#Life#Nature

自然と人の親密な関係を築く、もうひとつの森の家。

SANU ファウンダー 本間貴裕インタビュー

週末、あるいはちょっと休みができた数日間、森の家に帰ってくる。
窓から見えるのは、季節や天気によって表情を変える自然。
木の香りにつつまれて眠り、目が覚めると、
太陽に緑が輝く日もあれば、雨に濡れてしんと静かな朝もある。
窓の外の自然を観光地での思い出の景色としてではなく、自宅の庭のように感じてほしい。
「Live with nature. 自然と共に生きる」をコンセプトに、
月額5.5万円のセカンドホーム・サブスクリプションサービスで注目される、
ライフスタイルブランド「SANU(サヌ)」。
国内計7拠点あるうちのひとつ、八ヶ岳2ndを訪ねて、
ファウンダー・ブランドディレクターを務める本間貴裕さんに話を聞きました。

Photography by Daehyun Im
Text by Yoshikatsu Yamato(kontakt)
Edit by Megumi Koyama(kontakt)

自然を日常の延長線上に。

月額制のサブスクリプションサービスと別荘を組み合わせたサービスは、始動当初から話題だった。2021年にスタートしたライフスタイルブランド「SANU(サヌ)」は、現在、国内7拠点のエリアに50棟ものキャビンを提供しているが、人気のため登録待ちの状況が続いている。

自宅だけでなく、もうひとつ暮らしの空間を持ちたいと思ったとき、ネックになるのは土地探しや物件探しの難しさ、初期費用、購入後の管理や滞在頻度の問題だ。あるようでなかったSANU 2nd Homeの宿泊体験は、それらを軽やかにクリアしている。

ファウンダー・ブランドディレクター 本間貴裕さん

コロナ禍での「おうち」需要といった流れも重なって好機を得たが、SANUのサブスクリプションサービスは、時代のニーズに寄り添うだけではなく、さらにもう一歩、より広く、長い時間軸での視点からの提案がある。それは、新しいアクティビティの体験であるだけではなく、「旅」や「宿泊」の価値観を考え直させる動きでもあるのだ。

至れり尽くせりのフルサービスではなく、滞在するひと自身が暮らしを営むもうひとつの家。建築の製造方法やインテリアのさまざまな仕掛けによって、自然と人をつなげる「接点」になるキャビンは、自然から離れつつある人が、暮らしを通じて、自然を親密に感じてもらうための空間なのだという。

本間貴裕さん

これまでの旅は、刺激的な体験や仕事で貯めたお金を消費することが目的になっていました。そして日々の生活のなかで溜まったストレスも発散する。一方に楽しくない日常があり、もう一方に楽しい非日常がある。そうした対比の構図がありました。

けれど、僕らがつくりたいのは、日常から切り離された空間や時間ではなく、生活の延長線上にある“よりよい”日常です。日常がよくなっていけば、非日常で過剰に発散や消費をしなくてもいいのではないか。なので、一回行って楽しんで終わり、ではなくて、繰り返し自然のなかで過ごせる場所づくりのプロジェクトとしてSANU 2nd Homeをスタートしました。

キャビンを建てるにあたって、これまで以上に日本国内の森や湖に足を運びました。そこで気づいたのは、美しい自然はこんなにもたくさんあるということ。しかも、思いのほか近くにあります。そこで、いつもどおり料理をつくって子どもと遊んで、もしかしたら仕事もする。どれも日常の延長にあるふるまいですが、場所が自然に変わるだけで心持ちが変わって、余裕が生まれる。キャビンでの時間が、日常をもっと好きになるきっかけになるのではないかと思ったんです。

プロダクトとしての建築。

キャビンの玄関を開けると、木の香りでつい深呼吸がしたくなった。天井は4mと高く開放感があるものの、優しげな木材の壁は天井に向かって傾斜して、ほどよく「包まれた気持ち」になるスケール感だ。自然は曲線でつくられていることから、キャビンも細かいところに至るまでカーブによって構成されている。

ふつう、旅先で過ごす空間に求めるのは、バリエーションであり変化だろう。行った先々には異なる景色や雰囲気の部屋があり、そこで新しい体験をしたいと願うのは、旅行者がごく普通に抱く探究心だ。

しかし、SANUは、各エリアの自然を活かしてキャビンを配置しながらも、その室内はコンセントの位置まで、すべてが統一されている。そんな「逆」のアプローチもまた、日常と自然との距離を近づけようとするために生まれたアイデアだ。

本間貴裕さん

当初は、エリアごとに違うものを作るほうが面白いのではないかと考えていました。建築家やインテリアデザイナーだって棟によって変えようか、とか。でも最終的には「建物をプロダクトとして考える」という方針にしたんです。機能性や快適性を高めたキャビンをひとつ考え、それをマイナーチェンジしていく。ひとつのプロダクトに集中するからこそ、高めていけるクオリティがあるのではないかと考えたんです。

また、すべてのキャビンが同じであることの大きなメリットは、どこへ行っても「家に帰ってきた」という感覚になることです。それによって安心感が生まれて、SANUが展開する地方の自然が自宅の庭のように感じられる。窓から見える景色は違いますが、庭にペットボトルが落ちていたら拾おうと思うだろうし、木に元気がなかったら心配になりますよね。

自分の家、つまり生活の拠点が広がっていけば、きれいでいてほしい、守りたい、と思う場所も広がっていく。僕らが提案したいのは、環境がそれぞれ異なるスペースを増やす「多拠点」というよりは、自分の家や日常を拡張していく感覚であり、安心感なんです。

