おせんべいを思い出したときはいつでも より道のススメ|東京・吉祥寺
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より道のススメ | 東京・吉祥寺編

おせんべいを思い出したときはいつでも

VOLUME.9

MARGARET HOWELL SHOP & CAFE 吉祥寺で店長を務める鈴木範子さんがセレクトする、
吉祥寺の心安らぐお店たち。そのお店でしか買えないものや味わえない雰囲気の裏側には、
オーナーさんのこだわりや人柄があるような気がします。
「より道のススメ」で立ち寄った「花見せんべい」で店長を務める安部川有希子さんに、
おせんべい作りのあれこれや吉祥寺の賑わい、長い営業時間の理由について聞きました。

Select by Noriko Suzuki(ANGLOBAL)
Photography by Natsuki Kuroda
Edit by Yoshikatsu Yamato(kontakt)

鈴木 「花見せんべい」さんに居ると、お店の歴史がじかに伝わってくるようです。いつ開店なさったんですか?

安部川 昭和33年。1958年ですね。

鈴木 お父様、お母様の代からですか。

安部川 そうです。母は今もお店に立っていますよ。母がいないときに私がお店にいると、昔からのお客様が「お母さんは?」って聞くの。

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鈴木 お付き合いの長い常連さんですか。

安部川 そうです。ありがたいことですよね。昔からのお客さんは私以上にお店のことを知っているし、お店の味にも敏感ですので気が引き締まります。味をなるべく変えずに作っているおせんべいは、ずっとお世話になっている職人さんと私の息子の手焼きです。

鈴木 そうでしたか、息子さんも焼いてらっしゃるんですね。おせんべいはお米のお菓子ということは分かるのですが、お店で焼くまでにどういった過程があるのでしょう。

安部川 お米を蒸して、一度お餅にします。それを平べったくして、大きな冷蔵庫でふた晩ほど寝かせる。それから、それぞれのおせんべいの形にカットして天日干しをします。お米を蒸してから、一週間ぐらいかけると、こういうものができます。

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鈴木 すごくかたいですね。焼く前のお餅よりもさらにかたい感じ。

安部川 おせんべいの生地をつくる工場があるんですよ。東京の下町には、そういう専門の工場がたくさんあったんです。でも、減ってきましたね。今は足立区に一軒と、山形県の一軒にお願いしています。

鈴木 原料にもこだわっていらっしゃるとお聞きしました。

安部川 はい。保存料は不使用で、原料には国産のものを使っています。とはいえ、いいものを手に入れるのがだんだん大変になっているのも事実です。海苔なんかもそうですね。

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鈴木 なるほど。私、花見さんの風味のいい海苔のおせんべい、大好きです。

安部川 ありがとうございます。

鈴木 それに、そんなおせんべいを、いつでも買えるのが花見さんです。というのも、営業時間は長いし、お休みも少なくて、いつもお店を開けていらっしゃいますよね。夜9時までやっているから、仕事終わりに寄れたり。私にとってはすごくありがたいのですが、これにはなにか理由があるんですか?

安部川 50年前になりますが、すこしの時間、店を閉めたことがありました。その日、九州からお客様がいらっしゃっていて、夕方にお店を開けたとき、再びそのお客様がお見えになり、開いていて良かったと喜ばれたことがありました。申し訳ない気持ちと、感謝の気持ちから、いつもお客様をお迎えできるよう心がけてきました。

鈴木 なるほど。

安部川 あのおせんべい屋さんはいつも開いているよね、というお店ならば、気兼ねなく立ち寄っていただけるでしょう。そうありたいなと思って。

鈴木 限られた時間に予定を立てて、というよりも、日常のペースでふらっと行ける。私が小学生のときから愛読しているさくらももこ先生の色紙のほほえみにも癒されます。肩の力がふっとなくなる、優しいももこの笑顔。

