ムードを作る細かなこと ウラカタログ
#BEHIND#THE#SCENE

ウラカタログ

ムードを作る細かなこと

VOLUME.1

例えば1枚のTシャツ。糸の原料、パターン、デザイン、縫製や仕上げ。
洋服だけに限らず、私たちの日常にあるどんな物事もある日突然現れるなんていうことはなくて、
その裏には数多くの人や想いがあるものです。
そんな、ごくごく当たり前だけれど、通り過ぎてしまいがちな感覚のなかに、
たくさんの学びがあるのだろうと考えました。
「ウラカタログ」では、普段目にすることのない側面にフォーカスして、
日々のなかで考えるきっかけを探していきたいと思います。

Text by Soya Oikawa (ANGLOBAL)
Photographs by TETSUYA ITO

ph_1.jpg

 ブランドの魅力って何だろうって、思うときありませんか? 商品はもちろんのこと、ショップやウェブサイトの雰囲気だったり、スタッフのキャラクターだったり、紙袋や付属備品という細かなところから感じる作り手たちの「気配」だったり……。普段何気無く「なんかいいな」と思うとき、実はきっと心と身体のいろんなところでその「良さ」みたいなものを感知しているはず。ブランドにはいろんな側面があって、それぞれにあまり知られることのない物語が隠れています。

 第1回は、今年でオープン10周年を迎えたMHL代官山店について。「MHL」は、イギリスのクロージングブランド「マーガレット・ハウエル」のカジュアルライン。アングローバルで働くスタッフはもちろん、デザイナーであるマーガレット本人の愛用率もとても高く、仕事で年に2回ほど来日する彼女がMHLのざっくりしたニットを着ていたり、使い込まれたスカウトベルトをしているのをよく見かけます。

 2003年にスタートしたMHLは2009年にUK本国に先駆けてオンリーショップを代官山にオープン。その10年目の大きな節目を迎えた今年の9月、代官山蔦屋書店での記念イベントと大規模なリニューアルオープンが行われました。

ph_2.jpgph_3.jpg

 エキシビションイベントが行われたのは代官山蔦屋書店の敷地内にあるT-SITE GALLERY。ロンドンから運ばれたMHLの貴重なアーカイブサンプルが展示され、数々の10周年記念限定アイテムが並ぶ空間は、もともと白い壁で囲われているモダンな雰囲気。そこにMHLらしい世界観を演出するために木材の小片を熱で圧整形したチップボードを建てて、ピンで形を整えながらアーカイブサンプルを展示するというアイデアが採用されていたほか、限定商品を陳列したテーブルはもともとイギリスで建築家が工事現場で作業するときに簡易的に使うものを持ち込んでいました。この空間づくりを手がけたのが日英合同のVMD(ビジュアルマーチャンダイザー)チームであり、ブランド本国のVMDであるマットも設営のために来日していました。

―アーカイブコーナーがとても人気ですね。ピンでサンプルを留めていたり、ワークテーブルを置いていたりと、あえて身近にありそうなものを使って演出していましたね。

マット そうですね。この白いコンテンポラリーな空間はマーガレット・ハウエルにはとてもよく合うと思うのですが、MHLはもう少しワークなイメージが欲しくて。このワークテーブルなんかは折りたためるし、軽くて運びやすくてとても実用的でMHLラインに合っていると思ったんです。もともと、MHLは「ワーク」や「ミリタリー」や「ユニフォーム」といった機能的なデザインコンセプトを大切にしていますからね。

ph_4.jpgph_5.jpg

―今回のミッションを振り返ってみてどうでしたか?

