#FLOWER#ROOM

そこにお花があるだけで

INTERVIEW フローリスト 壱岐ゆかりさん

VOLUME.6

そこにお花があるだけで、
この言葉のさきに続く言葉を探してみる本連載では、
フローリストの言葉にはじまり、
アングローバルのスタッフが身近な空間にお花を置いてみて、
生きものである花との付き合いかたをさまざまに実践。
暮らしに寄り添って咲く花は、人や空間にどんな変化をもたらすのだろう?
さまざまな角度から「花と人の関係」にアプローチしていきます。

Photography by Yuri Manabe
Edit by Yoshikatsu Yamato (kontakt)

フローリスト チーコさんのインタビューに始まり、生花のケア方法や、自宅での活け方ドライフラワーの楽しみ方を紹介してきた当連載。今回は、渋谷・原宿エリアにお店を構える「THE LITTLE SHOP OF FLOWERS」(以下、リトル)オーナーの、壱岐(いき)ゆかりさんのインタビューをお届けします。

壱岐さんは、花屋をはじめて10年目。今は、今年からはじめたという畑に、旬の花を摘みに行く日々だそう。東京と山梨を行き来しながら、花のパワーや自然のサイクルを、今まで以上に実感し、さらに、お客さまとの文通や配達業務などを通じて、花屋としてのありかたを考え直す機会が重なったとのこと。後半では、そんな自粛期間中にも活躍したギフトフラワー、人と人とのあいだにある花について、話を聞きました。

―この連載は、家で過ごす時間が増えた状況を受けて企画がはじまりました。お客さまの来店が難しい期間の営業、いかがでしたか?

壱岐 3月から5月にかけては、配達が増えましたね。お客さまとメールや文通をして、ひたすら置き配をしていました。市場が不安定だったこともあり、農家さんとの繋がりが急激に濃く深くなり、お互い、声を掛け合って助け合いながらの営業でした。

―オーダーの内容に変化はありましたか。

壱岐 農家さんからの直送=「産直」であること、そして、ビビッドな色合いを求める傾向があったと思います。求められる彩度がぐんと上がった気がしますね。

―リトルさんとして、というか、花を売るご職業として、考え方に変化は?

壱岐 すごくありました。大きかったのは、お客さまとの強い関係性、生産者さんとの関係を前よりも濃く築けたことです。何百人ものお客さまと連絡を取り合い、定期的にお花を届けるうち、身近に感じてもらえる花屋の立ち位置をつくることができた。それと、今年の春に、リトルで山梨に畑を持ち、育て、収穫をするという動きをスタートさせたんです。

―自分たちの畑を?

壱岐 そうなんです。季節の移ろいとともにせかされるように、花を摘みに行っています(笑)。初年度なので、思い通りにいかないことも多いのですが、それがかえって心地いい。

―思い通りにいかないこと心地いいのですか?

壱岐 そうですね。たとえば、今日のように雨が降ったり、逆に太陽が強かったりで、予定より早く咲いたり、遅く咲いたりするんです。測れない事態をどう自分が感じて受け取り、行動するか、が面白く思えるようになってきたのかもしれません。きちっと予定を立てる仕事ももちろんありますが、「こんなにはやく咲いちゃうの?!」という戸惑いや、「なかなか咲かないなー」と待ち焦がれたりしながら、旬な花に出会う。そしてそれを届ける。それが気持ちいいなあと。

―花のサイクルに身を任せて動くというか。

壱岐 まさにそんな感じですね。私たちは、良くも悪くも東京らしさのある花屋であるという自負はあったのですが、ただ、都会的な花屋さんという存在の仕方ではない方向性を、ここのところずっと探していて。今年で10年目だし、そろそろ変身しないといけないなと思っていたところ、偶然にも、そのことを考えざるを得ない状況になったし、行動に移さないといけなくなったことが好転するきっかけになったなあと。

―観葉植物の取り扱いもそうした流れのなかで決めたのでしょうか。

壱岐 そうですね。「リトル宅急便」という置き配をしていくなかで、観葉植物を届けて欲しいといご希望いただくお客さまの声は多く、同時に畑をはじめたこともあり、私たち自身が、土の種類にこだわり、土から芽が出て、それが育って、というプロセスにより身をもって知ることができ始めていたタイミングだったのかなと思います。

―自粛期間中に花を配達したときには、どんな反応が返ってきましたか。

壱岐 嬉しい反応や学ぶべき東京のリアルがたくさんありました。定期便でお花を届けていた家のお子さんが、私たちを「お花を届けてくれるお姉さん」だと懐いてくれて、玄関のドアノブにかけておいてくれる花を入れる用のバッグに、花の絵を置いておいてくれたり。お花の贈り物に安心して、涙を流す方もいましたね。東京には、遠方にご家族がいて、お一人で住んでいる方が結構いらっしゃる。あらためて、東京には、孤独と強さが共存していて、それがあるからこそ成り立つ街なんだなあと。その孤独と強さの支えとなれの1つとして、お花も一役担えるんだなって、自信も持てたし、責任も感じました。

―家族と会えなかったり、緊張感のある日々のなかで花が癒しになったのですね。

壱岐 花を自分たちの生活環境に取り入れる習慣をつけると、言葉にしづらいのですが、あたりまえの人間の感覚というか、そういうフラットな気持ちに戻れる気がします。また、この期間に私たちが感じたのは、思いのほか多くのお客様が、自粛期間中を過ごすための必要な要素としてお花を買ってくれたということ。自分のため、そして会えない友だちや家族のためにです。あの期間は家に居なくちゃいけなくて、気づくとネットやテレビに没頭してしまったりとか、ビデオ通話でも埋められないような寂しさとか、色々なつらさがあったと思うのですが、そういうとき、人々は花を選んでくれた。孤独や寂しさの中で自問自答し、失ってはいけない大切なコトって何だろう? という問いのさきに、お花という選択肢がこんなにも多くの方々にあったんだなあって。

―ギフトにせよ、自宅用にせよ、お花屋さんでの注文は慣れていないと難しいかもしれません。それが花を買うことのハードルになってしまったり。ギフトを頼むとき、花屋さんには何を伝えたらいいのでしょうか?

