#FLOWER#ROOM

そこにお花があるだけで

INTERVIEW フローリスト チーコさん | 後編

VOLUME.2

そこにお花があるだけで、
この言葉のさきに続く言葉を探してみる本連載では、
フローリストの言葉にはじまり、
アングローバルのスタッフが身近な空間にお花を置いてみて、
生きものである花との付き合いかたをさまざまに実践。
暮らしに寄り添って咲く花は、人や空間にどんな変化をもたらすのだろう?
さまざまな角度から「花と人の関係」にアプローチしていきます。

Edit by Yoshikatsu Yamato (kontakt)

花と目が合う感覚

― インタビューの前編では、花のある生活の「豊かさ」とは? ということから、花と空間、花と感情との関係について伺いました。お部屋に活けるときのアドバイスとしては、「花と目が合う」感覚を意識してみるというお話でしたね。

チーコ その感覚って、みなさんも体験したことがあるような気がしているんです。

― え、そうなんですか。

チーコ 日本では、春になると花見を楽しみますよね。上を見上げて、桜、綺麗だなあ、と思う。なぜそうやって鑑賞しているかというと、桜は、花びらを下に向けているからだと思うんです。

― 言われてみれば……。

チーコ お花は空に向かって咲くイメージがありませんか? 桜は珍しくて、地上に向かってお花が垂れる。だから、下から見る人に、花の印象がダイレクトに伝わるんです。

― なるほど。

チーコ それぞれの花には「面」があるので、お花を飾るとき、まず、その花の面がどこに向かっているのかを観察して、特徴を捉えてみるといいと思います。

いい表情がトップなのか、横顔なのか

― お花の個性を見分けるコツはあったりしますか?

チーコ ざっくり、お花は2つグループに分かれるのかな。トップがきれいな花と、横顔が素敵な花。トップがきれいなものは、見下ろせるような長さにして生けて、横顔美人は長く活けてあげる。

トップがきれいな花

横顔が素敵な花

― とってもわかりやすいです。

チーコ 買ってきたお花を観察して、いい表情を探してみてください。私は自分のお店のインスタグラムに載せるため、写真を撮ることも多いのですが、写真でも、お花の面をしっかり撮ってあげないと魅力は半減してしまう。目が合うと、「かわいい!」「いいね!」「フォー!」とお花に言っていたりします(笑)。グラビアのカメラマンさながらというか、「おっいいね」みたいな。

― 楽しそうです(笑)。次に、自宅用のお花の買い方もお聞きしたいです。

チーコ そうですね。まずは、同じ種類を5本、はいかがでしょうか。長さはちょっとずつ変えて、リズムをつくってみる。目線が一点に固定されすぎないようにするというか。

季節や風景、写真や絵と花を紐づける

― 応用編というか、チーコさんならではのお花の楽しみ方についても伺いたいです。

チーコ 花について調べたり、自然のなかで花と触れ合う経験をしていくと、季節や環境が、花とセットになって想像できるようになるんです。花とともに、生息している環境、たとえば、花が受けてきた光や風をも呼び込んでこれるようになるというか。

― 花の周りの風景を想像する感じでしょうか?

チーコ そうですね。自然の風景を想像させるきっかけとして花を楽しむんです。これは昔からある鑑賞のしかたでもあって、お茶の席では、そこに飾る数本の茶花から、やってくる季節の風景全体を客人に想像させる、というおもてなしをするみたいです。

― 部屋に花を置く行為は、とても広がりのあることだと思えてきました。

チーコ ですよね。お部屋で、花を撮った写真集や画集を見て、参考にするのも楽しいと思います。たとえば、デイヴィッド・ホックニーという画家は、よく植物をモチーフに絵を描いているから、それを真似してみるとか。私自身がお花を選んだり、アレンジするとき、フォトグラファーのMOTOKOさんが撮影した林の写真集をめくって、こんな場所で咲いていそう、といったイメージの仕方をすることもあります。

― 絵画や写真などで、お花は普遍的な対象ですよね。画家の名前と一緒に「花」、「flower」なんかで検索してみると発見がありそうです。

MOTOKO『Day Light』(2003, ピエ・ブックス)

