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ウラカタログ

簡単ではないことの大切さ - MHLによるOVERDYE PRODUCT

VOLUME.6

普段目にすることのない側面にフォーカスして日々のなかで考えるきっかけを探していく「ウラカタログ」。今回は、MHLによるサステイナブルな取り組み「OVERDYE PRODUCT」について。その要である染工場をANGLOBAL COMMUNITY MARTセクション長の及川壮也が訪ねました。

Text by Soya Oikawa (ANGLOBAL)
Photography by Shinnosuke Yoshimori

先日、社内でふと一枚のシャツに目が止まった。それは生地だけでなく襟についたネームタグもステッチも何もかもが真っ黒に染められたMHLのカラーレスシャツだった。いったい何のサンプルだろうと聞いてみると、MHLが新しく取り組む「OVERDYE PRODUCT」の染め見本なのだという。

OVERDYE PRODUCTについて説明が書かれたタグ

普段、さまざまな工程を経て作られる製品にはほんのわずかな織りキズや染めムラ、その他の汚れが付着してしまうことがあり、それらは厳しい検品基準によってショップに並べることができない。しかしその中には普段使いに支障がない程度のものも多く、MHLではそういったプロダクトを再生させる目的でこの「OVERDYE PRODUCT」という取り組みをスタートさせることになったのだという。生産ロスを減らすためにできることを考え、約一年がかりでようやく実現したプロジェクトだ。

一浴目を待つ製品たち

 もともとMHLは糸や生地の段階ではなく、製品になってから染める「ガーメントダイ(製品染め)」という手法を得意としてきた。服の形になってから染めることで全体に馴染みが出て風合いが増すのが特徴だ。今回用いる「オーバーダイ」は一度染められたものに、さらに重ねて染め上げるという意味であり、必然的にどんなものでも染められる濃色(今回はブラック)が選ばれる。

また染められる素材の種類によって染まり方は異なり、アイテムによってはステッチやボタン付けにコットンよりも強度の高いナイロンやポリエステル糸が用いられることがあるため、その部分だけ染まり方が異なったりもするのだ。

一浴後の製品。ステッチなどのコットン以外の部分だけが黒く染め上がっている。

MHLにとっては、生地の色とステッチの色の関係もまたデザインであり、どんなアイテムでも同じようにオーバーダイをするためには、日本でもごく限られた染工所にしかできない「二浴染(によくぞめ)」という手法が必要だった。

二浴染とは、種類性質の違う素材を一浴、二浴に分けて染め上げる手法で、その特殊な技法を持った「株式会社トーカイケミカル」という染工場が石川県にあり、今回はプロダクトが蘇る瞬間を特別に見せてもらえることになった。

染めの工程は、ビーカー室で染料を作るところから始まる。さまざまな色の液体が入ったガラス瓶がたくさん並び、まさに色の実験室といったところ。染料の素となる「母液」作りはほんのわずかな誤差も許されないとても繊細な作業だ。

染料ができ上がると、いよいよ染めの工程へ。専用の窯を用いて一浴、二浴、さらに脱水を経てタンブラー乾燥へと作業は進む。素材や量によって必要な微調整は経験豊富な職人がいなければできない。

そしてもともとはブラックに染められることを想定してない製品たちが、それぞれの面影をわずかに残しながら新しい製品として生まれ変わっていく。色が変わると全く違った印象に。

大量に作られる服も、少量しか作れない服も、人の身を包むという同じ役割を担う。普段はその「着る」という視点で衣服を考えがちだけれども、その前後にもしっかり目を向けてみようと思った。品質の良い製品づくり、丁寧に長く着続けること、そして手放すということ。それらはどれも「簡単」なことではない。MHLの「OVERDYE PRODUCT」による製品は、その「簡単」ではないことの大切さを教えてくれた気がした。

  • MHL OVERDYE PRODUCT

    3月13日よりMHL 代官山店にて取り扱い開始です。

    MHL 代官山店

    東京都渋谷区猿楽町 24-1-1F

    TEL : 03-5489-5781