菜とともに届く、農家さんの情報やレシピ、
保存方法のコツなどが書き添えられたお野菜の説明書。
定期便には季節の野菜を楽しむヒントが詰まったパンフレットも同封される。

―最後に、坂ノ途中が目下、挑戦していることについてお聞きしたいです。

小野 新しい取り組みとしては、「海ノ向こうコーヒー」でしょうか。大規模農業による森林減少など、環境問題が深刻化している東南アジアのラオス北部に訪れたことをきっかけにはじまったプロジェクトです。今はミャンマーやフィリピン、雲南、タイなど生産地域を増やしています。

―それもまた、環境や社会を持続可能にしていくためのアプローチなのでしょうか。

小野 はい。僕らの大切な海外事業ですね。

―なぜコーヒーだったんですか?

小野 コーヒーの樹は直射日光が苦手なんです。他の植物の木陰で育てたほうが、ゆっくりと熟して味がのってくる。だから、今ある森を守りながらでも、コーヒーは栽培することができる。少数民族と言われる彼らにとって、森は売ってしまったら1回の現金収入にしかならないけれど、森林を残したままコーヒーを売って暮らすことができれば、森を伐採する理由がなくなるじゃないですか。

コーヒーは収穫後の発酵や乾燥といったプロセスで、品質をあげられるので、その方法もいろいろ実験したりして、スペシャリティコーヒーといえるまで引き上げて日本に輸入しています。こうした取り組みにチャレンジしている団体は多いのですが、なかなか輸出できるまでのレベルになるのは難しい。さまざまな国で栽培支援をして、できたものを輸入して販売しています。今後もどんどん増やしていきたい取り組みですね。

  • 小野 邦彦

    株式会社坂ノ途中の代表取締役。1983年、奈良県生まれ。京都大学総合人間学部を卒業後、フランス系の金融機関を経て2009年に坂ノ途中を設立。多様なスキルを持つ社員とともに、農業の持続可能化に取り組む。国内での宅配販売に限らず、ラオスやミャンマーをはじめさまざまな地域でコーヒーの有機栽培の支援をするなど、アプローチの幅は拡大中。好きな野菜はカブ、オクラ、しいたけ。

  • 坂ノ途中