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THE WORKING−仕事

音楽を作る オノ セイゲン (音楽家・レコーディング・ミキシング・マスタリングエンジニア)PART.1

VOLUME.2

ほぼ全ての人が仕事をする。
理由やその形はさまざまだけれど、それは生きる上でとても大切なことのひとつ。
時代とともに変化する仕事について知ることは、
今とその先のいろいろなことを“考える”きっかけになるかもしれない。
何か特別なことではなくて、さまざまな人たちの生業について見聞きしたいと思う。
知らない土地を旅するように。全2回に分けて、お伝えするPART1。

Interview & Edit by Moe Nishiyama(kontakt)
Photo by Victor Leclercq (kontakt)

目覚ましの電子音を止めると、シューッと蒸気の上がる加湿器の音が響く。ガラガラっと窓を開けると遠くの方でかすかに渡鳥のさえずりが聞こえる。そんな耳を澄ましていなければ聞き逃してしまうような微かな“音”の断片を“音楽”に変えてしまう人がいる。オノ セイゲン。作曲家、レコーディング・ミキシング・マスタリングエンジニアとして音楽にまつわるあらゆる仕事をこなす彼にとって“音”はどんな存在なのだろう。取材日の朝、彼のスタジオに伺うと、「ご挨拶の前に」と早速その音を聞かせてもらった。

―――時間を忘れさせるような、それでいてどこかで聞いたことのあるような安心感のある不思議な音楽ですね。

オノ いま、(取材中)スタジオだから音がないでしょ。初めて会う時にここまで無音だと、シーンとしていて緊張感が生まれてしまうんです。このように小さく自然音につつまれてると、前にビーチで会った?みたいな気持ちにもなったりして(笑)それは無意識のうちに音から共通の記憶の中にあるものを想起しているからなんです。

ーーー音の感じ方は記憶と深く関係しているということですね。

オノ たとえば硬い音、柔らかい音という表現がありますけど、硬い音ってどんな音をイメージしますか?

ーーー硬い音だとカツーンという音、柔らかい音だとポロンポロンといったハープのような音でしょうか。

オノ 硬い、柔らかいというのは印象比較の話。どこからは硬いと明確な基準があるわけではないですね。カツーンという音は叩く瞬間にピークがあって、ハープやギターのポロ〜ンという音は波形で見てもふわっとしてる。好きな音、嫌いな音も同じで、その人の個人的な主観、趣味趣向ですね。それは育ってきた環境、人生経験、文化的背景からできあがってて、多くの人には騒音と感じる音こそが、かっこいいパンク、メタル系の好きな音だと感じる人もいるわけです。ハープは高価な楽器で買えないけど、家にあるギターの音は似てるな、というきっかけでポロ〜ンとガシャン、カタッとか音の連続が音楽に聞こえてくるんですね。

―――まさに”音”が”音楽”に変わる瞬間ですね。日常の記憶や体験、生活習慣なども音楽になりえると。

オノ そうですね。気に入ってたカフェがあったんです。聞こえてくるのはパンをこねる機械の“ガタスカダッタドンスカドン”という音のリズムで、それがまさにサンバそのものでね。朝8時のミーティングにも最適だったんですが、ある時からBGMも流れるようになってしまって、それが苦手な種類の音楽で行かなくなってしまいました(笑)

