田口令子さん (YLÈVEデザイナー) 音楽にはじまり。
#MUSIC#STYLE

音楽にはじまり。

田口令子さん (YLÈVEデザイナー)

VOLUME.1

「あなたの好きな音楽を教えてください」。
詳しい人も、またそれが人並みの関心だったとしても、
ふと思い起こせば、音楽は人生のさまざまことと結びついているものだと思います。
音楽と失恋。音楽と洋服。音楽と―。
第1回は、服の基本を大切に、
上質でシンプルな洋服を作るブランド〈YLÈVE〉のデザイナー・田口令子さん。

Interview by Soya Oikawa (ANGLOBAL)
Photographs by Hiroyuki Matsubara

―早速ですが、普段どんな音楽を聴いていますか?

田口 正直にいうと、じつは普段、音楽はあまり聴かないんですよ。聴かないんですけど、ブランドの展示会をするようになって、そのBGM用に音楽を探す、というのはあって。SoundHound(アプリの)とかで、街中だったり、どこかで流れていると、調べたりしてっていうのを近頃するようになりました。

―探すときはどういう感じが多いですか?

田口 特にジャンルを限定して、ということではなくって、あくまでも洋服がメイン。で、展示会でいえばその洋服たちが並ぶ空間のなかで、そのシーズンの空気感、みたいなものを表現するうちのひとつの要素として捉えていますね。

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―音楽はあくまでも作った洋服の空気感を表現する要素のひとつ。

田口 はい。たとえば展示する空間があって、洋服がかかっていて、服の質感やテクスチャー、色のトーン、分量感がある中で、音楽もその全体の空気感とリンクしたりそれを増幅させるようなイメージ。音楽と同じように捉えているものに香りがあります。例えばこの19AWはちょっとノイジーな感じのものがよかったりとか、香りであればウッド調やスモーキーな感じのもの、シダーとか。そういうふうにこう、それぞれがリンクするような形で。音楽の話とずれちゃいましたね(笑)。

―大丈夫ですよ。これまでに展示会でかけた音楽で特に気に入っているものはありますか?たとえばこの19AWシーズンのイメージに合うものであったり。

田口 いつもは歌が入っていないものを選ぶことが多いですが、今回珍しく歌が入っていて。「アラバマ・シェイクス」という女性ヴォーカルのグループです。結構ロック調というか、女の人なんだけど声が掠れててパワフルで、なんかちょっと「浸る」感じがあるじゃないですか、空気が。このモヤモヤした空気感が良くて、今シーズンのメインカラーのスモークとか、フォグとか、そういう色合いに近いような。

https://youtu.be/faG8RiaANek

―あぁ、確かに。わかります。

田口 いわゆる女の人が求めるカッコいい女性像とちょっと違うものをこの方は持ってるなぁと感じて。例えばスーツとかでも古着、スウェットなんかを中に着て、汚いスニーカーを履いて、みたいな感じで着ているようなイメージ。シダーやたばこの煙が燻っているような空気感はヘアリーな素材感だったり、真っ白とかは入らないでちょっときな臭い色だけど品がいいような、味のあるような、そういう雰囲気の洋服ととても相性がいいなと思ってこの音楽をかけていました。

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―洋服の持つムードと同じトーンを感じます。洋服を作るというのは、どういうところを出発点にするのですか?

田口 なんというか、同時多発的に起こるんです。たとえば、なんとなく気になるイメージがあって、素材を見はじめると気になる素材感とか、糸とかが出てきたり「あ、来シーズンこれ気になるんだな」「いいんだな」、みたいなものが自分の中で分かってくるというか。

それで、これ、この生地が入ったボウルを「混沌」と呼んでいるんですが、この中から気になる色を取っていって。この混沌はそのまま本当に“混沌”の方が良くて。綺麗に整理されているところから選ぶのではなくて、気になる生地をパッと選んでここに入れておいてシャッフルする、その中からたとえばまた今「ぱぱっ」と抜くと、「あ、この色のトーンでこう並んだらいいな」とか…。そういうことをやっていると、自分では予想していない色のハーモニーみたいなものに出会うことがあって、それが、ちょうど音楽でも少し乱調があるものが好きなんですけど、そういう思ってもいない色のバランスとか、素材のバランスが出てくる。

または「形」としてそういうイメージがあれば作ってみたり、こんな分量感が気に入ってというのもあるし、パターン的なところの構造から入ることもあれば、ある風景や建築の写真や女性像からイメージが湧いてということもあって、という意味での同時多発的に、なんです。

さらにそれを企画に落とし込む作業は脳内立体パズルって感じです。

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―少し乱調がある音楽が好きということですが、服作りやほかのことにも共通していたり?