最初から花の魅力がわからなくてもいい

チーコ なにより、あまり気張らず、気軽な気持ちで花と関わってみるのがいいと思いますね。なんとなくピンとくるものを選んでみる、気持ちいいな、と感じるように活けてみる。

― あくまでも気張らずに。

チーコ 私が言いたいのは、お花のことを「わからなくってもいいよ」ということなんです。芸術や本、映画もそうだと思うけど、「わからない」というリアクションは全然ネガティブなものではなくて、「わかる日が来る」という希望がある状態なんですよね。で、その「わからない」という段階で「点」を打たないと、未来でやってくる「あ、わかった!!」っていう瞬間とも結びついていかない。

― なるほど。

チーコ だから、「お花はちょっと難しそう……」という印象があっても、まずは部屋に置いてみて、わからないな、ポチ、っていうのを打っておけばいいんです。なんとなくそれを繰り返していくと、「お花の魅力ってここかな」とか「自分はこの色が好きなのかも」とか「この形が好みだな」とか、すこしずつそんな瞬間が訪れると思うんです。

チーコさんのお花遍歴

― ここまでお話を聞いて、チーコさんご自身がどのように花と出会い、「脇役」の花に魅力を見出し、お店を開くまでに至ったのかが気になってきました。

チーコ 昔から花が大好き、というタイプではないんです。ただ、植物との接点は結構あって。

― 一番さかのぼってみた記憶ではいかがですか?

チーコ 幼稚園ですね。発表会で、将来の夢を宣言するじゃないですか。そこで「お花屋さん」と答えていましたね。本当に憧れていたわけではなくて、看護師さん、保育園の先生、ケーキ屋さんとか、ベタな選択肢のなかから、お花屋さんでいいか、と、その場を切り抜けるために選びました(笑)。

― どうなるか、わからないものですね。

植物の妖精との手紙

チーコ それと、小学校高学年のとき、観葉植物のベゴニアの妖精と文通をしていたんです(笑)。

― 妖精と? 詳しくお願いします(笑)。

チーコ ある日、担任の先生が急にカーテンを閉めて、教室を暗くしたんです。みんながシーンとなると、「今、ベゴニアの精が教室に来ています」と真面目そうに話して、「花の精が、このなかから花の大使を選びます」という謎の展開になって。で、もう、みんな信じちゃうんです、なぜか。

― 先生はあくまで真面目なトーンなんですね。

チーコ そうそう。先生はその妖精の通訳というか、伝達役。で、選ばれたのが私だったんです(笑)。ベゴニアに特別な思いもなかったし、断ったけど、精霊に選ばれているからには断れない、みたいな。なんかね、誰も疑えなかったんですよ。

― いわば、お世話係ですか?

チーコ いや、単純に文通相手というか、妖精に手紙を書く(笑)。

― その役目を先生がチーコさんに与えて、一体なんのメリットがあるんでしょう?

チーコ この話にはオチがあるんですけど、後日、その男性の先生が結婚を発表したんです。で、そのお相手がベゴニア農園の娘さん。私と同じ名前の方だったんです。知らないあいだに、私は先生の恋の進展のダシされていたと(笑)。

偏った園芸ライフのはじまり

― めでたしめでたし、ですね。

チーコ いやあ、怒りましたよ(笑)。あとはね、高学年の同じ時期、校長先生が変わったんです。白髪がお似合いで、掃除をはじめ、学校の美化活動をご自身でなさるような方で、あるとき、そんな校長先生が花壇を整えていて。

― はい。

チーコ で、なぜかは思い出せないんですけど、私は校長先生に近づいていって、手ほどきを受けたんです。黒のビニールポットから、横長のプランターに植え替える方法を教えてもらったんです。

― それはお花を育ててみたかったとか?

チーコ 先生への親近感ですかね、お花に魅かれていたというよりは。とはいえ、やり方を教わったし、園芸ライフが始まりました。スーパーで150円くらいの苗を買って、それをベランダで育てる。「ダスティミラー」という葉っぱを大量に育てていました。

― 1種類をひたすら。

チーコ そうです。すごく偏っていた(笑)。白っぽい葉っぱが気に入っていたのかな。

― 高校生のとき、お花屋さんでのアルバイトをなさっていたんですよね。そのころはさすがに花に特別な興味がありましたか?

