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より道のススメ | 福岡編

可愛い禅画を見に福岡市美術館へ

VOLUME.3

世界中のさまざまなカルチャーが交わる福岡のセレクトショップDice&Diceで店長を務める藤雄紀さん。
このエリアを一緒に盛り上げていこうと、地域との繋がりを大切にしてきました。
個性的なキャラクターの先輩に教えてもらった穴場のお店から、初めて福岡を訪れる方にお勧めしたい名店まで、
藤さんが愛してやまないより道スポットを紹介していきます。

Text by Yuki To (ANGLOBAL)
Edit by Yoshikatsu Yamato(kontakt)

趣味を聞かれると、ぼくは、「サーフィンとキャンプを少々」と言うようにしています。そう答えると、健康的で活発な印象を持ってもらえるからです。実際に早起きをして、冬の海に飛び込んだり、土砂降りのなか、わざわざタープを張って焚火をして「これもキャンプの醍醐味だ」なんて言ったりしたこともありましたが、本当は、そういう大変なことは、あんまり好きじゃないのです。実のところ、ぼくは出不精でけっこう根暗なので、どちらかといえば苦労がなくて、空調が効いていて静かなところが好きなのです。でも、ただ家でじっとしていると人生を無駄に消費しているような罪悪感を感じてしまい、かえってソワソワしてくるので、暇なときは努めて家を出て美術館や博物館へ出かけるようにしています。

なかでもよく行くのが、福岡市美術館です。清潔で、空調も完璧に管理された空間なのはもちろんのこと、館内には、座り心地のよさそうな革張りの椅子がところどころに置いてあり、好きな時に座って一息つくことができます。もちろんBGMはありませんし、基本的にはみんな無言で、しゃべる時はこそこそ話すので、とても静かです。根暗な僕にとって、この誰も干渉し合わない静かな空間はとても居心地が良いです。展覧会だけでなく、館内のカフェでお茶も飲めますし、建築もかっこいいので行くだけで楽しめます。街なかに近いというのも、ぼくがよく行く大きな理由のひとつで、福岡の中心、天神エリアから頑張れば歩いて行ける距離なのも嬉しいです。

建築家の前川國男さんが手がけた建築は、引いて見ると、箱型のいわゆる「モダニズム建築」の佇まい。近寄ると、赤茶色の磁器タイルは一枚一枚、釉薬のかかり具合が違っており、角度を変えて見るとさまざまな表情があらわれて、それぞれが微妙に異なる光りかたをします。同じ壁面でも、タイルの貼り方や寸法には工夫が凝らされていたり、ベランダを見ると、タイルの寸法ががぴったり収まっています。  

コンクリートの柱や壁面は、「はつり加工」という表面をノミで削ったとても手のかかる加工が施され、コンクリートでありながら温かみのある質感に仕上がっています。手すりや窓枠の金属も、最近の簡素なものとは違って重厚で、存在感があります。モダニズム建築には珍しくアーチを描いた窓は、その窓枠による割り方がとても美しく、そんなディティールを眺めながら、「建築も人が作ったものなんだな」と感じられるんですよね。

建築を見るだけでも十分に楽しめますが、当然美術館なので、美術品もたくさんあります。世界的に見てもレベルの高いコレクションが揃っていて、どこかで一度は聞いたことのある作家の作品がたくさん収蔵され、コレクション展を見るだけでいつもお腹いっぱいに。

初めは真面目に鑑賞していたと思います。しかし、なんどもなんども見ているうち、見慣れてきてしまい、見方がすこし変わってきました。例えば、作品名が作品とかけ離れているものを見つけては、「どこがだよ」と心の中でツッコミを入れてみたり。もしこの作品が手に入ったら家のどこに置こうかな、と考えてみたり。そうして、同じ作品を何度も見ることができる常設展ならではの楽しみ方を、自分なりに発見しています。これが「正しい」鑑賞の仕方だとは全く思っていません。しかし、視点を変えて違う楽しみ方ができるのも美術館の魅力だと、ぼくは思っています。こうした、おおらかさのある空間が、ぼくにとっての福岡市美術館なんです。

仙厓義梵《犬図》 江戸時代 19世紀

ところで、福岡市美術館にある作品のなかで、ぼくが一番好きなのは、仙厓(せんがい)というお坊さんが書いた禅画です。仙厓は、博多にある日本初の禅寺と言われる「聖福寺」の住職で、館内のミュージアムショップでも関連商品がいろいろ販売され、まさしく、「福岡市美術館の顔」。それを一番好きな作品にあげるのは、ミーハーな感じがして、あまり声高には言いたくありませんが、可愛くて仕方がないです。絵を見るたびに、ぼくもこの絵のように正直に生きられればいいのに、と感慨深く思ったりしています。

昨年、福岡市美術館は大規模な改修工事を行い、リニューアルオープンしました。しかし、ほとんどの部分は元のまま残っています。前川國男さんが福岡市美術のためにデザインし、天童木工が制作した館内の家具も、そのまま修理して再利用されています。リニューアル前は大濠公園からは直接見えないつくりだったのが、公園側から入りやすいアプローチが出来て、より利用しやすくなりました。新たな玄関口はまだ出来たての雰囲気ですが、時が経てば元の部分と馴染んできてくれるのでしょう。

運動不足が心配な年齢にもなり、もっと積極的に運動しなければいけないな、と思い始めています。サーフィンもキャンプも、地道に続けていこうとは思ってはいますが、それとは別に、僕の心の安寧には、静かにゆっくりできる場所が必要です。これからも、口では「サーフィンとキャンプ」といいつつも、福岡市美術館に通い続けることになりそうです。

  • 福岡市美術館

    福岡県福岡市中央区大濠公園1-6

    TEL 092-714-6051

    火水木金土日 9:30-17:30

    7月〜10月の金・土曜日は20:00まで開館

    ※入館は閉館の30分前まで

    /年末年始 休

    ※月曜日が祝日・振替休日の場合はその後の最初の平日に休館

  • 藤雄紀

    22歳でダイスアンドダイスに入社。個性的な先輩たちに揉まれて20代を過ごし、

    現在は頼れる店長としてスタッフから慕われる存在に。趣味はサーフィンと読書で、

    友人と文芸同人誌を自費出版し、福岡の文学系イベントで販売も行う。

    また最近キャンプを始め、多方面に手を伸ばしながら才能花開くフィールドを模索している。