#BEHIND#THE#SCENE

ウラカタログ

反射の不思議。ボタニカルダイってなんだろう?

VOLUME.5

VOLUME.5

普段目にすることない側面にフォーカスして日々のなかで考えるきっかけを探していく「ウラカタログ」。
第5回はエシカルなものづくりを行う「THE LIBRARY」の新しいオリジナルラインが教えてくれた、
不思議でおもしろい色彩のお話。

Text by Soya Oikawa (ANGLOBAL)
Photography by Eri Kawamura

気がつけば、日常のふしぶしで自然環境への配慮を感じる機会が増えた。さまざまな消費物、都市環境や居住空間での省エネルギー化、毎日の食に関するものに加えて、衣服の分野でも、限りある自然にたいするエシカルな視点が多く見受けられる。

たとえば、社会的規定に基づく基準を守って生産されたオーガニックコットンを用いた商品を目にすることは、今や珍しいことではないだろう。こうした環境問題に対する意識の高まりは、つきつめれば個々人の日々の暮らしでの気づきに端を発すると思うが、つい先日、そうした自然に配慮したものづくりのおもしろさに、あらためて触れる機会があった。

アングローバルが展開している「THE LIBRARY」というセレクトショップのオリジナルラインは、2018年のブランド発足時から、誰にでも合い、誰とでも共有でき、シーンを問わず着ることができる「ボーダーレス」なデザインを一貫してきた。シンプルなシャツやカットソー、オーセンティックなスウェットやチノトラウザーズなど、日常に取り入れやすいユニセックスなアイテムが定番的にラインナップされてきたのだが、この2020年春夏シーズンからは、普遍的なデザインはそのままに、素材にはオーガニックコットンを用いて、染色にはボタニカルダイを施すといった、より自然に配慮したものづくりに変わっていくという。

先日の朝、そのボタニカルダイが施された新しいTHE LIBRARYのオリジナルウェアのサンプルを撮影するため、僕たちはTHE LIBRARY表参道店に居た。店内は白を基調としたプライベートギャラリーのような空間だ。

写真集を中心としたアートブックが並ぶ白い書棚と、無機質なコンクリートの階段が印象的なエントランス付近で撮影を行うことになり、手ばやく準備をすませると、あとは淡々と撮影は進む。冬の時季ということもあって、ショップでの自然光を用いた撮影は朝からオープン前までのわずかな時間が勝負。リズムはとても大事だった。

左:クローブで染められたオーガニックコットンのロングシャツ 右:ログウッドで染められたオーガニックコットンのワンピース

この日の撮影に際して、染料の元になったものがあったほうがイメージしやすいだろうと思い、ログウッドやクローブ、くちなしの実やざくろの果皮といったボタニカルダイの染料を用意していた。

フォトグラファーさんが機材のセッティングをしているあいだに染料を容器に移し替えると、野生的な香りが鼻腔をくすぐり、ガラスの容器に店内の照明光が当たる。染料から反射した光は円筒状のガラスを透過して、周囲に色の付いた影を落とす。その色は、あたりまえのようにふだん使っている「色の言葉」では表現し難い、不思議な色をしていた。

染まる前のオーガニックコットンの生地たち。織り方や編み方などでニュアンスが異なり、作るデザインに合わせて選ばれている。

ファッションの仕事をしていて面白いと思う要素のひとつに「色」がある。コットンやリネンやウールといった素材と、生地にする際の織り方や編み方、そして染料やその染色方法にとどまらず、そこにあたる光の種類によって無限の色があるのだ。見れば直感的に何色かを識別できるものがほとんどだが、中には「これは何色と言えばいいのだろう」という不思議な色もあり、このボタニカルダイという染色法は、その絶妙な色を表現できる特殊な手法なのだという。さらに調べてみるとそれは「光の反射」に秘密があった。

左から、染料の元となったログウッドやクチナシの実、ざくろの果皮にクローブの実

かたちや大きさが均一で整った色素たち(化学染料)と、不揃いな色素たち(従来の草木染)とでは、光の反射の仕方がまるで違う。たとえば白いお米を洗うときに、水に濡れた米粒はみな均一に光を反射し、フラットに眼に映る。しかし、大きさもかたちもバラバラの不揃いの米粒はどうだろう。光は多方向に乱反射して屈折をおこし、違った印象になるはずだ。

ビーカーと呼ばれる生地の染めサンプル。カーキなのか、ベージュなのか、不思議な色合い。
ここから更に具体的に立体化した衣服をイメージしていく。

ボタニカルダイとは、それら色素のかたちや大きさによる光の反射の特徴を活かして、「絶妙な色合いだが不安定」な草木染めと、「フラットだが安定した化学染料」のお互いの特徴を活かした染色方法であり、このTHE LIBRARYのボタニカルダイのウェアは染料と衣服の複雑な組み合わせを考慮したうえでデザインされているのだ。

ログウッドの染料。

同じログウッドで染められたシャツとカットソー。
生地の素材はどちらもオーガニックコットンだが、
ハリのある生地と柔らかな生地とで色の出方を変えている。

そしてもうひとつ、「同じ植物から様々な色の色素が抽出できる」ということ。例えば、このシャツとカットソーは同じログウッドという染料で染められている。染料自体は赤いのに、染められたウェアはブルーだったり、グレーだったり。不思議だ。

実はこのログウッド(別名「アカミノキ」)というマメ科の落葉低木は、葉っぱや枝などの部位によって、または溶かした水溶液の酸性とアルカリ性の程度を変えることによって、その色素が赤や青や黒など様々に変化する。何千年も前からマヤ文明のインディオたちが使用していたのだという。

ログウッドの他にもザクロやクローブ、クチナシなども。

一度そのことを知ると、衣服の見方がだいぶ変わってくる。思わず、着ているシャツの生地を舐めるように見つめてしまう。どんな光の反射を経てこの目に色が届いているのか・・・。ボタニカルダイとは、環境に優しいだけではない面白さを秘めていた。

時刻は950分。もうすぐオープンの時間だ。そろそろ終了しないと、ということころでちょうど良い角度で陽が差し込んできた。僕たちは撮影を切り上げなければいけない焦りを抱きつつ、異口同音に「この陽を使って・・・」と最後のカットを滑り込ませたのだった。

クローブで染められたオーガニックコットンのシャツ

「ナチュラル」ということは、ある意味「複雑なまま」だということ。ボタニカルダイという環境に配慮したものづくりが、僕たちの色彩感知能力を刺激してくれるというのも不思議な話かもしれないけれど、ものづくりと消費との間に、こういった「知ったらおもしろい」があるのはとても大事なことのような気がする。

真っ白だと思っていたコットンのシャツ、ネイビーだと思っていたウールのニット帽。それらは本当に真っ白でネイビーなのだろうか。気付かずに慣れ親しんできた色の奥に、わずかな反射を見つけた時、また少し大切に着てあげようという気持ちになった。

このボタニカルダイを施したTHE LIBRARYのオリジナルウェアたちはこちらからもご覧いただけます。