and wander | District Vision
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and wander | District Vision

VOLUME.54

Photography and Text by Soya Oikawa (TSI)

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Because it’s there. ―そこにエベレストがあるから。―

イギリスの登山家ジョージ・マロニーは、かつてニューヨーク・タイムスの記者に「なぜエベレストに登りたかったのか」と尋ねられ、そう答えたという。

Because it’s not there. ―最良と思えるものがなかったから。―

またものづくりに携わる者は、世間から投げかけられる「なぜそれを作ろうと思ったのか」という問いに、しばしばそう答える。

登山とものづくりとの間におぼろげに鎮座する、まるで禅問答のような動機。

そんなことを思ったのは「チタンの特性を活かしたランニング用サングラス」という一点の頂に向かって情熱を注いだ、ふたりの若者の話を知ったからだった。既存の品では満足できず、納得のいくものづくりに挑んだ彼らが、かつて世界最高峰の山々に挑んだ勇者の姿に重なったのだ。

彼らとは、イギリス人のTom Dalyとドイツ人のMax Vallotのことで、「District Vision(ディストリクト ヴィジョン)」という、ランニングとメディテーションをテーマとしたプロジェクトを主催している。

ふたりはロンドンで学生として出会い、卒業後にTomAcne Studios(アクネストゥディオズ)、MaxSaint Laurent(サンローラン)という世界的なファッションブランドでの仕事経験を経てニューヨークに渡り、ランニング(運動)とメディテーション(瞑想)との関係について研究し、アスリートのための最良なツールを開発するプロジェクト「District Vision」を2015年にスタートさせる。

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創設の起因となったのはサングラスだった。学生のころから日常的に眼鏡を使用し、日本のチタンの加工技術の可能性に早くから着目していた彼らだったが、同素材が用いられた、自分たちが納得のいくようなスマートなスポーツ用のサングラスが無かった。意を決した彼らはファッションアイテムではない本格的なランニングのためのサングラスを求め、世界屈指の技術を持つ福井県の鯖江市に開発パートナーを得て数年を要し、2015年にようやく最初のプロダクトを完成させ、ブランドをローンチ。

以降、アスリートのパフォーマンスを引き出すための「眼の科学」と、精神的な健康を保つための「心の化学」とを関連付けた研究を続け、サングラスを中心としたものづくりや、ランニングにまつわるさまざまな活動を行っている。

山と街における行動時の衣服の快適性や、視覚的な美しさを追求してきたand wanderが、そんな彼らとコラボレーションを発表したのはとても自然な流れだと思った。

今回のコラボレーションで発表されたアイテムを見ていこう。

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District Vision × and wander sunglasses ¥33,000 (オンラインストア

TomとMaxはブランド設立当初から日本のものづくりへの敬意を込めて、サングラスの各モデルに工場のスタッフの名を冠しており、今回のコラボレーションでは「Nako」というモデルがベースに選ばれている。耐衝撃に優れたナイロンをメインに用いることでわずか25グラムという軽さを実現。ランニングはもちろん、あらゆるスポーツに適応してくれる。また搭載されている偏光レンズはまぶしさを軽減してくれるだけでなく、曇るとそれぞれのロゴのグラフィックが現れるというユニークな仕掛けも。視界への干渉が少ない大きなフレームも特徴だ。

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District Vision × and wander PERTEX wind jacket ¥36,300 (オンラインストア

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軽量で防風、撥水性に優れたPERTEX wind jacketは、and wanderの同モデルをベースに、District Visionのシンボルカラーであるレッドを効果的に配置したパッカブル仕様。

wind jacketとともに、コットンのTシャツの背面に施されたアートワークはグラフィックアーティストの「Filip Pagowski(フィリップ・パゴウスキー)」によるもの。

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District Vision × and wander SS T ¥12,100 (オンラインストア

日本的な瞑想(座禅?)から着想を得て描かれたグラフィックは、野外での活動における心身の健康が表現されているそう。どこか禅マスターを彷彿させる。前面の胸に描かれた「And wander District Vision」のタイポグラフィもユニークだ。3段の真中だけ「District Vision And wander」と順番が入れ替わっている。

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District Vision × and wander Dyneema drawstring bag ¥15,400 (オンラインストア

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超軽量で高い防水性を誇る「Dyneema(ダイニーマ)」を用いたドローストリングバッグ。わずか95グラムで実測17リットルの容量は、ランニング前後の着替えやシューズ持ち運ぶのに最適そう。こちらにもひとつ目の禅マスターが。さらには同じDyneema素材によるサコッシュに加え、ウルトラマラソンなどの長時間に及ぶランニングやトレイルランにも最適なメッシュキャップも登場予定だ。

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奇しくも本記事の撮影のために訪れたand wander丸の内店は、コロナ禍の影響で2度にわたり延期となった「東京マラソン2021」のコース添い、ゴール地点のすぐ側にあり、撮影の翌々日には世界記録保持者のエウリク・キプチョゲ選手をはじめ、多くのランナーが駆け抜けた(その中にはサブスリーランナーの同店店長、小山健太郎さんの姿も)。

彼らに、「なぜ走るのか」と問えば、

Because it’s there. ―そこに道があるから。―

きっとそう答えるのだろうか。

走ることと瞑想すること。前を向きながら、心の内を見る。心地よい疾走感と、身体の疲労を感じ、不意の事態に備えて、意識を研ぎ澄ませる。抜きつ抜かれつの勝負の先にあるのは、雑音を取り除き、わずかな変化にも気が付くことができるような「あるがまま」の自分の姿。そう思うと、走ることとはまさに、瞑想のようなものなのかもしれない。

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  • District Vision

    ロンドンの大学で出会ったTom DalyMax Vallotによって2015年にニューヨークで設立されたアスリート向けのハイパフォーマンスアイウェアブランド。ランニングとメディテーションをテーマに、福井県鯖江市で作られる精巧なサングラスやウェアなどと展開。