#OUTDOOR#TRAIL#FOOD

衣食住をかついで歩くJohn Muir Trailへの旅

ロングトレイル日記 その8 ―ロングトレイルを歩き終えて―

VOLUME.13

MARGARET HOWELLのカフェ店舗で7年ほど勤務し、
現在、都内3店舗のキッチンリーダーをつとめる緑川千寿子さんは、
昨年の夏、約1ヶ月にわたってアメリカ「John Muir Trail」への旅に出た。
第8弾では、ビショップを離れてサンフランシスコに渡り、
帰国をしてからの振り返りを含めた最後の日記をお届けします。

Text by Chizuko Midorikawa (ANGLOBAL)
Edit by Yoshikatsu Yamato (kontakt)

922日 さようなら、大好きな街

相部屋で寝ていた人の大きないびきで起きてしまう。台湾から来たハイカーと一緒に朝ご飯へ。トレイルでマヒしたのだろう。未だにシャワーや着替えのタイミングが掴めない。「あれ、お風呂って毎日なんだっけ?」と考えてしまった自分に笑う。

散歩をしたり、川に浮かぶカモを眺めたり。昼寝をして、ブルワリーに行ったり。よくパン屋にも行った。いい街だなあ。飲んで、食べて、ボウリングもしてめいっぱい楽しんだ。明日には空港のあるサンフランシスコに戻らなくてはいけない。そうか。長くて特別だった夏休み、もう終わってしまうのか。

923日  アメリカを離れる

7時のバスで出発。買っておいたお気に入りのサンドイッチを食べる。このお店のパンを食べるのも最後だと思うと寂しい。ビショップにいるあいだ、何度も食べて、この街と同じくらい大好きになっていたパン。ずっと忘れないであろうこの味を大切に噛みしめながら、バスはサンフランシスコへ向かっていく。乗り換えを一回して、12時間。座りっぱなしで体が痛くなった。そういえば、トレイルのあいだは歩き続けていても筋肉通で体が痛くなることはなかった。

サンフランシスコは20時。初日と同じミッケラーに立ち寄ってビールで乾杯をする。行きとは全然違う気持ち。今日はしみじみとしてしまった。こういうときの食事はおいしくて、ほろ酔いになってしまう。「終わっちゃうなあ」という思いが、ふとしたとき強く感じられる。

飛行機は24日の早朝に出発だから、ホテルは取らずに空港で過ごす。寝袋にくるまってベンチで寝る。「帰る頃にはきっと図太くなっているよ!」と言われていたけれど、まさにそうだ。John Muir Trailを歩くまえの自分なら、こんな無防備な真似は怖くて出来なかったに違いない。

924日 写真で振り返るJohn Muir Trail

話には聞いていたけれど、ジョンミューアは標高や時間によって、本当にさまざまな表情を見せてくれるトレイルであった。飛行機のなかで写真を振り返り、自分がそこにいたことの幸せを繰り返し味わいつつ、なんとなく、本当にそこにいたのか、信じられないような気もしてくるのだった。

925日 「ただいま」が言えた驚きと自信

お昼に帰国。アメリカだと気にすることのなかったザックのダメージが日本に着いた途端、目につく。家でお風呂に入ったら、行きつけの居酒屋さんに直行。おにぎりとお新香を食べたら、そのおいしさと帰ってきた実感でグッときてしまう。

こうして馴染みのお店でくつろいで、心の中で「ただいま」を言っている自分になんだか驚いてしまう。怪我もなく無事だ。はじまりといえば、飛行機の乗り遅れからスタートした。自分の持ち物の選定が甘く、挫折したコースもあったし、事前の準備さえもう少ししていたら防げたように思うハプニングも多かった。

しかし、それでもなんとか臨機応変に考え、そのときできる最大限の対応をして、トレイルを進めていくなかで、判断力や体力がついたと自信が湧いてくる感覚もあった。次に活かせるような失敗が、たくさんできた。

なによりも、ご飯の大切さというか、体が欲しがっているものを感じ取り、作りながら、料理を楽しみながら歩くことを感じることができた。なにを自分は大切にしたいのか、それを再確認したことで強くなった気がする。

ロングトレイルをまた歩きたい。ヨーロッパで最高峰のモンブラン山麓を一周歩く「ツール・ド・モンブラン」は、国境を超えれば、山小屋で各国のご飯を楽しめるらしく、興味がある。オーストラリアのタスマニア島の自然を堪能できるトレイルも気になるし、John Muir Trailとは別のアメリカのトレイルも行ってみたい。歩いて、食べて、おいしい料理をあれこれと考えて、料理して、また歩いて、見たことのない景色に出会いたいのだ。

さいごに、John Muir Trailを振り返って

衣食住を詰め込んだザックとともに、ひたすら歩く。これはとても贅沢な時間だったと、帰国してすぐよりも半年経った今すごく感じています。電波もなければトイレも無い、荷物は必要最低限。自分の身は自分で守る。そんななかで自分が歩き切れたこと、20日間程テント生活が出来たこと、カリフォルニアで過ごしたことは夢であったかのようにも思っています。

意外だったのは、テントを張って4泊くらいしたところであと何日間でもいつまでも、このまま普通に生活ができるんじゃないかという気持ちになったこと。その気になればどこでも生活ができるかもしれない人間は、すごいもんだなと。。

今は、日々、日常にある便利さに有り難さを実感しています。でもときどき、あのときのシンプルな生活がとても恋しくなったりもしています。この気持ちがどんどん大きくなっていったとき、私はきっと、次のロングトレイルに向かうのかもしれません。

アウトドアの楽しさと厳しさ、その環境でする料理の楽しさを教えてくれた料理研究家の山戸ユカさん、「隔絶感」というキーワードとともに、ドキドキするようなトレイルのエピソードや実践的なアドバイスをくれた「ハイカーズデポ」の土屋智哉さん、ありがとうございました。私の日記は参考になることばかりではないかもしれませんが、この連載を通して、ロングトレイルに興味を持つ人が増えてくれたら嬉しい限りです。

MARGARET HOWELL CAFE

緑川千寿子

  • 緑川千寿子

    マーガレット・ハウエル 神南カフェで7年間を過ごし、現在はマーガレット・ハウエル カフェ3店舗のキッチンリーダーを務める。大好きな漫画や食にまつわるエッセイを片手にお酒を嗜むことが何よりの至福。