小さな花の観察から、雄大な自然への想像力に。

取材で八ヶ岳2ndを訪れた日は、あいにくの雨だった。服が濡れたり、ぬかるんだ場所で靴がすこし汚れてしまったり、わずらわしい瞬間もなくはない。しかし、窓の向こうの森はかえって瑞々しく、薄い霧のなかに木々が透けて静かに時が流れている。花や葉も潤いに満ちている。自然のなかにいると、かんたんに雨を「悪天候」だとジャッジできなくなる。

キャビンに入ってすぐ、ダイニングテーブルに置いてあるのは、花器とはさみだ。それは、野花や草木など、ささやかな自然の美しさに目を向けるきっかけを届けたいと願う、SANUのはからいのひとつ。テラスに出て雨が弱まったと思ったらレインウェアを羽織ってはさみを持つと、いつもより、名前を知らない草にも意識が向く。なんでもないような草でも、束ねて花器に活ければ、茎のしなりや葉っぱの細かな輪郭が美しく、そこにしかないものに変わるのが不思議だ。

循環型建築と、風と水に配慮した基礎工法。

SANUはキャビンのつくりそのものや、建物の製造過程といったより長い時間軸においても、自然に負荷を与えない親しい距離感を大切にしてきた。建材は、岩手県の釜石地方で育った樹齢50年〜80年の間伐材。なぜならば、木は50年を超えると二酸化炭素の取り入れ量が減少する。そのタイミングで伐採を行って、また植林をするサイクルができれば、一方的に木を材にするのではなく、森のサイクルに寄り添いながら人の暮らしに木を役立てられる。

そして、建物に使われるほぼすべての部品は分解でき、くぎやビスの使用は最小限に抑えたプレハブ建築を採用しているため、解体後に別の場所で再建築も可能だ。製造のシステムそのものも、循環するやり方を選んでいるのだ。

キャビンに足が生えて、可愛らしい生き物のようにも見える高床式は、設計と施工のパートナーであるADX社が独自に開発した基礎の工法だ。コンクリートを地中に埋め込む基礎の作り方よりも土壌へのインパクトが抑えられるだけでなく、建物下の空間に風や水も流れていくため、周囲の自然の流動性を変えてしまわずにすむ。内側で過ごす人にとっても、外側に広がる自然にとっても、そっと寄り添う設計が心がけられている。

好きだったら自然と守りたくなる。

風や水の流れ、自然環境への配慮といったダイナミックな視点だけでなく、花を摘み、花器にいけるといった小さなふるまいまで、ミクロとマクロの両方で自然との距離を近づけるSANUの活動は、暮らしのヒントにもなりそうだ。

ファウンダーであり、ブランドディレクターである本間さんは、福島県若松市に生まれ、山や湖が綺麗な場所で育ち、幼少期から、スキーや釣りをする生活が身近にあった。今でも休みの日やときには会社の仲間とともにアウトドアアクティビティを楽しんでいる。しかし、23歳から東京に出て仕事をはじめたときには、最初は刺激に溢れた都市をサバイブしながらも、都市のなかに自然を感じる機会がないことが気がかりだった。

本間貴裕さん

花を摘んだら楽しかった。焚き火をしたら気持ちよかった。スノーボードに乗ったときの疾走感に興奮した。釣りをしたら、懐かしい思い出が蘇ってきた。こうした小さなきっかけや、大きなきっかけで、山や海、川をいいなと思う。

好きになると、もっとそこで遊ぶようになる。スキー場でスキーをしていた人が、山でスキーをしてみる。釣り堀で釣りをしていた人が川に入ってみる。そうやって自分の身体をより自然に近いところに持っていく。

そしたらきっと、ちょっとずつ環境が気になってくると思うんです。川が汚れると魚は釣れなくなるし、温暖化が進むと雪が降らなくなる。自然のなかでの遊びは、自然が健康でないと気持ち良くできない。そうすると、自然を守ろうとか、保護しようとか、未来の子供達にもスキーをさせたいなって想いが芽生えてくる。そして、都会に暮らしながらでも、自然のことを思って、ひとりひとりの生活がすこしずつでも変化していったらいいと思います。

Live with nature. 自然と共に生きる。

今後もさまざまに「Live with nature. 自然と共に生きる」という理念のもと活動を続けていくという本間さん。「自然」、「生きる」。こうした言葉は、あらゆる方向にとって広がりがあって想像していけるからこそ、もしかすると、捉えどころがないと感じてしまうかもしれない。そんなSANUのコンセプトについて、最後に踏み込んで尋ねてみた。

本間貴裕さん

たとえば、人間が動物として生きていた時代は、狩猟をして命を食べることが「自然と共に生きる」でした。農作物を作るようになり、大地から食材を採ることが「自然と共に生きる」になり、産業革命が起きて人は家や街、インフラを作って自然災害から大事な人を守ることが「自然と共に生きる」になったと思うんです。

ただし、それが一周回った今の時代は、自然を壊さないことが「自然と共に生きる」ではないかと思っています。さまざまな工夫によって、ここから20年、30年経って解決に至れば、自然の美しさに感動し続けることが「自然と共に生きる」かもしない。

僕らのなかでも、この理念は答えではなくて、常に問いです。そして、変わっていくものだと思っています。いつもそれに対して思いを馳せ、考える。そして発信し続ける。それが僕らの役割というか、やりたいことなんです。

  • 本間貴裕

    2020年、株式会社SANU創業。現在、ファウンダー・ブランドディレクターを務める。2010年には「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」を理念に掲げた、ゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers Japanを創業し、古民家を改装したゲストハウス「toco.」や「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」「Len」「CITAN」「k5」など数々の人と人を繋ぐ空間をプロデュースしデザインしてきた。