Naoki Ishikawa exhibition THE VOID
#ART#Naoki Ishikawa

NEWS ANCM

Naoki Ishikawa exhibition THE VOID

VOLUME.63

Text & Photography by Soya Oikawa (TSI)

ARCHIVE

ニュージーランドの北島、

地熱を帯び、鬱蒼とした森の奥に、

ひとり佇む青年を想像してみる。

前には白く巨大なカウリの木がそそり立ち、

地面にシルバー・ファーンが一枚、落ちている。

それは先住民マオリが置いた道しるべ。

青年はその葉を、写真に収め、

さらに深い森の奥へ入っていった。

002.JPG

子供の頃から冒険小説に夢中だったという写真家の石川直樹さん。高校2年生の夏休みにインドとネパールへのひとり旅を完遂し、以後ヒマラヤの山から南極まで、太平洋の島々から渋谷の路地裏までを数十年にわたって歩き、たくさんの写真集と著書を発表しています。

前人未到の偉業達成という、いわゆる「冒険家」としての野心よりも、単純に「見たことのないものを見てみたい」という小学生のような無垢な好奇心を持ちながら、人類が厳しい自然環境下で生き延びるために駆使してきた特異な能力のほうに深く関心を寄せる石川さん。

それは人類が自然に対して抱いてきた「畏怖の念」を具に拾い集めていくという旅の姿をしたフィールドワークとなり、地理的空白がほとんど無くなってしまった現在における新たな冒険的魅力をもつ行為とも言えます。

003.jpg

地球全体を舞台とする石川さんの活動に通底しているのが「グレート・ジャーニー」と呼ばれる人類最大の旅との繋がりです。

今からおよそ30万年前のアフリカを起源とし、人類は数万世代をつないでユーラシア大陸をヨーロッパやアジアに拡散させていきます。そしてベーリング海峡を通ってアメリカ大陸へと移動していった壮大な旅のなかで、狩猟や食糧採取の練度、災害や怪我や病気への対応など、厳しい自然環境を生き抜くためにさまざまな身体技能を備える必要がありました。

石川さんの言葉を借りればそれは「自然を人間側の都合にコントロールするのではなく、自らを自然の方に順応させていく」能力であり、北極圏の先住民とその末裔や、ヒマラヤのシェルパ族の暮らしに垣間見られるそれらに直に触れてみせてくれることで、文明の進化によって失われつつある世界を、僕らに考えさせてくれます。

004.JPG

そして石川さんをニュージーランドに導いた、古代ポリネシア人が駆使した伝統航海術もまた、そういった特異な身体技能のひとつであり、今からおよそ1000年前、途方もないほど長い時間をかけて地球を移動した人類が、ようやく最後に向かったのがミクロネシアやポリネシアといった南太平洋上に浮かぶ島々でした。

しかしある島から別の島までは離れすぎていて、浜辺に立ち、いくら海の彼方を眺めても、水平線の向こうに何も見ることができません。GPSシステムはもちろん、近代的な海図もコンパスもない時代に、人類はいかにして「見えざる島々」を繋いでいったのでしょうか。

005.jpg

答えは古代ポリネシア人たちが用いた伝統的な航海術にありました。「スターナビゲーション」とも呼ばれるその航海術は、星の位置と波の種類や状態、風の向きや匂い、鳥や魚の往来などから現在地を知り当てるという驚くべき技能であり、ニュージーランドの先住民マオリをはじめとした太平洋の民たちはその身体芸術ともいえる技をもって、数千キロの遠洋航海を可能にしていたのです。

006.JPG

長い間、限られた地域でしか伝承されてこなかったこの驚くべき航海術の存在を知った石川さんは、数年をかけて足しげくミクロネシアやポリネシアの島々を訪れ、やがてひとりのニュージーランド先住民マオリの古老と出会い、先祖代々、彼らがカヌーの原材料として大切にしてきた「カウリ」という木が生える神聖な森があることを聞きます。

広大な海の島々をつないだカヌーが生まれる場所——

そのようにして訪れたニュージーランドの原生林を収めた写真集が、2005年に発表された『THE VOID』です。それから17年を経てあらためて今回のエキシビションで再編された作品には、石川さんが身を浸して吸い込んだ森のみずみずしさや、畏怖を抱いた神羅万象に通じるエアーポケットや、未来へと続くマオリの生命の源が写し出されています。当時、その森に至るまでに石川さんが道しるべとしてきた私物の資料本も多数用意され、実際に手に取って閲覧できる貴重な機会でもあります。

森に置かれた一枚の葉によって古に誘われるように、石川さんが写した一枚の写真の向こうに広がる未だ見ぬ世界を、どうぞごゆっくりお楽しみください。

006-2.jpg

Naoki Ishikawa exhibition THE VOID

開催中~731日(日)

and wander OUTDOOR GALLERY with PAPERSKY

渋谷区元代々木町22-8-3F,4F

12:00 – 19:00

*木曜定休、最終日は17時まで

*最新の営業時間は、下記HPもしくはINSTAGRAMをお確かめください。

and wander HP

www.andwander.com

OUTDOOR GALLERY INSTAGRAM

@outdoorgallery_tokyo

007.jpg

008.JPG

またand wander丸の内店では本展に関連した大型作品が630日(木)まで展示され、先日、その開催に合わせたトークイベントがありました。

あらためて明かされた当時の体験談や作品の制作秘話に、一言一句漏らさぬよう真剣な面持ちで石川さんを見つめる来場者のみなさんとスタッフたち。最後の質問タイムまで大いに盛り上がり、予定の時間を大幅に超えつつ終了。今年も果敢に旅を続ける石川さんのわずかな日本滞在の間に開かれた、貴重な時間でした。

and wander 丸の内店での大型作品の展示は630日(木)までです。元代々木町のOUTDOOR GALLERYの会期とは異なりますのでご注意ください。

また下記ページでは本展に関連する2つのインタビュー記事をご覧いただけます。併せてぜひどうぞ。

and wander journal #48

My way and and wander vol.10

ARCHIVE