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安部川 鈴木さんはさくら先生の大ファンですよね。これは1993年制作の、下町のおせんべい屋を舞台にしたホームドラマ『谷口六三商店』の脚本をお書きになるにあたって取材にいらしたとき描いていただいたものなんです。

鈴木 そういうご経緯だったとは。

安部川 あのときのことはとても思い出深いです。おせんべいはどうやって作るの? というお話しをするとき、「さくら」というお名前にちなんで、桜餅をお出しして、昔の写真も見せたりして。そうしたら、ドラマに、古い写真をみんなで見るシーンや、桜餅が登場したり。なんだか嬉しかった。家族との思い出も詰まっている、このお店の宝物です。

鈴木 さくらさんの心温まるお話を聞かせていただきありがとうございます。子どものころからおせんべいに囲まれている安部川さんですが、おせんべいはお好きですか。

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安部川 はい、とっても。シンプルな丸いおせんべいが好きですね。子どもの頃、いつもお店にいました。そのあたりにね。でも、お店はいつも忙しかった。ご近所のパン屋さんだったり、電気屋さんだったり、お洋服屋さんや写真スタジオ、材木屋さんがあって、花屋さんもあって、個人商店が軒を連ねるこの商店街で、周りの方々に育てられました。魚屋さんや八百屋さんがリヤカーを引いて道を通るような時代。なんだか、いろいろと思い出してしまいました。

鈴木 そういう街だったんですね、吉祥寺は。

安部川 今でこそ、私たちのお店構えは、周りのお店とちょっと違っているかもしれません。だからなのか、外国からお越しのお客様は興味を持つみたいでお店に入ってくれますね。住みたい街って紹介されているけど、どんな街なの? って聞かれたりして。そういうこともあって、値札にも英語を入れました。実は妹がオーストラリアに住んでいるので、彼女のアドバイスを聞いて、楽しみつつどうにかおもてなしできるようにしています。

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鈴木 こういう趣深いお店が、吉祥寺に残っていてくれているのは私としても嬉しいです。

安部川 ありがとうございます。鈴木さんは普段、どんなときに召し上がってくださっているんでしょうか。

鈴木 休日の前の日の仕事終わりに買って、次の日、家でゆっくりしながら食べるのが定番です。噛みごたえがあって、味も馴染みのあるおせんべいは、落ち着くしリフレッシュになる気がします。あ、おせんべい食べたい! っていう瞬間って、きっと色んな人にありますよね。

安部川 そうでしたか。お客様にも多くいらっしゃいますね。おせんべいをぽりぽりと食べていると、落ち着けるという方。あのお店なら今日も開いているな、と、気兼ねなくお越しいただけたら嬉しいです。

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より道のススメ吉祥寺編は、こちらの記事をラストに別の街へバトンタッチ。 

吉祥寺のマーガレットハウエルで店長を務め、この街との付き合いも長くなってきた私ですが、記事の連載を通じて紹介してきたお店やスポットに癒されて、何度も「また頑張ろう!」という気持ちにさせてもらいました。

用があって向かった郵便局からお店までの帰り道、時間に余裕があるので少しだけ遠回りをして雑貨屋を覗くと、UKヴィンテージのお皿を発見する。お店に戻ってからは、そのお皿の話や、店主の方とのやりとりを話題に、お客さまとのお話が盛り上がる。

私にとっての「より道」は、自分の「好き」にたいするアンテナを鈍らせず、お店にいらっしゃるお客さんとの楽しくてフレッシュな会話にも活きてくる大切なひとときです。

さて次はどの街で、アングローバルスタッフがより道をするのでしょうか? 

私も引き続き、吉祥寺に足を運んだお客さまが街に親しみを感じてもらえるよう、お店からも情報を発信していきます! 

MARGARET HOWELL SHOP & CAFE 吉祥寺 店長

鈴木 範子

  
  • 花見せんべい

    東京都武蔵野市吉祥寺南町1-1-5

    9:0021:00

    年中無休

    TEL 0422-43-5281