#OUTDOOR#TRAIL#FOOD

衣食住をかついで歩くJohn Muir Trailへの旅

ロングトレイル日記 その3 ―どんなに遠くても、歩き続ければやがて辿り着く―

VOLUME.8

MARGARET HOWELLのカフェ店舗で7年ほど勤務し、
現在、都内3店舗のキッチンリーダーをつとめる緑川千寿子さんは、
昨年の夏、約1ヶ月にわたってアメリカ「John Muir Trail」への旅に出た。
全8回にわたる日記の第3弾では、ついにトレイル全行程の半分にまで到達。ジョンミューアならではのチェックポイントを巡るなかで、食事に元気付けられながらコントロールできない自然に立ち向かい、緑川さんは進んでいきます。

Text by Chizuko Midorikawa (ANGLOBAL)
Edit by Yoshikatsu Yamato (kontakt)

93日 またしてもハプニング発生

1ヶ月におよぶJohn Muir Trail では、荷物の補給が必須である。街に降りたのは、日本から出しておいた荷物を郵便局で受け取るためだった。「リサプライ」。日本語で言えば「再補給」である。

だが、なんということだろう。荷物が届いていなかった! 大事故に唖然。箱の写真をスマホ画面に表示して職員さんに見てもらい、もう一度探してもらったけれど、やっぱり届いていないという返事。空いた口が塞がらない。まずいことになった。一瞬頭が真っ白になってしまったが、どうにか我に帰る。今できることをしないと。すぐにでもスーパーに急ごう。そうするしかない。

それにしてもこんなことになるなんて。「ハプニング」らしいことがあまりにも起きる。でも、何度だって思い出す言葉。「臨機応変」。明日の歩き出しをする場所へ向かうのが予定よりだいぶ遅れてしまったけれど、もはや、こうなったらこうなっただ。立て直してみせよう。そういう気持ちになれたのは自分でも意外だった。

94日 ニンニクたっぷりのペペロンチーノ

はやめに行動開始。朝は身体が軽い。キツい登りは体力のあるうちが良い。パス(峠)を超えると、湖を横に見ながら歩ける道に出た。この道、ほんとうに気持ちがよかった!

15 時半ごろ、早めの晩ご飯とする。なんだかガッツリと味の濃いものが食べたくなって、たっぷりニンニクをきかせたペペロンチーノをつくる。チューブ入りのすりニンニクを日本から持ってきていた。くだいたアーモンド、スーパーで買っておいたスープの素、大きなサラミも加える。パスタの茹で汁はスープにして飲み干す。うん、美味しい!

しっかりと炭水化物を摂ったし、ニンニクの味でとても元気が出た。おかげでぐんぐん進める。19時まで、黙々と歩き続けた。そのまま、どこまでも行けるような気がした。

三鷹のアウトドアショップ「ハイカーズデポ」の土屋さんから、「アメリカは日が長いのもあって、遅い時間まで歩けるのがいい!」という話を聞いたとき、「いやいや、そんなに長時間歩きたいなんて到底思えないよ。さすがにアウトドアを極めた人は違う」。なんて他人事のように思っていたけれど、歩くのをやめたくない気持ちというか、歩くことにやみつきになってしまう感覚がこの日すこしわかったような。

だだっ広い、見渡す限り誰もいない場所にテントを張る。雲が多いのがちょっと不安。もし落雷があれば、このテントに落ちることは間違いない。雷鳴が聞こえたら、このシートをかぶって、テントのポールは倒して、と、シュミレーションしながら眠りについた。

95日  タンパク質、万歳

雷が鳴ることなく朝になる。よかった。でも、歩き出すと雨が降ったり止んだり、雹になったり、天候は不安定だ。レインウェアの脱ぎ着や、傘をさしたり、たたんだりしていると、どうももたついてしまって、リズム良く歩き進められずにモヤモヤする。長い登りに、いまにも心が折れそうだった。晴れ間が出たと思えば蚊が出てきて、身体にまとわりついてくるのにもげんなり。

夜、ファイヤーサークルをちょうどいい場所に見つけたので、今日はここに決めた。近くの川で釣った魚をさばいて、焚き火でソテーにして、パスタと一緒にスープにする。火はとても暖かかった。それに、新鮮な魚をつかっての食事は最高だった。タンパク質に身体が喜んでいるのがわかる。美味しい。美味しい! 私は食べることが好きだ。

96日 先を行くハイカーの置き土産

インスタントのミネストローネスープにマッシュポテトパウダーとチーズを加えて、ボリューミーにする。ずっと登りで体力がもっていかれるなか、9月になればほとんどいなくなると聞いていた蚊が平然と飛び交っているから参ってしまう。水辺になると蚊の密集度合は尋常じゃなく、その鬱陶しさに何度か叫び出しそうになった(笑)。

けれど、今日は楽しみにしていた「ミューアトレイルランチ」への到着。ここには、ハイカー達が余ったものを置いていくハイカーズボックスが並んでいる。話には聞いていたけれど、充実度がものすごい。お菓子やパスタにはじまり、ジャム、クッキー、ドライフード。食べ物だけでなく、オイルやガス缶に、日焼け止めやコンタクトレンズまである。ハイカーたちのトレイルスタイルが見えてくるようで面白かった。ご飯系は足りていたけれど、参考にと思い、ハイカーが自分で作ったと思しきドライフードを少しと、お菓子をもらう。直接は伝えられないけれど、その場でチョコレートをいくつか食べながら、心から感謝する。みんな、すこしずつ協力しながら歩いているのだ。

97日 トレイルはときに苦しくて

なんだか今日はダメだった。サンダルに履き替えて川を渡るのも、水が冷たすぎて足がちぎれそうになる感覚がキツい。それを楽しむ余裕はなかった。蚊も相変わらず鬱陶しくて気が滅入るし、黙々と歩いていると、どうもネガティブな気持ちが強くなってきてしまう。

98日 ついに道半ば

6時起床。一時間ほど歩いても身体が全然温まってこなくて、手先や足の先が痺れるほどに冷たい。次の街で、もっと暖かい手袋を買わないと。今日は、「ミューアハット」というJohn Muir Trailで現在もなお使われている、避難小屋を通過する日だ。この小屋がある地点が、私のルートでいうとトレイルの半分まで来たことの目安であった。

小屋までの景色は圧巻だった。見知っている地球にいるというよりは、まるで宇宙に浮かんだ無人の星に投げ出されたような気がしてくる。スケールがあまりに大きいから、歩いても歩いても、進んでいるのかどうか不安になる。錯覚を感じながらも、石が積み上がってできているミューアハットをしっかりその目にとらえて歩く。

あれほど遠くに見えていた場所であっても、歩き進めていればいつかは辿り着く。John Muir Trailも道半ばまで来たと思うと、安堵感と達成感で身体から力が抜けていった。本やネットの記事で見ていたこの場所に自分がいることが信じられないような、不思議な感覚でぼーっとする。小屋のなかで一息ついて、ドライフルーツをかじる。

続く第4弾では、緑川さんがトレイルに惹かれた一番の理由であるアウトドア料理の楽しみを再確認。忘れかけていた食事のパワーに背中を押されつつ、体力やハイカーとしての経験値をアップさせていく緑川さんに注目です。

  • 緑川千寿子

    マーガレット・ハウエル 神南カフェで7年間を過ごし、現在はマーガレット・ハウエル カフェ3店舗のキッチンリーダーを務める。大好きな漫画や食にまつわるエッセイを片手にお酒を嗜むことが何よりの至福。