チーコ いや、実はそれも消去法で(笑)。高校生ができるアルバイトは、コンビニとか、ファーストフードやファミレス、カラオケとか。自分には、どれもできそうもないなと思っていたとき、友達に誘われたんです。焦らず、喋りながらできるよって。

人為的なものに、すこし疲れてしまった時期

― では、チーコさんが花にたいして特別な思いを持ったのは、どんなきっかけからだったんでしょうか?

チーコ 大学時代はジャーナリズムを勉強していました。でも、それを学んでいく過程で、人が作り出しているものにあまり良いイメージを持たなくなってしまったんです。あ、これいいな、と思っても、戦略的だったり、人間のいざこざが絡んでいるのかも、と思うとげんなりしてしまって。心が震えても「本当」なのかを疑ってしまう。そんな疲れていた時期に、あらためて「安心して感動できるものってなんだろう?」と思って。

― お花が「安心して感動できるもの」かもしれないと。これは前編でもお聞きしましたね。

チーコ そうです。それで大学に通いながら、二年間、1人の先生に花を教わりました。卒業後はアルバイトで経験を積み、独立してからはお店を持たず、ポップアップで花を売っていました。

自身のスタイルに影響を与えた母の存在

― そうして、今は「脇役劇場」とお呼びになっているお店をお持ちでいらっしゃいます。小学生のときに育てていたのが「ダスティミラー」だったり、その当時から、フローラルなお花というより、草ものに惹かれていたのは、今のチーコさんとも繋がりそうなエピソードだと思いました。

チーコ 脇役のお花、というところでいうと、そこには母の影響があったように思っています。

― お母さまの。

チーコ 私の母はチェロを弾くんです。チェロの音色は、どちらかと言えば暗いというか、マイナーなトーン。私は子どものとき、明るいことや賑やかなことこそが良いことだと思っていましたが、母親は逆のタイプだったんです。たとえば、海水浴に行っても、静かに過ごしたいから、と、人が賑やかに集まっているとこは避ける。私は「えー」と思いつつ、最終的に、家族での海水浴は、静かな湖に行くことになったり(笑)。

― 湖に(笑)。お母さまは自分なりの心地よさの基準を知っている方だったというか。

チーコ はっきり言葉にするタイプではありませんでしたが、今思うと、「メインストリームに入っていなくても大丈夫」というのかな。母の行動は、そういうことを示していました。そんな母に贈りたい花、を考えたとき、フローラルな花はミスマッチかな、って思ったことがあって、今のお店でのセレクトにつながっているかもしれません。

― 花の好みがだんだんわかってきたら、自分も、その「好き」のルーツに思いを馳せてみたくなるようなお話でした。

チーコ 花を通して、自分の好みを発見したり、自分なりの心地よさや豊かさ、そういうものを探ってみるのは楽しい。最初は「わからない」で大丈夫で、お花を選んだり、飾り方をいろいろ試していくなかで、こっちよりこっちかな? と、だんだんわかってくる、というくらいでいい。

― 今回のインタビューでは、花を飾るときの具体的なコツだけでなく、お花にまつわるいろいろなエピソードをお聞きできました。ありがとうございます。

チーコ こちらこそ、ありがとうございました。

続く連載第3回では、お花のお世話方法を紹介します。花を買って帰ってから飾る前にしておくと良いことは? 花瓶に入れる水の量は? 日々のお手入れ方法は? など、お花と気持ちよく過ごすためのひと工夫をお伝えします。

  • Forager

    西原店

    東京都渋谷区西原2-26-5
    パールマンション101

    TEL 0368757141

    INSTAGRAM @forager_nishihara_tokyo

    下北沢 小屋

    東京都世田谷区代田5-1-16

    TEL なし

    INSTAGRAM @forager_tokyo

    *営業日と営業時間については各店舗のインスタグラムにてご確認ください。