#OUTDOOR#TRAIL#FOOD

衣食住をかついで歩くJohn Muir Trailへの旅

ロングトレイル日記 その5 ―四六時中、食べ物のことばかり―

VOLUME.10

MARGARET HOWELLのカフェ店舗で7年ほど勤務し、
現在、都内3店舗のキッチンリーダーをつとめる緑川千寿子さんは、
昨年の夏、約1ヶ月にわたってアメリカ「John Muir Trail」への旅に出た。
第5弾では、マウント・ホイットニー山頂間近の緑川さんの日記をお届け。
ハイカーハンガーでお腹をぺこぺこに空かせ、寒さに苦しめられながらも登頂を目指します。

Text by Chizuko Midorikawa (ANGLOBAL)
Edit by Yoshikatsu Yamato (kontakt)

9月13日 お米でパワーチャージ

6時起床。昨日のネバネバ納豆のおかげか身体は快調だ。とはいえ、朝は手足がかじかむほど寒い。陽の当たる場所まで歩いて朝ごはん。ついに白米が食べられる。

そう、やっと白米が食べられるんだ! 再補給で手に入ったアルファ米に、菜飯のふりかけを混ぜて堪能する。ほうれん草のおひたしを添えて、味噌汁の具はカボチャと豆腐。久しぶりのお米にテンションが急上昇する。ほんっと美味しいなあ。ご飯って、なんでこんなに力になるんだろうか。

歩き出すと、がらっと景色が変わったエリアがあった。森林火災の跡だ。黒く焦げた木が立ち並ぶ。雷や自然発火が原因らしい。

今日は途中で道を修復しているレンジャーにたびたび出会った。ハイカーたちと同じように、テントや食料、道具を担いで山に入り、数日かけて工事をしてくれているようだ。ありがとうございます! みなさんのおかげで、安全できれいな道を歩くことができます。感謝の理由も伝えたいけれど、言い方が分からないから「サンキュー」を繰り返す。

15時。この時間に夜ご飯を食べるのにも慣れた。パスタがたっぷり食べたい。日本から送ったミルクパウダーと乾燥卵のパウダーをつかってカルボナーラソースをつくり、粉チーズ、残っていたベーコンビッツでカルボナーラをつくる。

歩き始めたばかりのときよりも、登りで立ち止まることが減った。補給で荷物は重くなったはずなのに。「歩いているうちに身体が作られていくよ」と聞いていたがそれを実感してきたのだった。

9月14日 とめどない食欲

6時。寝袋からなかなか出られないほど寒い。コーヒーとココアを飲んで出発。かじかむ手でテントを畳んだり荷物をパッキングするのはなかなかしんどい。今日も2時間ほど歩いてから朝ごはん。温かいお蕎麦にする。ひじき、ほうれん草、天かす、大豆ミート。家で乾燥させてきたちくわぶも入れてみたけれど、あえなく崩れてしまった。乾燥には向いてないんだろう。お蕎麦を食べているあいだ、身体の内側はあったまるけれど、手と足先までその温かさは届かず、ちぎれそうなほどに冷たいままだ。

峠を越えたところでふと後ろを振り返ると、よくこんな場所を登ってきたなとゾッとする。それと同時に、頑張ったな、と自信も出てくる。

それにしても、最近はお腹が空いて仕方ない。しっかりめに食べても、2時間後になればもうお腹が空いている。これが噂に聞く「ハイカーハンガー」という状態か。食べ物のことばかりが思いついて困った。

9月15日 調理の作業がリフレッシュに

白米をがっつり食べたい気分だ。乾燥納豆にトロロとオクラ。フリーズドライの大根おろしを戻して、ネバネバ丼の完成。味噌汁は、とろろ昆布に豆腐。

やっぱり和食にはほっとする。醤油、味噌、納豆を持ってきて本当によかった。インスタントばかりでは味に飽きていただろうし、ところどころで料理をつくるのがリフレッシュになっている気がしていた。限られた食材のなかで工夫して調理をするのは、仕事のスイッチが入るのかとても楽しいし、いかにして突き詰められるか挑戦したくなる。淡々と歩き続けるトレイルのなかで、この楽しみがあって本当によかった。

とはいえ、食べても食べても、またすぐにお腹が空く。行動食には柿の種やスナック、チョコレートはジップロックに分けて1日に食べていい量を決めていたのだが、お昼の時点で1日分の行動食を食べ切ってしまいそうだ。お腹がすぐに空いてしまって、食べずにはいられないのだ。空腹を満たしたい。口いっぱいにチョコレートを詰め込みたい。

9月16日 森林限界の風景に驚嘆

昨日は風がうるさくて、よく眠れなかった。飛んでいってしまうんじゃいかというくらいの音をテントが立てる。こんな風の強い日、熊や動物はどう過ごしているんだろう。テントのなかで強風に煽られていると、周りから隔離されたような孤独を感じる。

今日も高いパスを超えなくてはならない。寝不足の身体をカバーするように朝ごはんを食べる。ラーメン、チャーハンセット。なるとは家で乾燥させてみたものだ。うん、なかなかいい。

風は止まず、高度が上がっているせいか、むしろどんどん強くなっている。目の前に、今日超えなくてはならないパスが見えてきた。近くにいたアメリカ人のお母さんと思わず目を合わせて笑ってしまった。あっけにとられるくらいの大物が目の前にそびえている。

この強風のなか、剥き出しになった岩場を登っていくのは恐怖だった。身体ごともっていかれて吹っ飛んで落ちてしまいそうになる。必死で一歩ずつ、ゆっくりと進む。森林限界を超えているので一面グレーな世界だ。なんとか登りきったところで、さきほどのお母さんとハイタッチをする。頑張ったね、私たち!

夜はどんどん寒くなってきている。ダウンを着て寝袋に入っても寒すぎて眠れない。これはまずい。レインウェアさえも着込んで、とにかく持っているアイテムは全部身につけて寝袋に入る。それでも寒くて、何回も目が覚めた。

続く日記では、ホイットニー山の登頂を達成し、いよいよJohn Muir Trailもクライマックスに近づきます。厳しさの増す道のりや、峻厳な山々の景色に圧倒されながらゴールを迎える緑川さんの歓喜の声をお楽しみに。

  • 緑川千寿子

    マーガレット・ハウエル 神南カフェで7年間を過ごし、現在はマーガレット・ハウエル カフェ3店舗のキッチンリーダーを務める。大好きな漫画や食にまつわるエッセイを片手にお酒を嗜むことが何よりの至福。