#OUTDOOR#TRAIL#FOOD

衣食住をかついで歩くJohn Muir Trailへの旅

ロングトレイル日記 その1 ―ハプニングは続くよ、どこまでも―

VOLUME.6

MARGARET HOWELLのカフェ店舗で7年ほど勤務し、
現在、都内3店舗のキッチンリーダーをつとめる緑川千寿子さんは、
昨年の夏、約1ヶ月にわたってアメリカ「John Muir Trail」への旅に出た。
全8回にわたる日記の第一弾では、サンフランシスコへと渡り、
憧れていたヨセミテでの数日間を経てJohn Muir Trailへ歩き出す前夜までをお届けする。
日記に滲むのは、準備の至らなさに気づいて落ちこんだりしながらも、
どうしたって美しい風景にたいして抱く感激のあいだを行き来する、緑川さんのリアルな思いだ。

Text by Chizuko Midorikawa (ANGLOBAL)
Edit by Yoshikatsu Yamato (kontakt)

8月23日 どうにかアメリカへ

飛行機に乗り遅れるなんて。まさかの失敗をリカバーすべく必死に空港の職員さんに助けを求めると、追加料金こそ発生するがどうにか次の便に乗せてもらえるという。職員さんに誘導してもらいながら搭乗口まで急ぎ、ようやく飛行機に乗り込んだ時にはすっかり息も上がっていた。

とにもかくにも、サンフランシスコに到着した。思いがけず序盤からつまずいてしまったけれど、さらなる失態に気づく。テント用マットを忘れていたのだ。なぜよりによってこんな大物を。気を取り直して、アウトドアショップやスーパーでの買い物のついでに、マットも購入する。

8月24日 憧れの地、ヨセミテ

朝5時、ヨセミテに向けて出発する。バスと電車を乗り継ぐこと3回。電車では、食堂車の窓に流れる景色を楽しみながら、注文したビールを傾ける。旅感、出てきた! 六時間ほどの長旅ではあるけれど、移り変わる景色にはいつも新しい瞬間があって飽きることがない。

ヨセミテには、食べ物の匂いに誘われてクマがやってこないよう、至る所に「ベアボックス」というフードロッカーがある。テントを張っているあいだ、私はついキョロキョロとしてしまった。さいわいクマは出なかったけれど、ものすごい爆音に驚いて振り返ると、巨木が今まさに倒れるところだった。ああ、アメリカのスケール感。

晩御飯は、フリーズドライの卵をつかい、乾燥野菜とあさりの卵とじを、と思ったらみごとに失敗。物体Xができた。緊張は抜けない。けれど、4日間のヨセミテ滞在、とても楽しみだ。

8月25日 準備不足を痛感する

6時に起きる。ゆるやかな散歩コースもあれば、泊りがけで挑むようなトレイルへ続く道もある、ここヨセミテ。私たちは二泊をかけてエルキャピタンの頂上まで行くトレイルの許可証を取っていた。

しかし、重い。登りはじめて1時間、背負った荷物が重くてたまらない。しまいには動けなくなってしまった。バランスが取れない。肩にザックが食い込む。胸が苦しい。追い打ちをかける、突き刺すような日差し。いつもより1キロか2キロ重い、14キロ。わずかなように思える差が、これほどまで影響するなんて。自分が情けない。とても悔しかった。

山戸ユカさんが言っていた「なるべく軽くして、きちんと体力づくりを」という言葉が思い浮かぶ。リュックに入っていた重たいものを彼と交換してもう一度歩いてみたけれど、やはりダメ。ギブアップせざるを得なかった。

今日のところはキャンプサイトまで降りて、荷物の断捨離をすることに。日焼け止めと化粧水は最小限に減らして、汗拭きシート、ノートとお別れをする。食料も全部出して、一から食事の計画も考え直す。今更感。ヨセミテまで来て、荷物の整理に追われている。何してんだ、自分。

8月26日 ヨセミテで過ごすだらだらした一日

6時。泣く泣く諦めたエルキャピタンの登頂ルートを途中までリベンジする話もあったけれど、さくっと行ける、湖畔の散歩にする。ひとまず荷物の重さに慣れないと。もしかすると挫折を先送りにしたのもあるかもしれない。また登ってダメだったらと思うと怖かった、実は。

ヨセミテで過ごすだらっとした1日。お昼のサンドイッチには肉やチーズをてんこ盛りにして、夜はポテチをつまんだり。これはこれで悪くはないのだけれど。

8月27日 最終日の川遊び

釣りをしたり、泳いだり。私たちの他にも、ボートや川での遊びを楽しんでいる人で賑わっている。水は冷たいけれど陽は暖かく、吹く風は柔らかい。目の前には山々が広がって、青空に稜線を描く。天国。もしそんな場所があるとしたら、こんなことだろうと思う。

泳ぎ終わって、リフレッシュした頭で考える。John Muir Trail、ほんとに歩き切れるんだろうか。準備不足からくる不安に襲われるときもあるけれど、旅には、自分で予定し、心待ちしていたイベントだってやってくる。心配でソワソワする気持ちと、今を楽しみたい気持ちがないまぜになる。

John Muir Trailの本来のルートとしてはヨセミテがスタート地点なのだけれど、許可証の抽選は高倍率。ほとんどの人がヨセミテ以外の登り口からスタートすることになる。私たちもそうだ。明日、トゥオルミーメドウから出発する。ヨセミテ最後の日、テントに入っても、なかなか寝付けなかった。

8月28日 いざ出発の地へ

6時起床。いよいよトゥオルミーメドウのキャンプサイトへ。私たちの出発地点だ。

明日歩き始めるハイカーもいれば、逆のルートで歩いてゴール間近のハイカーもいる。「どこまで歩くの?」、「何日でゴール予定?」といった会話をしていると、ロングトレイルも、いよいよ現実味が増してきて緊張してくる。日が落ち、レンジャー(自然保護官)の歌を聞きながらキャンプファイヤーを囲む。私の頭の中では、足りないものはないだろうかという不安が渦巻いていた。出発前夜、腹を括らねば。

続くJohn Muir trail日記第2弾は、いよいよロングトレイルも本番。なんだかんだ平気でしょ、という予想をゆうに超えてくるのが「長旅」なのでしょうか。テントやバーナーといった寝食のツールの不具合をはじめ、水が豊富なはずのトレイルで起きたまさかの水トラブルにも臨機応変に対応しながら、すこんと抜けた晴天、色鮮やかな花々、夜には星空に癒されながら、ハイカー緑川さんは歩みを進めます。

  • 緑川千寿子

    マーガレット・ハウエル 神南カフェで7年間を過ごし、現在はマーガレット・ハウエル カフェ3店舗のキッチンリーダーを務める。大好きな漫画や食にまつわるエッセイを片手にお酒を嗜むことが何よりの至福。