ーーーパンのサンバ(笑)。そんな風に聞いてみたことがなかったです。そもそもオノさんが音楽を始められたきっかけについても気になります。

オノ そこはほとんどの人と同じで中学高校生の時にバンドがやりたかったのがきっかけです。子供の頃から音楽を習っていたわけでもなくて。思えば高校生の頃、勉強はぜんぜんしないで、一番はスポーツ大好きで、あとは大学生のバンド、そしてジャンルはめちゃくちゃに映画とレコードでした。コルトレーンの「ヴ〜〜ァ〜」とジミヘンの「グゥイーン」、ニール・ヤングとか。ヴィスコンティの「ベニスに死す」のマーラー、ゴダールなんて高校生にわからないよね。背伸びして大人の世界を覗こうとしてたんですね(笑)まあ、そういう視点では映画の中の音は全部で音楽とも見えるしね。「音楽」は耳で聞こえている「音」の中の一部で、「音」はそれ以外を含むすべてですね。これは騒音でこれは音楽という境目は考えない。日常、仕事場ではないところで、あ!と発見することは多々あります。プールに週に3回くらい行くのですが、泳いでいると無心になっているようでリズムがあるので、単純なリズムの繰り返しの中でアイデアが浮かんだりまとまったりします。

ーーー音楽のインスピレーションは日常の中にあると。

オノ ほとんどそうです。新しい曲が浮かぶのは、美味しい食べた瞬間だったり、そこにいっしょにいる人との会話だったりね。シェフの人が食材を見て新しいメニューを思いつくのに似ているんだと思います。素材からの“反応”でひらめいてくる感覚。頭で考えたりピアノの前に座っていても曲は生まれてこない。だから僕のメロディはメモ、記号とかスケッチみたいな遊び感覚の単純なのばかりですね(笑)

―――料理と音楽は密接に繋がっていたんですね。

オノ ヌーベルクイジーヌのように、アマゾンに未知の食材を探しに行くのも憧れますけど、大人になって好きになっていったのは、高級レストランではなく、どこでも売ってるローカルの食材。ニースに居たことがあって朝の漁港でしか買えない「プティット」、流通しない小魚をオムレツにするとか、シチリアの一番端で採れる塩でおばちゃんたちが5kg詰の缶にして発酵させているアンチョビや、オリーブオイル、ガーリックがあれば良いんです。特別な材料ではなく、そこにあるもので作る、音楽制作においても同じ考え方で制作しているように思います。

――オノさんの楽曲でサンバやジャズ、多国籍なムードを感じるのも、料理と関係しているのでしょうか。

オノ 意識して考えたことはなかったですが、振り返ると無意識のうちに、僕の場合はバックグラウンドには食べものが強く影響してるのは確かですね。88年に渡辺貞夫さんに連れられて初めてリオ・デ・ジャネイロを訪れてから15年間毎年欠かさず通っていたブラジルはイタリア系移民も多く南米の中で唯一ポルトガル語圏なので、オリーブオイル、ガーリック、アンチョビは必須の国なんです。イギリスや北欧は音楽も嫌いではないですが、繰り返し行きたいと思わないのは食文化の趣向ですかね?要するに食べ物の美味しいところは何処へでもひょいひょい出て行くということですね(笑)

次回のインタビューPART2ではオノ セイゲンさんにとって休日の“音”との付き合い方、お仕事をされる上で大切にされていることを伺います。

オノ セイゲンさんの作品はお近くのレコードショップでお求めください。
入手が難しい場合は下記のオンラインストアでもお求めいただけます(サイン入りも可)。

(左上)COMME des GARÇONS SEIGEN ONO (CD/SACD) ¥ 4,400(二枚組)、
COMME des GARÇONS SEIGEN ONO (RECORD) ¥ 6,380(二枚組)、
(右上)CDG Fragmentation / Seigen Ono (CD/SACD) ¥ 3,520、
(左下)CDG Fragmentation / Seigen Ono (RECORD) ¥ 4,400、
(右下)MEMORIES OF PRIMITIVE MAN / Seigen Ono and Pearl Alexander (CD/SACD) ¥ 3,300

  • オノ セイゲン

    作曲家/アーティストとして1984年にJVCよりデビュー。87年に日本人として始めてヴァージンUKと契約。87年「サイデラ・レコード」、96年「サイデラ・マスタリング」設立。VRなどの音響技術の共同開発、音響空間デザインやコンサルティングなど、音を軸とした多様な仕事を手がけている。2019年度ADCグランプリ受賞。