街を発ち、野山を越えて
山とつながる日々の起点 「MT. and wander」
VOLUME.3
山や自然を楽しむきっかけ作りを続ける「and wander HIKING CLUB」。
その活動はいつのどのようにして始まり、どんな道を歩き、どこに向かうのでしょうか。
この連載では、四季の山々で開催される活動の様子を、ご紹介していきたいと思います。
第3回は、クラブの活動拠点となるショップ「MT. and wander」にまつわるお話。
山を想い、仲間が集まり、ゆっくりと文化が育まれていくような、
和やかな日々の起点のようすをご紹介します。

はじまりの場所で
「and wander HIKING CLUB」の活動拠点でもある、東京は渋谷・元代々木町にある山小屋のような佇まいの「MT. and wander」(以下MT.)は、同ブランドの創業の地として2017年にオープン。
閑静な住宅街の一角、山小屋を思わせる重厚な木製の扉と、自然光を誘う大きなガラス窓の前の、まるで小さな森のような植物は、MT.が重ねてきた年月と一緒に成長してきました。

オープン前の静かな朝。普段は扉が開いています。
MT.には各シーズンのand wanderのコレクションはもちろん、スタッフおすすめの山道具や書籍が多数並んでいるほか、同じ建物の3階と4階には「and wander OUTDOOR GALLERY with PAPERSKY」もあり、都会に居ながらも、山や自然を感じたり、楽しんだりするためのさまざまなきっかけに出会える場所です。

お土産にもよろこばれる、MT.オリジナルグッズたち。
またこのショップだけのオリジナルアイテムというのもあります。MT.のロゴが入ったショートスリーブのTシャツは4色展開。ポリエステル100%なので登山時のベースレイヤーとして使うこともできる優れものです。MT.ロゴ入りライターは店内に香る「KUUMBA」別注のインセンスを焚く際の必需品。もちろんアウトドアシーンでも重宝します。お問い合わせをいただくことが多い「カラビナ」は、and wanderの各種プロダクトでも使われているアイコンともいえるアイテムです。

各種、登山の必需品も。
そのほかヘッドライトや緊急時のオールウェザー・ブランケット、エマージェンシー・シートも取り扱っています。中にはパッケージのデザインから興味を抱いて、使い方やシチュエーションの話などに発展し、アウトドアへの関心が強まったと言ってくださる方もいらっしゃるので、「きっかけ」はどんなところからも生まれるんだな、と思うこともありました。

名著『HIMALAYAN CLIMBER』
書籍では登山関連の定番本に加えて、ロングトレイルや自然、植物、建築、アートなどの本や写真集が並んでいます。ふとした時に手を伸ばして読むのが好きで、とりわけ今惹かれているのがイギリス人登山家のダグ・スコットによる『HIMALAYAN CLIMBER』という写真集です。
1970年代の写真が中心なのですが、現代のファッションにも通じるようなサイジングバランスなど、そこに写るクライマーたちの着飾っていないリアルな姿に目を奪われます。参考にしたいスタイリングを見つけると、思わずスタッフやお客様にもおすすめしてしまいたくなるほど。そのほかの書籍もどれも興味深く、読んでいくとだんだんand wanderという人格が表れてくるようで面白いです。
日々のショップではこれらの書籍や昔のアウトドア雑誌などを介してお客様やスタッフと世界中のハイキングスタイルについてお話しするのですが、当時のアウトドアシーンに思いを馳せ、歴史の変遷に一興したりできるのも、このMT.という特別な空間があるからこそだと思います。

きっかけを活かす、行動
大きな窓から気持ち良い陽が差し込んでくる昼下がり。HIKING CLUBの企画は、いつもスタッフとの些細な会話から生まれます。
「多田さん、最近、どこか山に行きました?」
「次のHIKING CLUBの企画に良さそうな、おもしろい山を見つけたよ。アクセスもし易いし。ええと、どの辺かというと……」
と、手にとるのは「山と高原地図」。1965年から発行され、登山やハイキングを楽しむ方に長く親しまれ続けている定番の地図です。このデジタルの時代において大きいサイズの紙の地図というのは一見不便なように思われるかもしれないのですが、そんなことはありません。駅からのアクセス、主要ルートやコースタイムがわかりやすく掲載されています。

地図が読み慣れてくると想像登山も楽しい。
一緒に働いているスタッフと指先で地図をなぞりながら、コース上にある手強そうな急登や、稜線歩きが気持ちよさそうな標高線を見定めながら、企画を考えていきます。やがて候補の山が決まり、ルートの選定や当日の行程と全体のスケジュールを逆算して参加募集の告知や、しおり作りなどに着手していくのですが、すべてを机上で決定することはありません。各店のHIKINGCLUB担当に連絡をとり、スケジュールを合わせ、実際に必ず下見へ出かけます。

奥秩父の「棒ノ折」を下見しているようす。
下見で肝心なのが、危険な場所と休憩できる場所の確認。また参加者が道を間違えてしまわないよう、道標や看板などひとつひとつを注意深くチェックすることも大切です。
実際のコース上には倒木や、川を渡らなければいけない箇所、壊れかけている階段などのさまざまな「予想外」があります。さらに台風や大雨の影響で通行止めや工事中ということもよくあり、地図上ではスムーズだと思われたコース取りも、足を運んで下見することではじめて気を付けるべきポイントを見つけることができます。
これまでに行った下見では、想像以上に草木が生い茂り、ひたすら蜘蛛の巣をかぶり、地図の上には記されていないアドベンチャー感満載の渡渉ポイントが連続していたり、開催は難しいと断念した山もありました。

スタッフの坂川君と。
しかしそうした失敗も含めた実体験も、ショップでのお客様やスタッフとのコミュニケーションに欠かせない要素のひとつになります。大変だったエピソードを話したり、お互いに行った山の写真を見せ合ったり。情報交換から次々と展開が生まれ、イベントに参加したいと言ってくださる方もどんどん増えています。
山や自然を楽しむきっかけになるような場所としてオープンした「MT. and wander」と「HIKING CLUB」。日々その役割を担いつつ一歩一歩成長し、楽しむ心を忘れずにチャレンジを続けていきたいと思います。
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