マット イギリスでもショップ以外での演出はあまりしたことがなかったので、とても新鮮な体験でした。でもそのおかげでVMDのチームともたくさんコミュニケーションすることができ、今回の滞在を通じて日本の文化に触れることができたのも面白かったです。そういえば新幹線では椅子を回転させて向かい合って座ることができるんですね。まさに機能的だし、すごく素敵な光景でした。

 もともとある空間をどうブランドらしく演出するか、そこに置かれる什器の材質や色合い、照明の明るさや、利用する人の動きなど、さまざまなシュミレーションを経て空間を作るという作業は、それもまたひとつのものづくりの形なのだと思いました。

ちょっとした気遣いが生む佇まい

 東急東横線の代官山駅を降り蔦屋書店方面に向かって歩き、代官山駅入口交差点を渡るとすぐに白い箱を積んだような面白いデザインの建物が見えてきます。その1階にあるのがリニューアルオープンしたばかりの真新しいMHL代官山店です。

ph_6.jpg

 大きなガラス張りの正面入り口から、ストレートに奥へ伸びる長い空間。UKのマーガレット・ハウエルやMHLのショップも手がけているイギリスの建築家のウィリアム・ラッセルさんの内装デザインによる店内に入ると、MHLショップの特徴でもある「見えるストック」が目に飛び込んできます。普通は隠すことが多いストックロッカーをあえてオープンに見える設計に。そのロッカーの支柱は一見グレーだけれど、実は縦と横のフレームで濃淡が異なり、奥行きを感じられるように工夫されているのだそう。床に敷かれたグレーの滑り止めのラバーマットやディスプレイ用の平台やレジカウンター、ハンガーラックに到るまで全てがまるでファクトリーのような実用的なデザインで統一されています。ちなみに、フィッティングルームに使われているカーテンは、UKに残っていたマーガレットが大好きなコットンリネンの生地を取り寄せて仕立てられたのだそうです。

ph_7.jpg

 MHL事業部長の山本さんに話を聞くと、もともとの建物の構造をうまく活かしながら、ブランドらしい内装に仕上げていくために、細かなレギュレーションを調整するのが大変だったそうです。でもリニューアルする前まではひとつのシーズンで作られる全商品を並べるだけのスペースがなかったため、その都度編集しながら陳列していたのだけど、これからはいよいよフラッグシップショップらしく全てのラインナップを展開できるようになったことをとても喜んでいました。

ph_8.jpgph_9.jpg

 広くなった店内にはアート作品を演出できるような展示用のスペースも加わり、リニューアルオープンと同時にそのスペースを飾っていたのはイギリス人画家の「ロバート・ハーディ」さんの作品。何年もかけてご本人が集めたというMHLのショップで使われてきた包装紙などを再利用した作品を、後日見たマーガレットが大変気に入り、UKのショップで飾らせてもらうことになったというもの。それを今回のリニューアルに合わせて取り寄せて展示していました。イギリス北西部にある都市マンチェスター出身のロバートさんによる風景作品は、手作りならではの温もりのある雰囲気でした。

ph_10.jpgph_11.jpg

 「最近ではデートで来店する方も多いので、店内のBGMもそんなお客様の会話の邪魔にならないように、お店の入り口付近と奥とでちょっとずつボリュームを変えている」とは、ここ代官山店に立ち続けて8年めになるスタッフ・栗村さん。お店が広くなったからこそ、細かな心配りを気にかけているのだそう。またMHLらしい素材と色使いが映える自然光を綺麗に取り込む大きな採光窓ができたことにより、これから店内で過ごす四季の変化も楽しみだといいます。

 シンプルで実用性の高いアイテムはもちろん、MHL代官山店で使われている什器やそのカラー、配置、音や空間、そして個性豊かなスタッフたちのブランドを支える様々な視点にぜひ目を向けてみると、いつもの買い物が少しだけ違ったものになるかもしれません。渋谷や新宿のような大きなファッションビルはないけれど、個性的で感度の高い個店が集まる代官山エリア。お腹が空いたらぜひ斜め向かいにある1967年創業の和食屋「末ぜん」へ。

  
  • MHL代官山店

    東京都渋谷区猿楽町 24-1-1F

    11:00ー20:00(不定休) TEL: 03-5489-5781

  • 及川壮也

    2016年アングローバル入社。現在は、本サイト運営のセクション長およびPRチームのサポート担当。カルチャーへの造詣が深い一方、やや自由すぎる発想と発言で周囲を「?」に巻き込みがちな一面も。