#WRITING#NOTE

ウラカタログ

着る楽しさから書く楽しさへ −カキモリとつくるオリジナルノート−

VOLUME.10

普段目にすることのない側面にフォーカスして日々のなかで考えるきっかけを探していく「ウラカタログ」。
今回はセレクトショップTHE LIBRARYが東京・下町にお店を構える文具店「カキモリ」の協力のもと考案したある特別なノートについてのお話。
カキモリ代表の広瀬琢磨さんと、本企画の担当であるアングローバルの川瀬桂さんの対談をお送りします。

Photography by Eri Kawamura
Text by Soya Oikawa (ANGLOBAL)

東京の下町で古くからものづくりが盛んなエリアとして知られる蔵前に「カキモリ」という文具屋さんがあります。今回、そのカキモリとTHE LIBRARYが一緒にあるノートを作って神戸と自由が丘のお店でおもしろそうなワークショップを企画しているそうです。はたしてどんな内容なのか、特別に打合せに同行させてもらい話を聞いてきました。

さっそくですが「カキモリ」とはどのようなお店なのでしょうか。

広瀬 書くきっかけを作る文具店です。想いを伝えるために「書く」のは、本来とても楽しいことなのですが、一方で、今はいろんな言葉が氾濫してしまっていますよね。そんな考えから、書くための道具としてのノートやペン、インクなどを中心に、書くことが楽しくなるようなさまざまなアイテムを扱い、自分の言葉で想いを伝えることの大切さを見つめ直すきっかけづくりをしています。また、そうした文房具たちをカスタマイズできるというのもカキモリの特徴です。

―THE LIBRARYとカキモリさんの出会いとはいつどのようなものだったのでしょう?

川瀬 もともとアングローバルとしてお付き合いのある革製品の会社がこの近所にあって、訪れるたびに、下町のものづくりや蔵前の様子を聞いていました。カキモリさんのこともその中で教えていただいて、ある日の帰りに寄ってみたら、想像以上に素敵なお店でワクワクしたのを覚えています。カキモリさんは「書くたのしさ」という視点からコミュニケーションや物語の魅力を広めるような活動をされていると思うのですが、一方で私たちは衣服をメインに扱っていて、素材やデザインや生産者にまつわるストーリーなども一緒にお客様にお伝えてしているんですね。衣服と文具とで、扱っているアイテムは違うのだけれど、なにか繋がるところがあるんじゃないかと、感じました。そして後日あらためてカキモリさんのウェブサイトのインフォメーション宛てに「ご一緒にワークショップできませんか」とメールを出したところ、すぐに広瀬社長から返信が届きました。その中でとても具体的なアイデアが書かれていて「これはいけるぞ!」と思ったのがちょうど1年前くらいです。

すぐにご返事をされたということでしたが、問い合わせのメールを受け取っていかがでしたか。

広瀬 まず社内が盛り上がりました(笑)。アングローバルさんで扱っているブランドが好きなスタッフがもともと多かったんですね。今までアパレル会社さんとの取り組みはなかったのですが、せっかくいただいたお話で嬉しかったですし、とにかく形にしなくてはとご返信しました。そのなかに、「残反」「はぎれ」をつかったノート作りのアイデアがあったんです。確かそうでしたよね?

川瀬 はい、とても刺激的なご提案でした。その後アイデアが実行できそうかどうかという社内での確認が無事に済んで、「できそうです、是非お願いします」となったのが年明けぐらいでしたでしょうか。それからは、このコロナ禍でなかなか実行に移せない時期もあったのですが、企画だけは止めずに少しずつ実現に向けて進めてきました。

なるほど。コロナ禍もあって時間がかかったけれど、いよいよ実行される段階に来たのですね。いま、テーブルの上にあるのは生地のサンプルのようですが。

川瀬 これはアングローバル内のいろんなブランドの製品を作った際に出る「残反」、パターンを取った際に出る「はぎれ」です。私たちはパッと見て、どの生地がどのアイテムかっていうのがわかるんですけど、それを主張するのではなくて、色合わせや素材感から感覚的にカスタマイズできるのが良いなと思っています。洋服としてデザインされ、各ブランドの世界観を体現しながら販売された生地の一部を、あらためて「素材」としてシンプルに捉える。それが、ノートの表紙という新たなかたちにかわり、お客さまの日々の「書く」をお手伝いする。カキモリさんのアイデアによって、私たちなりのアップサイクルが出来るのではないかと楽しみにしています。

それぞれ数は少ないのでしょうか。

広瀬 そうですね。今回はアングローバルさんが用意してくださった、はぎれを使ったノート作りなので、それぞれ限られた冊数分しかないものになります。

川瀬 ワークショップで選んでいただけるものとは別に、既製品として5種類のノートを販売する予定です。それは表紙と裏表紙が同じものを合わせてご用意するのですが、ワークショップではそれ以外のリングや留め具の色の組み合わせを楽しんで選んでいただけるように用意しようと思っています。

カキモリさんではノートの表紙に紙ではなく生地を用いるというのは普段からやられてきたのでしょうか。

広瀬 はい。紙の表紙の方が圧倒的に多いのですが、生地を貼り付けたものもあります。それは下地となる紙の上から生地を貼るのですが、そのための加工がされているものを使用します。でも今回は、その加工がされていない段階からの準備なので、手伝ってくださる職人さんを探すのが大変でした。いろんな種類の生地を表紙に使うのは機械だけでは対応が難しいんですよね。取り都合や生地の打ち込みの強さだとか、一枚一枚、手探りが必要でした。残反ならではですけど、失敗しちゃったらもう次の予備の生地は無いので「失敗できないんですけど・・・」と言うと、断られちゃうことも多くて(笑)。でも何とかいろいろ人づてにあたって、あるベテランの職人さんにお願いできたんです。

思った以上に難しそうです。紙に生地を貼るための加工とは?