壱岐 贈る相手を想像できるようなエピソードや、好きなものやことを伝えていただけたらいいと思います。なんでもいいのですが、たとえば、好きな映画とか、着ている洋服のイメージだったり、趣味志向が想像できるようなポイントをお聞きしたいと思いますね。ただ、そういうことを話したくない方だったり、イメージを言葉にしずらい方にはお任せでもお受けしますし、お店では、1つ花を選んでもらって、それをベースに、作りながら方向性を定めていくこともよくします。あとは、イメージに近い写真を見せて頂くのも分かりやすい。今は、オンラインのフォームからもオーダーできます。

―そうか、注文が文章でできるんですね。

壱岐 ギフトに込めたい想いを花屋に話すのって、お客さまによっては恥ずかしいことですよね。オンラインで注文を受けて、お店でお渡しすることなんかもできます。

―なるほど。

壱岐 対面で言葉にするのは気恥ずかしくても、文章なら書きやすいこともありますよね。みなさん、すごく熱いし、ロマンチック。サプライズで渡したいから、花だと気づかれない包装やサイズにして欲しい、といったご要望などにも、できるだけ応えています。私たちは、言葉に花を添えてプレゼントをしたいという気持ちを信じているし、ロマンティックさに憧れてもいる(笑)。

―ギフトのお花をつくるとき、意識していることは何かあるのでしょうか?

壱岐 うーん、そうですね。私たちがしているのは「翻訳」である、という意識でしょうか。

―翻訳?

壱岐 贈る人の思いや、渡す相手への想像力をはたらかせて、できるだけ素敵に、旬の花をつかって、その気持ちをかたちにする。お客さまのイメージを汲み取りながら、それをどうやって変換できるのかを意識しています。

―このANGLOBAL COMMUNITY MARTを運営するアングローバル社は、顧客さまへのサービスとして、誕生日に、リトルから花束を贈るサービスをしています。その花束も「翻訳」によってつくられるのでしょうか。

壱岐 そうですね。アングローバルのバースデイフラワーは、お任せというかたちでつくるのですが、展開しているブランドのデザインや思想、お店に並ぶアイテムを選ぶ審美眼を花に置き換えたとき、どういう花束にすればいいのかを考えて、旬の花を織り交ぜながらつくっています。

今回、そんな誕生日の花束を実際につくっていただきました。ドライで楽しめる花や、日本のエッセンスを感じるような趣のある季節の花。それらを混ざり合わせつつ、アングローバルで扱うブランドの顧客さまを想像して、フェミニンにしすぎないテイストにするのが、バースデーフラワーの一つのテーマとのこと。

―お祝いの日のほか、お花を贈る、または自分に買うおすすめの機会はありますか。

壱岐 普通の日にこそ、花をおすすめしたいです。花屋さんではなく、スーパーでもいいんです。今は、月1でお花を届けてくれる定期便を行っている花屋さんが多いから、それもおすすめです。

―お花とセットにして買うといいものはありますか?

壱岐 贈り物ならば、相手にもよると思うのですが、渋谷のPARCOにオープンした店舗で提案しているのは、ワインと花のセット。お友達と会うときや普通の日に、あったらいいな、をお店にしました。特別な日の「おめでとう」もいいけれど、日々の「こんにちは」や「久しぶり」に寄り添うような花を提案したかった。花やワインは、なくなってしまうものですよね。だからこそ気楽だし、一緒に時間を過ごすときのアイテムにもなる。私たちのお店じゃなくても、人に会う前に、近所にあるお花屋さんに立ち寄る習慣ができたら素敵ですよね。

―自宅に持ち帰るにしても、ふらっと立ち寄れるお花屋さんが身近にあるといいですね。

壱岐 そうですね。花屋さんが、商店街の八百屋さんみたいになればといいな、と思っています。自粛期間中、配達のついでにお客さまとインターフォン越しにちょっとした世間話をする機会が結構あって。そのときに、なんというか、東京の花屋も、もう少し人々の生活に近づいた本来の姿に戻れるいい時期なのかもしれない、と感じました。オンラインでの注文や、デリバリーなどの方法を使って、ある意味で「東京らしく」、でも、もっとお客さまの日々の生活に寄り添っていけるはずじゃないか。コロナが一つの大きなきっかけになって、ちょっとしたお花のパワーをさらに実感したし、そのパワーに共感してもらえることも増えました。人が、花や植物と暮らしていた時代のことを取り戻す、というと大げさかもしませんが、本当に、そういう機会になるかもしれない。そんな根本的なところに立ち戻りつつ、日々の引き立て役として、花屋を続けていきたいと思っています。

連載「そこにお花があるだけで」は今回が最終回。「そこにお花がある」。それがきっかけになって起きる変化を楽しむ。さらにその前後、たとえば、花屋さんとコミュニケーションだったり、花のお手入れが習慣になる。

忙しくてなかなか花を置けないときもあるだろうし、花がはやく枯れてしまってがっかりする日もあるかもしれません。ただ、そうして自分の思い通りにならない自然が生活のなかにあることで、ふっと肩の荷が降りるような感覚もある気がします。花でも置いてみようかな、そう思ったとき、自分にフィットする花に出会うためのヒントとして、この連載を読んでいただければと思います。