#YLÈVE#SHOP MAKING

ウラカタログ

YLÈVEと、余白のある空間。

VOLUME.16

普段目にすることのない側面にフォーカスして
日々のなかで考えるきっかけを探していく裏方の記録「ウラカタログ」。
今回は、YLÈVEのNEWoMan新宿店のオープンを機に
同ブランドにおけるショップ空間の考え方について
デザイナーの田口令子さんに聞きました。

Photography & Interview by Soya Oikawa (TSI)

適当ではない“適当”

―オープンまでにショップを覆っていた「仮囲い」がユニークでしたね。

内装で使っているのと同じプラスターボードで囲って、その上にペンキを塗って表現しました。施工してくださる職人さんにペンキの色や質感や粘度、塗る加減などを伝えるのですが、“カスレ”や“ハネ”も欲しいので「手加減はこんな感じで適当に」って言っても、きちんと仕上げるのがお仕事の職人さんにとってはやっぱり難しく……。

―「適当」と言ってもちゃんと意図した適当なわけですよね。

そうなんです。狙ったところがある適当なので、全然適当じゃないんです。「斜めに一筆書きのような感じで、垂れて、カスレて、ハネて、みたいなのが欲しいんです」って伝えると「いつもやっていることと真逆ですよ」って(笑)。それでもおおよその位置を決めて、刷毛をあてた一瞬はさすがに緊張しました。

―職人さんの困った顔が思い浮かびます。

ある意味一発勝負でしたからね。一般的なビジュアルやロゴのサインじゃなくて、この仮囲いに必要だったのは「違和感」。まわりに整えられた情報が多いからこそ、そこから「ずれた」違和感が大事だと考えました。

施工期間、ショップを覆う仮囲いに施された手描きのアートワーク

―「ズレ」と「違和感」ですか。

一般的な仮囲いとしては、シーズンのイメージビジュアルを大きく貼って、ロゴとオープン日をカッティングシートで。というわかりやすい感じだと思うのですが、今はもう「どうぞ」と差し出される情報に溢れてしまっている気がするんです。情報が欲しくなくても、いくらでもわかるように供給されるのが当たり前になってしまっているというか。

―消費者マインドに合わせるのが普通になってしまっている。

はい。同じことをしてもフックにならず、受け取られることもないだろうと。シンプルなメッセージという目的を持ちながらも、「なんだこれ?」と不思議に感じる“違和感”も大事じゃないかなって思いました。実はペンキ塗り、私もちょっとやってみたんですよ。

―楽しかったですか?

はい。サンダルを一足ダメにしましたけどね(笑)。そうしてペンキのテクスチャーやマチエールに加えてYLÈVEのシーズン動画とインスタグラムに飛ぶ二次元コードも仕掛けつつ、最終的にイメージ通りにでき上がりました。

素材の無垢な質感が活かされた、開放的な空間

DAIKEI MILLSによる空間づくり

―内装デザインを手がけた<DAIKEI MILLS>さんは田口さんのリクエストですか。

はい。もともと彼らの活動をいくつか知っていて。あまり多くの素材を使わず、作り込み過ぎず、シンプルな手法なんだけどコンテンポラリーに感じさせる。そんな空間に魅力を感じていました。

―具体的なショップ空間のイメージはどのように作られていったのでしょう。

こういう資材と空気感で、こういうのはNGで。という感覚共有のためのマップ資料を用意して挑んだ感じですね。それを基にしてDAIKEI MILLSさんのテンションやセンスや技術と、YLÈVEの服のイメージをすり合わせていきました。内装は各所のデザインが際立ってくるよりも、全体の空間や質感を重視して、服よりも目立ちすぎない肩の力の抜けたような感じを狙いました。

メルトンのカーテンとプラスターボード、耐火被覆の躯体

大谷石が部分的にはめ込まれた床

―具体的にいうと?

いろいろあるのですが、例えば壁はむき出しのプラスターボードだし、柱の躯体そのままの耐火被覆とか、床も以前の店舗の仕様を残していて、試着室のあたりに柱のリペアの跡も残しています。

―あ、ありました。柱の跡だったんですね。

床はそのほかにも部分的に「大谷石」を切ってはめ込んだりもしています。DAIKEI MILLSさんのアイデアで、サスティナブルな観点からもとの状態を活かしつつ、異なる質感同士のコントラストというアクセントも兼ねています。素材を大切にしながら長く使用するという姿勢はYLÈVEに通じる大事な部分でもあるので、とてもありがたいご提案でした。

埋め込まれたアクリル板

グラデーションのような、集積合板の断面

―空間のすべてを新調するわけではなく。

はい。また素材と言ってもそれぞれに特徴があるので、ものによって種類が使い分けられたりもしています。例えば「集積合板」という木材は、「積み重なって表れる」質感をそのまま活かして什器にしています。

