#WORK#LOGO

THE WORKING−仕事

文字を作る ガレス・ハーグ (タイプデザイナー)

VOLUME.1

ほぼ全ての人が仕事をする。
理由やその形はさまざまだけれど、それは生きる上でとても大切なことのひとつ。
時代とともに変化する仕事について知ることは、
今とその先のいろいろなことを“考える”きっかけになるかもしれない。
何か特別なことではなくて、さまざまな人たちの生業について見聞きしたいと思う。
知らない土地を旅するように。

Interview by Victor Leclercq (kontakt)
Edit by Runa Anzai (kontakt)

タイプデザイナー、ガレス ・ハーグ。2012年のロンドンオリンピック公式フォントをはじめ、〈PRADA〉や〈Dunhill〉といった歴史あるファッションブランドのロゴを手がけてきたタイプデザイナーだ。そんな彼の最新作が「Anglobal Community Mart」のロゴデザイン。彼はなぜ文字だけを専門的に扱う”タイプデザイナー”になったのか。「ANCM」のロゴはどのように生まれたのか。その理由が聞きたくて、ガレスの住むイギリス・ロンドンに電話をかける。早口ながら的確に、テンポ良く喋る。そんな第一印象だった。

― こんばんは。もしくは、イギリス時間ではおはようございます、ですかね?

ガレス イギリスはちょうど朝の10時です。この通話、テレビ電話に切り替えますか?

― お任せしますよ。

ガレス そうしたら、電話のままで話しても良いですか?

― もちろんです。普段は朝から事務所で作業を?

ガレス はい。最近はアメリカのクライアントとのやり取りが多くてバタバタしていて。あとは、ちょうど〈Dunhill〉の新しいロゴのデザインを終えたところです。伝統的なブランドのロゴだったので、フォントを少しだけ丸く、スムーズになるように調整しただけなんだけどね。

― 大幅に変えないのはなぜですか?

ガレス ロゴを変えることで良い方向に向かうこともあるけれど、それでアイデンティティが薄れてしまっては意味がない。例えば以前 〈PRADA〉のロゴを担当したときも同じようなアプローチでデザインしました。

2017年には〈PRADA〉のロゴのリニューアルに携わる。

2012年に行われたロンドンオリンピックの会場などで用いられた
アルファベットと数字のデザインを担当。

2018年にはアメリカ最大級のアートブックフェア
「New York Art Book Fair」のロゴを手がけた。

― 一方で「Anglobal Community Mart」では、ロゴを一から作り上げる作業だったと思います。

ガレス このロゴを作る上で、最初から頭にあったのは、本当にシンプルなアイディア。例えば、サイトの真ん中に配置される大きなロゴは、アルファベットを幾何学的にすることによって視覚的なアクセントを持たせました。それから、丸の中にA、N、C、Mの文字が配置されているロゴは、バラバラのアルファベットをひとつにまとめることで「ギフト」のように人に何かをプレゼントする、提供するというイメージを込めています。それが、アングローバルのお客様により良いライフスタイルを提案するという部分と共鳴すると感じました。

― そうだったんですね。

ガレス 丸いロゴはレイアウトする場所によって向きを変えて使うこともできるように工夫してあります。ちょっとした遊び心ですね。それから、「Anglobal Commnity Mart」のようなウェブを中心としたメディアは、いろいろなコンテンツが随時更新されていくので、ロゴは文字がわかりやすくて力強く、そして楽しいムードが瞬間的に伝わるものが良いと思いました。

1990年には、ロンドンを拠点とするラップコレクティブThe Sindecutsのレコード
スリーブのデザインを担当。大学卒業から1995年にデザイン事務所「alias」を
設立するまでは、主にレコードスリーブのデザイナーとして活動していた。

― 今までにさまざまなロゴを手がけてこられましたが、最初にデザイナーを志したのはいつだったんでしょうか?

ガレス 実は、特別なきっかけはないんです。でも、子供のころから音楽や洋服が好きで、よく近所のレコードショップやヴィンテージショップに出掛けていました。その頃からデザインやアートに興味を持ちはじめたんだと思います。

― 生まれ育ったのはロンドンですか?

ガレス はい。吸収できるものが周りにたくさんある環境でしたね。

― 大学でもアートを?

ガレス ボーンマス芸術大学という、イギリス南西部の海のある街で学生時代を過ごしました。その時に出会ったのがディビッド・ジェームス。今の会社の共同設立者です。

― 学生時代からの仲なんですね。

ガレス 一緒に働き始めたのは大学を卒業してすぐのこと。最初は、レコードスリーブのデザインが多くて、ちょうどその頃からタイプデザインをはじめました。自分だけのオリジナルフォントがあれば、他のレコードにないデザインを作ることができますから。

― とても自然な形で仕事になったんですね。

ガレス そうですね。そうしているうちに、アルファベットのフォント全てをセットでデザインするようになりました。どんな文字も自分のフォントでデザインできるのはすごく便利でね。フォントだけを使ったZINEを作りはじめたりして。その頃からかな、文字を作ることに集中するようになったのは。

― ディビットとは今でも仕事を?

ガレス 彼はフォントではなく、ビジュアル作りの仕事をすることが多いですね。同じデザイナーでも全く違うアプローチを持っているんです。

2005年に創刊されたイギリスのファッション・カルチャー誌
「Another Man」のタイトルロゴをデザインを手がけた。

「Another Man」の紙面には、ガレス が制作したフォントのグラフィック
ページが多数登場する。ファッションページの間にフォントのグラフィックを
取り入れるスタイルは、「Another Man」の象徴とも言える。

― 仕事をしている時以外の時間の使い方を聞いてもいいですか?

ガレス もちろん。小学生の娘がふたりいてね。仕事がない日は彼女たちを連れてドライブしたり、泊まりに行ったり、とにかくふたりがしたいことを一緒にする。休みの日は家族と過ごすのが一番だよ。

― 楽しそうですね。

ガレス 私生活では仕事やスタジオのあるロンドンから離れたくて、あえて郊外に住んでいます。できるだけ子どもとの時間を作りたいと思っているんですよ。

― ロンドンは忙しい街ですよね。他の場所にスタジオを持つことは考えましたか?

ガレス どの都市もエキサイティングだと思うし、できればもっといろいろな場所で仕事をしてみたい。タイプデザイナーは、パソコンさえればどこでも働けるからね。ニューヨークでも日本でも、どこでも働ける気がするよ。

― デザイナーとして大切にしていることはありますか?

ガレス 一番大切なのは、自分にしかできないことを見つけること。どれだけ技術が素晴らしくても、自分だけのアイディアを持っていないといけません。それが自分らしい仕事に繋がるんです。それはどんな仕事であっても一緒だと思います。映画を見たり、ファッションを楽しんだり、建築やアートに触れること、そのどれもがインスピレーションになり得る。そして、どこかで吸収したものが知らず知らずのうちに仕事に生かされていたりするんです。

― なんでもインスピレーションになり得ると。

ガレス そうですね。誰かと似たものを作っていてはダメ。自分にしかできない“何か”を追求し続けるのが私の仕事なんだと思います。

  • Gareth Hague

    ガレス ・ハーグ。イギリス・ロンドン生まれ。大学卒業後の1996年にデザインスタジオ「alias」を大学時代の友人とともに設立。以降、2012年ロンドンオリンピックのフォントデザインや〈Stella McCartney〉、〈Burberry〉など多くのファッションブランドのフォントデザインに携わる。