田口 それは、〈イレーヴ〉というブランド自体に言えることですね。今年の春夏シーズンの時にはChilly Gonzalesというピアニストの曲をかけていたんですが、彼のちゃんとこう、技巧派なんだけど壊れかけのリズム感が合うなと思って。〈イレーヴ〉自体が両極のもの、例えばトラディショナルとイノベイティブとか、破の美と完全美とか、そういったものを一緒に持ち合わせているようなモノづくりを理想としていて。ファッションもいろいろな要素があるじゃないですか。どちらかひとつだけじゃだめで、服の基礎はちゃんとしたいけど、そこばっかり突き詰めるのではなくて、その時の気分みたいなものは、それはそれで肯定したくて。隔たり過ぎずに中間、中庸でいたいなと。

https://soundcloud.com/chillygonzales/medley-solo-piano-2

―今日持ってきていただいたマーク・ロスコの作品集もそこに通じているのですか?

田口 そうですね。全然音楽の話じゃないですけど、すごく好きな画家のひとりで、なんだろう、このモヤモヤ感がというか、完全に二面に分かれていないところ、そこに彼の中の何か、揺らぎみたいなものやこだわり、作り手の思慮を感じます。

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―はっきりと線引きできない何かを抱えているような。

田口 緻密できちんと考えられているけれど、そこに揺らぎやニュアンス、緻密さそのものではなくて、深い思慮の残像みたいな漠っとした感じがする。完全じゃない何か、ありそうでないものというか、そういうものに惹かれるんだと思いますね。ほかに、上田義彦さんの写真も好きだし、ミース・ファン・デル・ローエの建築も好きです。この本は紙も厚さも印刷の仕方もとてもいい。

―ミース・ファン・デル・ローエの建築を写真家の上田義彦さんが撮影した本ですね。

田口 そう。なのでミース建築のある土地土地に行って撮影されていて。いつもシーズンのテーマについてお話はしないんですけど、何となく自分のなかでは「こんな感じの空気感」みたいなのがあって。で、その空気感を表現するひとつに。例えばこの荒涼としたところに、モダンな建築が立っているようなことがある。そのアンバランスな空気感とか陽の光とか冷たい空気が流れる感じとか、そういうのを表現するもののひとつに音楽もある。

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―いつもシーズンのテーマは設けていない?

田口 そうですね。テーマのために服を作っているわけでもなくて、なにか気になった先のものが「あ、そう。こういう感じ」みたいなことで、何かを掲げてそのまま表現するタイプではないんです。どっちかっていうと、たとえばさっきの写真に写っている陽の光とか陰影とか緑の質感とか、モサモサした木の素材感とか、そういう抽象的な表現になるので、具体的に「なにが」ってダイレクトに言えるわけではないんですよ。何となくこういう風景のなかにいる感じ、気持ちみたいなちょっと情景に近い感じかなと。

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―なるほど。少し話が変わるのですが、「混沌」の中から見て何かを感じるというのは、そういう状態に自分を保っていないと反応しない時もあると思うのですが。そういうところを保つ、という意識はありますか?

田口 確かにそう。一回切っちゃうと難しい、うん。でもそういう意味では常に意識していて、ずーっと気にしていますね。なんか今、こういう感じが気になるなとか、こういう素材、こういうデザインが気になるなってなったらずーっと、街歩いててもそういう人を見つけたらつい近寄っちゃったりとか(笑)。そういう感じで延々と探していて。なので、遊びも人間関係も、仕事と同一線上にあるっていう、全部つながっているという感覚はありますね。

―そういった境界線の無い繋がりの中に田口さんもまたいるわけですね。

田口 そうそう、だから年中ずっとモヤモヤ、バタバタしてるんですかね?(笑)。

  
  • 田口令子

    2018年の春夏シーズンよりYLÈVEをスタート。自身の身の回りの人が日常に着られる質の良いものという視点から、シンプルでありながら素材や仕様にこだわった「余白のある服」を展開。