広瀬 「裏打ち」と言われる工程ですね。紙貼りの裏打ちというのかな。生地の裏に芯を貼る工程です。引き受けてくださった職人さんも墨田区の方なので、同じくものづくりが盛んなエリアなのですが、そういった職人さんもどんどん減ってしまっていて、お願いできるだけでもラッキーでした。ひょっとしたらそれが今回の一番のハードルだったかもしれません。アングローバルさんに提案はしたものの、誰も受けてくれる職人さんがいなかったどうしようかと肝を冷やしましたね(笑)。でもそういう小回りがきくのが下町ならではというか、大きなお仕事だけが回る世界とはまた違った交流があるのが、この街の魅力かもしれません。出来上がってみれば一見シンプルな表紙なんですけど、それまでにいろいろなハードルがありました。

アングローバル内のブランドのアイテムに使用された生地の「はぎれ」

生地をまとったノートの表紙たち。衣服とはまた違った印象に。

川瀬さんはお仕事の中でこれらの生地を「衣服」として扱ってきたわけですが、今あらためて目の前に「ノートの表紙」として存在しているのを見ていかがですか。

川瀬 そうですね。それぞれの生地に今まで自分たちがやってきた仕事のストーリーが宿っていて、こういうものになり得る可能性があった生地なんだなぁと感慨深いです。特に、商品としてはトランクスに使われた生地は、ある意味新鮮(笑)。まじめに言えば、「生地としての用途って、とても自由なんだな」みたいなことをすごく考えさせられます。

なるほど。広瀬さんは実際にサンプルが出来上がってみていかがですか。

広瀬 今までは「文房具を選ぶとき」と「服を選ぶとき」には、決定的な違いがあるように感じていました。文房具は毎日使うものなのに、衣服ほどこだわらないというか、道具として実用面だけで選ばれていることが多いと思うんです。素敵な装いをしている方でも、ペンはその意識やルールの外にあったりとかっていうのを感じていました。なので今回この機会をいただいて、普段お客さまにお薦めしていることを広げられるのかなと思っています。まるでシャツをお勧めするようにノートをお勧めできたら、ちょっとおもしろいですよね。文具を語る時に話す言葉と、衣服を説明するときに話す言葉が交わる機会になるような気がしています。

文具と衣服が同じような言葉で語られるというのは確かに面白そうです。それではノート本体のことについても教えていただけますか。

広瀬 サイズに関してはカキモリでは通常2サイズで展開していて、中の紙を交換できるようにしているんです。今回は持ち歩くのに便利なB6サイズ。特注のサイズだと使い続ける継続性が難しくなってしまうのですが、既製品のサイズでしたら来年以降もずっと使っていただけるので。また、中の紙は「バンクペーパー」という紙の予定です。銀行の「バンク」です。以前はすべてが手書きだった時代に、細かい字を扱う業務に最も合うとされていたのがこの紙で、もとは銀行で使われる帳簿用紙だったんですよ。

紙も用途によっていろいろな専門性があるんですね。方眼紙にしたのはなぜですか。

川瀬 方眼にしたのはTHE LIBRARYみんなの総意で、そうすれば縦でも横でもどっちでも好きに使っていただける自由さがあるのかなって思ったんです。

広瀬 これは約5mmの方眼なのですが、実は、この線は万年筆で手書きで引かれたものをデータ化しています。わずかに歪んだりしていて、目に優しい。あまりに正しすぎると、目がチカチカしてくるんですよね。

使い手のことをとても考えて作られているのですね。

広瀬 先ほど川瀬さんから、縦でも横でも、というお話がありましたが、まさに自由に、文字以外も何でも書いてもらいたいです。カキモリのスタッフのノートの使い方を見ていると文字と一緒にイラストやデッサンを描いているスタッフが多いんですよ。メモとか記録といった実用面だけじゃなくて、表現というか、その時の気持ちのようなものも一緒に、ノートに手書きで記すっていいなって思うんです。

今回のTHE LIBRARYとカキモリによるノート作りのワークショップは9/19(土)より順次開催予定とのこと。場所や日時、また既製品の取り扱い店舗など詳しくはこちらをご覧ください。

アングローバル内の各ブランドの商品の製造工程から出た余剰生地をノートの表紙としてアップサイクルさせることで、着る楽しさと書く楽しさを交叉させようという試み。ぜひみなさんもお気に入りのノートを見つけてみてください。

  • カキモリ

    世界中の書きびととの出会いを求めて、東京・蔵前にお店を構える文具店。たくさんの種類の紙から自分好みのノートをカスタマイズできるほか、世界中から集められたペンや文具が迎えてくれる、まさに書く楽しさに出会えるお店。すぐ近くにある姉妹店「インクスタンド」ではインクのオーダーメイドも可能。

  • THE LIBRARY

    ファッションの純粋な楽しさや好奇心の感触がある場所として、グローバルな視点から服、ライフスタイルグッズ、書籍などが並ぶセレクトショップ。今回の「カキモリ」とのノートやワークショップに関する詳細はHPや公式インスタグラムをご覧ください。