#OUTDOOR#TRAIL#FOOD

衣食住をかついで歩くJohn Muir Trailへの旅

ロングトレイル日記 その4 ―なによりも活力になる山ごはん―

VOLUME.9

MARGARET HOWELLのカフェ店舗で7年ほど勤務し、
現在、都内3店舗のキッチンリーダーをつとめる緑川千寿子さんは、
昨年の夏、約1ヶ月にわたってアメリカ「John Muir Trail」への旅に出た。
全8回にわたる日記の第4弾では、生まれて初めてのヒッチハイクに挑戦。
未経験のことだらけの環境で、緑川さんは次第に自分なりのトレイルスタイルを確立していきます。

Text by Chizuko Midorikawa (ANGLOBAL)
Edit by Yoshikatsu Yamato (kontakt)

99日 パンケーキを頬張って

6時に起きる。日が差して暖かい場所まで2時間ほど歩いて朝ごはんにする。ここ数日、リゾットやスープパスタが続いてさすがに飽きていたので、日本から持ってきてたパンケーキミックスをつかうことにする。

明後日は街で補給があるし、と思い立って、持っていたドライフルーツのバナナとパイナップルをふんだんに生地に入れ、フライパンいっぱいに焼いてみる。行動食用に持って来ていた黒砂糖を溶かしてシロップも準備する。クランベリーに、ハイカーズボックスでもらっていたピーナッツバターも乗せちゃおう。

これがめちゃくちゃ美味しかった。そして、作るのがとても楽しかった。

手の込んだ料理を作ったのは久しぶりだった。6日前に降りた街のマンモスレイクで荷物が受け取れなく、スーパーでは最低限のものしか買わなかったのもある。

初日に出会ったハイカーのフェリックスさんは、バーナーも鍋も持っていなかった。歩く、ということに目的が集中したストイックなスタイルに比べて、自分がこのJohn Muir Trailであれもこれもと料理を作ろうとしているのはなんのためなんだろう、と思い始めてもいた。

しかし、今日食べたパンケーキはとてもおいしくて明らかに元気が出たし、テンションも上がった。確かに自分はストイックじゃないかもしれない。歩くだけでは飽き足らず、今日は何をつくり、あしたは何を食べようかと考えている。でも、私にとって食事はやっぱり大切だったし、身に染みてそう思った。私は、これを大事にしていこう。

910日 人生初のヒッチハイク

食材を取りに降りる予定の街、ビショップへと向かうバスが一週間前に運行を終了していたことが判明。なんとかヒッチハイクで行くしかない。地図の裏に街の名前を書いて、生まれて初めてのヒッチハイクにチャレンジする。

幸運にも、街に帰る途中のご夫婦が拾ってくれた。何もない、広大なアメリカらしい一本道を走る。徒歩で向かい、途中で野宿をするプランも覚悟をしていたので本当によかった。

お昼前にはビショップの街に到着し、ゲストハウスでチェックインの手続きをして、とりあえず、8日ぶりのシャワーを浴びる。ここまでくると、もうシャワーなんかどうでもいいようなところまで来ていた(笑)。鏡を見るのも久しぶりだ。ちょっと痩せた気がするが、今のところ体に不調はない。

今回のリサプライは、無事に郵便局で受け取り完了。一安心だ。乾燥野菜にアルファ米、梅干しも手に入った。これでお米がしっかり食べられる。安心した気持ちでのんびり街歩きをし、川辺で寝転がってビールを飲み、ボウリング場にあったバーで地元の方々とお酒を楽しむ。質素な食生活に慣れていた自分は、しばらくぶりだったビールやお肉でお腹を壊すなどもしたけれど。

911日 ノスタルジックな街

なぜだかベッドでよく眠れなかった。7時に起床。とはいえゲストハウスはとても快適で、ムードもよく、リビングスペースや中庭では宿泊客が思い思いに過ごしている。

今日も街を探索。ビショップはハイカーズデポ の土屋さんがぜひ立ち寄るといいよ、とオススメしてくれていた街だ。派手さはなくて田舎の雰囲気がただよう。こじんまりとして、ノスタルジック。ブルワリーもある。人も温かい。

長い旅になると思っていたトレイルだけど、ビショップの街に降りたということは、もう3分の2まで来たことになる。夕方、陽が落ちはじめるとあたりはうっすらと紫になり、山が仄白く浮かびあがって幻想的だ。明日山に戻れば、あとはゴールするだけ。

912日 アメリカのトレイルでネバネバ蕎麦

すっかり魅了されていた街に後ろ髪を引かれつつ、早朝、釣りに向かう人がきっといるだろうと思ってヒッチハイクをはじめるけれど、全然乗せてもらえない。目立つように黄色いウェアを着て、コミカルな動きをしてみたり、必死にアピールしたけれどだめだった。

「ここよりもヒッチハイクの成功しやすい場所まで連れていってやる」というおじさんに声をかけられ、車に乗せてもらう。だが降ろされた場所は人けがなく、車も5分に1台しか通らない場所。

せめてさっきまでいた街に戻ってやり直すか、と意気消沈しているとき、近くまで行くというおじいさんが拾ってくれて、目的地まで送ってくれるという。日本語で話しかけてくれたのに和んだ。昔日本に住んでいたのだそう。

ヒッチハイクをして、はじめて会ったばかりの人に親切にしてもらって、また長い山道に入る。歩き始め、登り坂が続いて、きたきたきた、と街でゆったりと過ごしていた昨日までとのギャップにやられる。途方もないことにチャレンジしているな、とあらためて思う。

足取りが重い。街に降りる際にも通った道だったが、この道の途中には、おびただしいほどの骨があった。おそらく鹿だろう。雪崩に巻き込まれ、雪に覆われ、溶けて骨だけが残った。毛や肉が残っているものもあったり、姿がそのままになっているものもある。ここは厳しい自然のなかなのだ。

なんとか、日没前にJohn Muir Trailとの合流地点まで来ることができた。ハイペースで歩いたのもあって、今日のノルマを歩き終えた途端に立ちくらみを起こし、力が入らず動けなくなってしまった。食べるなら、喉越しのいいものがいい。

茹でたお蕎麦に、水で戻したひきわり納豆、オクラ、塩昆布、大根おろしをたっぷり乗せて、海苔をふりかけて納豆ネバネバ蕎麦にする。茹で汁は取っておいて、味噌パウダーとフリーズドライのほうれん草を入れて味噌汁をつくる。ああ和食。納豆も大根おろしも、久しぶりに食べたこの味にジーンときてしまった。乾燥野菜をたっぷり使える喜びも感じた。

次回の更新では、ホイットニー山もだんだんと頂上へ近づき、木一本生えない森林限界のエリアに入っていきます。寒さや極度の空腹と格闘しながら、厳しく壮大な景色に背中を押され、料理をする楽しさをよりはっきりと実感していく緑川さんの日記は続きます。

  • 緑川千寿子

    マーガレット・ハウエル 神南カフェで7年間を過ごし、現在はマーガレット・ハウエル カフェ3店舗のキッチンリーダーを務める。大好きな漫画や食にまつわるエッセイを片手にお酒を嗜むことが何よりの至福。