カテリーナ古楽合奏団コンサート「春の古楽」 前編
#quitan#Early Music

quitanが奏でる、喜びの往来

カテリーナ古楽合奏団コンサート「春の古楽」 前編

VOLUME.1

「文化の交歓」を合言葉に、
ものづくりの旅を続けるブランド「quitan」デザイナーの宮田紗枝さんは、
以前の対談をきっかけに「カテリーナ古楽合奏団」との親交を深めてきました。
今回、その両者が新たな試みを始めるとの知らせを受け、
ともに大きな時間のものさしで活動する両者の「いま」を取材させていただくことに。
音楽と衣服。古来、人々の暮らしと深く結びついてきた、
喜びの往来のようすをお楽しみください。

Text & Photography by Soya Oikawa (TSI)

東京の西側、多摩地域にある玉川上水駅。はやる気持ちから、約束の時間よりもだいぶ早く着いてしまい、「ロバハウス」までの緑道をたっぷり時間をかけて歩く。

江戸時代から市民の生活を支え続けてきたという上水道沿いに延びる遊歩道はすっかり春の新緑に囲まれ、さながら都会の喧騒を忘れさせてくれる浄化作用がありそうだった。やがて目的地に到着すると、ほどなくしてquitanのデザイナー宮田紗枝さんと写真家の川村恵理さんが、たくさんの荷物を持ってやってきた。

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中世・ルネッサンス時代の古楽をルーツとした音楽活動を行なっている「カテリーナ古楽合奏団」はこの東京・立川市にある「ロバハウス」を拠点としている。

時を超えて、人々の暮らしに宿る本質的な豊かさを見つめるその活動は、「文化の交歓」を合言葉にものづくりを行なっているquitanと通底するところも多く、両者は以前に行われたインタビューを機に親交を深めていたのだった。

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そして今回、5月29日(日)に開催されるカテリーナ古楽合奏団のコンサート「春の古楽」に向けて、quitanが衣装協力をすることとなり、この日はフィッティングも兼ねたヴィジュアル撮影が行われるのだ。

quitanのデビューまで軌跡を追った連載「はじめまして、quitanです。」の中で、デザイナーの宮田さんとともにロバハウスを訪れたのが一年と半年前。ANCMとしてはそれ以来の再訪となり、僕はこの日の取材を心待ちにしていた。

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その日は春にしてはとても暑く、到着した団員の方々はみんな一様に汗ばんでいたのだが、ロバハウスの半地下にある稽古場兼ホールは空気がしっとりとしていて、心地よい涼感に包まれていた。揚々とした外光とは時空の異なる世界のような、静かにまどろむ明かりの中で、撮影のための準備が進められていった。

合奏団の創設者である松本雅隆さんをはじめ、この日は5人の団員の方々が集まってくださった。世界を旅しながら歌い歩いたという、かつての吟遊詩人を思い起こさせてしまうような、演奏家の持つ特殊な雰囲気に圧倒されてしまう。普段あまり見かけることのない不思議な形をしたケースから、古楽器たちが姿を現した。

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ここで言う「古楽器」とは、主に中世からルネサンス時代のヨーロッパの音楽の演奏に用いられていた楽器をルーツに復元された民族楽器のことで、ほかの伝統楽器も含めて古楽器と総称されることもある。当時のものは博物館などに収蔵されている以外はほとんど現存しておらず、絵画や文献などをもとに復元するのもとてもむずかしく、団員のみなさんが扱う楽器たちは大変貴重なものなのだ。

全員が揃ったところで挨拶を済ませ、さらに準備を進める。宮田さんが持参した衣装の説明をし、団員のみなさんが着替えている間に、ホールに椅子を並べて撮影構図を整える。

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やがて着替えを済ませた団員が1人、2人と降りてきた。「おお……」思わず声が漏れる。とても似合う。

各々が調律や準備を始めると、それまで人が動く音しかなかった空間に、別の生き物の音が次々と現れ始めた。僕にはそれが調律なのか、演奏される楽曲のさわりなのかを聴き分ける術はないものの、とにかくすごい存在感だった。

風のように、目には見えないのだが、耳や鼻や口で、胸やお腹で、手や足で、体全体が、踊るように鳴っている音の存在を、確かに感じていた。そしてそこからの1時間は、記憶が途切れ途切れになってしまった。

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写真家の川村さんによるメインの撮影を邪魔しないように、僕もひたすらシャッターを切り続けた。ホールには楽器から発せられる無数の音の波動がうねり、重なり、染み込んでいく。加工や増幅がされない、鳴るがままの音は原始的な、生々しい生命力にあふれていた。

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夢中で撮影を続けていたら、松本更紗さんによる舞踊が始まった。伸ばした指先にすべての音が向かい、タタンと打たれるステップにリズムが締まる。数百年前も今も、音楽と踊りは分かちがたく結びついていることを、あらためて感じ、またもや圧倒されてしまった。

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カテリーナ古楽合奏団のみなさんが、quitanをまとい、音を奏で、踊る。その時、quitanは衣服という役割を越えて、音の一部となって鳴りわたり、身体の一部となって舞っていた。悠久の時を超えて、変わらずに心を揺さぶる、文化の交歓が確かにあった。

この体験をぜひ、みなさんにも楽しんでいただけたら幸いです。quitanをまとったカテリーナ古楽合奏団によるコンサート「春の古楽」。本番は下記を参照ください。

<カテリーナ古楽合奏団 春の古楽>

2022年5月29日(日)

18:00開場 18:30開演

国分寺市いずみホール Aホール

チケットなどに関する詳細はこちらをどうぞ。

  
  • カテリーナ古楽合奏団

    1973年に松本雅隆さんにより結成。東京立川市にある稽古場兼ホールの「ロバハウス」を拠点としながら、中世・ルネッサンス時代の古楽器の演奏や空想楽器を用いた音楽イベントなどを行うほか、国内外さまざまな音楽会へも参加。またTV番組や映画の音楽を担当するなど幅広い音楽活動を続けている。

  • 宮田・ヴィクトリア・紗枝

    アメリカ・シアトル生まれ。quitanデザイナー。幼少の頃より多国籍な環境で遊牧民のように転々と暮らしの場を変えつつのびのびと育つ。大学を卒業後はファッションの現場でものづくりの経験を積み、2021年春夏よりユニセックスブランド「quitan」を展開する。