カテリーナ古楽合奏団コンサート「春の古楽」後編
#quitan#Early Music

quitanが奏でる、喜びの往来

カテリーナ古楽合奏団コンサート「春の古楽」後編

VOLUME.2

古来、人々の暮らしと分かち難く結びついてきた<音楽と服>。
その音を聴けば、過去と未来を自由に飛び交う鳥となり、
その服を着れば、世界中の民族をつなぐ旅が始まる。
中世・ルネサンス時代の“古楽”を奏でるカテリーナ古楽合奏団と、
“文化の交歓”を謳い、服づくりを続ける「quitan(キタン)」。
両者が織り成すコンサート「春の古楽」を追った連載・後編をどうぞお楽しみください。

Text & Photography by Soya Oikawa (TSI)

カテリーナ古楽合奏団の稽古場である「ロバハウス」での衣装合わせから数週間、いよいよむかえたコンサート当日。

舞台となった東京・国分寺市の「いずみホール」は、同市民に向けたコンサートや音楽会などへの利用を目的として1990年に誕生。周辺地域から出土した縄文土器をモチーフとし、音響効果に優れた本格的な芸術・文化施設として長年親しまれてきた。

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JR西国分寺駅を降り、すぐ目の前に建ついずみホールに着くと、quitanデザイナーの宮田紗枝さんが控え室で衣装にスチーマーをあてているところだった。この日も同ブランドのオフィシャル撮影を務めるフォトグラファーの川村恵理さんと合流し、リハーサルが行われているAホールへ。僕はこのANCMの取材を兼ねた撮影を行い、川村さんは夜からの開演に備え、ホールの後方、所定の位置に機材をセッティングする。

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今回のコンサートは合奏団リーダーの松本雅隆さんを中心に、8名のメンバーで構成され、ステージ上ではメンバーがそれぞれ担当する楽器を丹念にチューニングしながら演目がリハーサルされていった。

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僕たちはまだ誰もいないホールに身を潜ませ、静かにその様子を見守っていたのだが、それにしてもステージに並んだ楽器の多様さに驚かされる。

クラシック音楽で見るヴァイオリンやフルートのような楽器もあれば、どのようにして音が出るのか想像もつかないような不思議な形をしたものも。いったい1人で何種類の楽器を扱うのだろうか。中には演目と演目の間にメンバー同士が手渡しあいながらシェアされる楽器というのもあって、まるで宴の席でごちそうを乗せた大皿がまわっているようだった。

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やがてリハーサルも終わり、ステージを隠すための緞帳が降ろされ、静まりかえった客席に張り詰めた空気が立ち込める。 と、同時にメンバーのみなさんが衣装に着替える時間となるため、僕たちも急いで控え室へ向かう。緞帳が降ろされたステージ裏を覗くと、開演を待つ楽器たちの凛々しい姿があった。

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メンバーに寄添って着替えを見守る宮田さんの後ろ姿からも、緊張した空気が伝わってくる。時折笑い声も聞こえてくるのだが、僕はこれ以上近づくことができなかった。

やがて開場の時間となり、たくさんのお客さんが入場してきた。控え室を後にしてホールへ戻り、撮影のスタンバイに。18時30分、開演。いよいよquitanの衣装に身を包んだ8人が、現れた。

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コンサートでは11もの演目が演奏され、さまざまな古楽器を自在に操る様子や、楽器から鳴る個性的な音色、時に客席を巻き込んでの松本更紗さんによる美しい踊りなど、あらゆる方向から古楽を楽しませてくれるような、趣向に富んだ時間が繰り広げられた。

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1人が弦を押さえ、弾く。

2人が笛を吹き、響かせる。

4人がリズムになり、

8人のメロディが漂い……

というふうに、人と音楽と空間が、遠い記憶の奥の「原風景」に向かって渾然一体となっていく。山から昇る眩しい太陽、緑の草原にそよぐ風、さらさら流れる小川、木陰で羽を休める鳥。新婚夫婦を祝う村人たち……。

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16世紀の“ネーデルラント”で、『バベルの塔』に代表されるような宗教寓話にまつわる作品だけではなく、村人たちとともにある日常的な風景や、そのありふれた暮らしをテーマにした作品を多く世に残したことから、“農民の画家”とも呼ばれる「Pieter Bruegel(ピーテル・ブリューゲル)」。

ブリューゲルが大好きだというカテリーナ古楽合奏団の松本雅隆さんは、老いも若きも流れ者も一緒になって、踊ったり、食事をしたりしている村の風景が描かれた作品を引き合いに「あの絵に描かれているような風景に戻りたい、という願望なのかもしれません」と、古楽を演奏する理由についてかつて語ってくださっている。

カテリーナ古楽合奏団が演奏する「古楽」を聴きながら、眼を閉じてみる。するとブリューゲルが愛したあの美しい村の風景が、心のずっと奥の方から呼び覚まされ、じわじわとまぶたの裏に広がった。もちろん体験したことの無い世界だけれど、でもなぜか、よく知っている気がした。

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それが新しいか古いかではなく、心が揺さぶられるかどうかが大切なのだと思わせられた。時間の尺度から解放され、情操的に自由となった音楽。思えばその演奏者たちがまとう服がとてもよく馴染んで見えたのは、彼らが奏でる音楽と同じようにその服もまた、時を超えて世界を包み込んでいく、原初的な喜びによって作られているからなのだと思った。

カテリーナ古楽合奏団とquitanの旅が奏でる音楽を、これからもずっと聴き続けていきたい。

  
  • カテリーナ古楽合奏団

    1973年に松本雅隆さんにより結成。東京立川市にある稽古場兼ホールの「ロバハウス」を拠点としながら、中世・ルネサンス時代の古楽器の演奏や空想楽器を用いた音楽イベントなどを行うほか、国内外さまざまな音楽会へも参加。またTV番組や映画の音楽を担当するなど幅広い音楽活動を続けている。

  • 宮田・ヴィクトリア・紗枝

    アメリカ・シアトル生まれ。quitanデザイナー。幼少の頃より多国籍な環境で遊牧民のように転々と暮らしの場を変えつつのびのびと育つ。大学を卒業後はファッションの現場でものづくりの経験を積み、2021年春夏よりユニセックスブランド「quitan」を展開する。