―デザインする見極めも大事そうです。

壁や柱、新旧の床、無垢な木材と大理石、集積合板と厚いアクリル板でできた什器とか、それぞれの素材を活かした、あまりいじりすぎてない「質感の妙」みたいなところがポイントになっていますね。

デザイナーの視点で選ばれたヴィンテージの雑貨や写真集が並ぶ

庵治石のブックエンド

広さと軽さの関係

―雑貨を置いている棚の空間も特徴的だと思いました。

DAIKEI MILLSさんとの打ち合わせの中で「洋書とかヴィンテージ雑貨を置くコーナーが欲しい」という話をしていて。構造上どうしても避けられなかった柱巻きに棚を作りましょう。となったんです。置きたい作家の写真集やヴィンテージの器だったり、庵治石(あじいし)のブックエンドのことなどもサイズやテイストを共有するために先にお伝えました。

―石のブックエンドも商品なのですか?

はい。庵治石は高松のイサム・ノグチ庭園美術館のあたりが産地で、きめの細かい粒子が特徴です。ご本人もその石で作品を作ったりしています。もともと一つの石を切ったブックエンドはきっちりとした「対」になるので、ひとつのオブジェのようにも見えるし、自然物でありながら実用道具でもあります。

―その他にも置かれている品々と棚の雰囲気がすごく合っていました。空間をたっぷりとって、きちんと見せるというような。

ヴィンテージ雑貨や書籍を扱うスペースは、他と比べて雰囲気が軽くなりすぎないように作っていただきました。

マホガニーの木目が美しいカウンター

―カウンターもかなり幅と奥行きがあります。対面したときのどっしりとした感じといいますか。

内装はなるべく素材をそのままに、無垢でカジュアルな仕立てにしている一方で、「威圧感がない程度に質量感が必要」ということもDAIKEI MILLSさんにお願いしていました。そうじゃないと軽くチープなだけの感じになってしまうので。

―質量感というのは「存在感」のようなものでしょうか。

そうとも言えますね。ただそれが「威圧感」を感じさせてしまうと、ちょっと狙いたいものとは違うので。「どうだ!」とわかりやすい「圧」で伝えてくるのではなく、欲しかったのは「ただそこに在る」ような、穏やかで静かな感じです。

―たしかにショップの中に不思議と“什器感”を感じませんでした。間違いなくショップなのですが、そこにあるのは什器である前にただの「モノ」としての印象というか。

「作りこまれた店舗用の什器」とか「作られた空気感」というのはないですね。

メルトンのドレープとテラゾータイル

コントラストとニュアンス

―YLÈVEの個々のアイテムだけでなく、コレクション全体を表現する空間として今後が楽しみですね。

シーズンを通じて集まるさまざまな素材と質感が生むコントラスト、ニュアンスの表現を大事にしたショップにしたいんです。それらは重量感の雰囲気とか、置かれる余白の空間とも関係しています。

―特に気に入っているコントラストはありますか。

フィッティングのドレープカーテンはトップベージュのメルトン素材なんですけど、中にグレーのカーペットを敷いて、同系色の陶器の椅子を置きました。艶のあるグレーとベージュの杢(もく)と大谷石の床という、異なる素材同士が調和する空間になるようにしています。

陳列の自由度が高いL字型の棚

―ニュアンスの表現というのは?

YLÈVEの服自体が比較的きっちりと作られているので、「綺麗に作ったショップ」のようになると収まりが良すぎて本当にただ“普通”になってしまう。気をてらわずに、わずかにテンションがずれている。そういうニュアンスを含んだショップにしたかったんです。

―箱と中身を合わせすぎても面白くない。というのが面白いですね。

単純な形と、ありのままの素材で作られているけれど、コンテンポラリーでもある。整いすぎてないけど、ある程度のセオリーを感じるというか。リズムみたいなものかもしれません。

エレベーター付近のロゴサイン

押し付けない、意味の程度

―リズムと言えば、BGMはどのように選んでいるのですか?

比較的、歌の入っていない音楽を選ぶことが多いですね。

―歌詞はあまり必要ではない。

はい。音楽も、ショップを構成する壁や床、棚や照明や什器も、訴えかけてくるような意味は要らないけれど「根拠」はある。あまり主張が強くなくていいということですかね。洋服を見せる空間だからっていう意味でも。一個ずつの要素がいろいろと集まってショップの空気をつくるから、余白のある服の考え方と一緒なのです。

  • YLÈVE NEWoMan SHINJUKU

    ブランド初となるウィメンズ・メンズ複合店として2022年9月にニューオープン。内装はDAIKEI MILLSが担当。服作りと同様に抑制の効いた意匠でしつらえられた空間にフルコレクションが並ぶ。